1960年、パリ近郊のシュレンヌ出身。16歳で学校を中退、映画批評家としての活動を経て、23歳で長編映画3部作を撮り始める。デビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』(84年)では、