撮影監督、編集、ドキュメンタリーカメラマンとして10年間ハリウッドで下積み時代を経験。その後、『バニーゲーム』(10年)で監督・脚本デビューを果たす。過激な内容で物議を醸したが、PollyGrind映画祭で撮影賞、編集賞などを受賞し、40以上の映画祭で上映されるほど話題となる。現在は、デイヴィッド・ランカスターのランブル・フィルムズと共に『HEARTLAND』というミニシリーズを企画中。ほかにもドキュメンタリー作品『Elegy for an American Dream』に取り掛かっている。
『ディナー・イン・アメリカ』アダム・レーマイヤー監督インタビュー
ベン・スティラーが絶賛! インディーズ映画から誕生した新たな傑作
どんなジャンルでも、自分のすべてを注ぎ込んでいる
俳優としてだけでなく、プロデューサーとしても活躍しているベン・スティラーが惚れ込んでプロデュースを手掛けたインディーズ映画『ディナー・イン・アメリカ』が、アメリカに先駆けて日本で先行公開を迎える。本作は2020年のサンダンス映画祭オフィシャルセレクションでの上映をはじめ、各国の映画祭を賑わせている話題作だ。
主人公となるのは、孤独な少女パティと警察に追われる“覆面のパンクロッカー”サイモン。出会うはずのない2人が社会の偏見をぶっ飛ばして恋に落ちる姿を描いたアナーキック・ラブストーリーとなっている。そこで、『バニーゲーム』(10)で衝撃的なデビューを飾り、本作の監督・脚本・編集を務めたアダム・レーマイヤー監督に、完成までの過程やキャスティングの裏側について話を聞いた。
監督:まず、サイモンのキャラクターを思いついたのは、2006年の雪が降っていた日のこと。雪かきのトラックが走ったあとの道を散歩していて、コンクリートの上を歩く自分の靴音を聞いていたら、サイモンというキャラクターの造形や身のこなしが音のリズムに乗ってパッと浮かんできたんです。そのときに脚本の10ページ分を思いつくままに書き上げました。
それからあれこれと考えを巡らせたのですが、いわゆる“ライターズ・ブロック”というものに陥ってしまい、何も思い浮かばなかったので、そのあと数年間寝かすことにしたのです。
監督:実は、サイモンのことを書く前から『ディナー・イン・アメリカ』というタイトルで、パティとその家族を描いたストーリーを書いていました。そこで、「サイモンとこの作品を合体させたらおもしろいかも」と思いつき、2つの企画を一緒にしてみたんです。ただ、書いていくうちにサイモンが『ディナー・イン・アメリカ』をハイジャックしてしまうような状態にはなってしまいましたけどね(笑)。
その結果、これまでとは違う作風になりましたが、僕は楽曲を書くように脚本を書いているので、どちらの作品においてもリズム感のようなものは同じものがあると思っています。どんなジャンルでも、自分のすべてを注ぎ込むアプローチの仕方やエネルギーは一緒なんです。
監督:ふたりともこの映画に全身全霊を捧げてくれたので、いい共同作業をすることができました。まずは僕が空港まで2人を迎えに行き、一緒にディナーを食べて、翌日から早速音楽のレコーディング。リハーサルは、2週間ほどかけて行いました。
初日はカイルとパンクの楽曲に取り組み、2日目はエミリーが歌う楽曲、といった具合に進めていきましたが、その2日間を経ただけで3日目にはこの映画がどういう方向を目指しているのか3人の間で示しがついていたほど。監督としては、とてもやりやすかったですし、彼らのことを本当に尊敬しています。
音楽を通して、俳優たちとの間にあうんの呼吸が生まれた
監督:お互いのことを知るうえでカギとなっていたのは、音楽。現場では音楽を通して、テレパシーのように直感的に相手が考えていることがわかるくらいまでの関係になっていたんじゃないかなと思います。それによってあうんの呼吸が生まれましたが、一緒にアートを作り上げるうえでは、そういった共同作業が必要だと改めて感じました。
監督:あの曲は僕が彼女と一緒に書き、僕が楽器を演奏して、彼女が歌っています。エミリーはブロードウェイでも舞台をしているほどですからね。歌詞は彼女がパティというキャラクターになりきって、何ページにも及ぶほど書いてくれました。そのなかから良い部分を選び、2人で再構築して作っています。即興的に聞こえるようにしたかったので、映画で使っているのは2テイク目に撮ったものです。
脚本には「パティが大きな声で歌った」と書いてあっただけなので、プロデューサーたちがどんな楽曲なのかを気にしてましたが、僕にとって一番重要だったのはどんな女優がパティを演じるかということ。何よりもそれ重視していましたが、エミリーがピュアに歌うことで見事に仕上げてくれたと思います。
監督:僕はパンクだけでなく、実はいろんなジャンルの音楽を行き来しながら作曲することが多いんですよ。この楽曲に関しては、エミリーとレコーディングをする前日にシャワーを浴びているときに鼻歌として歌っていた曲がアイディアの発端。ストーリーのうえでは20分で作った曲となっているので、信憑性を持たせるためにもあえてシンプルな曲にしました。あとは、ミュージシャンではないカイルのスキルでも対応できるような楽曲にすることも意識して作っています。
監督:サイモンと合体させる前の『ディナー・イン・アメリカ』の段階では、パティは皮肉屋で反抗的なキャラクターだったので、どちらかというとサイモンに近いところがありました。ただ、攻撃性の高い2人を並べてしまうとつまらなくなってしまうので、サイモンを登場させたことで、パティの性格を引き算して受け身の要素を増やしていくことに。
そうやってお互いを補い合うようなキャラクターを作り上げました。生まれたときから周りに「No」と言われ続けた女の子からサイモンが何を引き出すことができるのか。そういう2人の関係性を描くほうがおもしろいと思ったのです。特に、モデルはいませんが、僕が生まれ育ったアメリカ中西部にはパティのような女の子はたくさんいたので、そういうところから影響されている部分はありますね。
監督:カイルを知ったきっかけは、僕の友だちが制作していた映画のオーディションに彼が参加していたからで、最初に惹かれたのは彼のある写真でした。それはカイルがFacebookのプロフィールに使っていた写真ですが、魅力的な目とジェームズ・ディーンのような繊細さを持ち合わせたカイルを見て、ぜひ出演してもらいたいなと。
そこで、人を介して彼に脚本を送ることにしました。当時はテレビシリーズに出演していたときで彼も忙しかったのかもしれませんが、そのあと1〜2回リマインドのメールをしてもまったく返事がない。なので、一度は諦めて違う人をキャスティングしようとしました。ただ、この作品自体がキャストを集めては頓挫するということを繰り返してしまい、気が付いたら3年が経っていたんです。
監督:ちょうどその頃、本作の撮影監督を務めているジャン=フィリップ・ベルニエが別の作品をルーマニアで撮影していて、その作品に偶然カイルが出演していました。そこで、彼がカイルに「実は僕の友だちが『ディナー・イン・アメリカ』という作品を撮ろうとしていて、君に出てもらいたいと言っているんだけどどう?」と伝えてくれることに。
そしたらカイルが3年前のメールを引っ張り出してすぐに脚本を読んでくれ、「これは素晴らしい脚本だ」ということで、翌朝には僕に電話をくれたんです。ただ、いまでも「お前は俺を3年も待たせたんだよ」とカイルにしょっちゅう言っていますよ(笑)。
監督:色々なパズルのピースが上手く合わさって今回の企画がようやく完成に至ったわけですが、後から振り返ると、そのなかでもベンとニッキー・ウェインストックがプロデューサーとして参加してくれて、どれだけ力になっただろうかと思います。そういう意味でも大変感謝していますし、この作品にとって2人は本当に欠かせない存在になりました。
脚本を読んだ瞬間に理解し、信じてくれるということは滅多にないことなので、監督の僕を信頼してくれたこともすごくありがたいと思っています。ベンはプロデュース業を含めて30年余りのキャリアを誇る方なわけですから、そういう彼がプロデューサーとしてサポートしてくれたことが僕にとっては意義深いことだったなと。彼は僕の作品に限らず、新人監督や色々な才能をサポートしているようですけれど、それは本当に素晴らしいことだと思います。
監督:僕はこの映画をミックステープのように作りたいと思っていました。たとえば、荒い音楽を聴くと、本能的に歌詞が不快に感じるけれど、往々にしてそのなかに含まれたメッセージはスイートだったりソフトだったりしますよね。そんなふうに、笑わせたり泣かせたり、イヤな気持にさせたりと起伏のあるミックステープみたいになっているんじゃないかなと。
もう一つは、パンクのトーチを次の世代や別の人に渡すという意図も込めています。サイモンの人生に斜陽があるように、僕たちの人生にもそれぞれ斜陽がありますが、だからこそ人生を謳歌し、良いレコーディングが必要なんじゃないかと思っています。
(text:志村昌美)
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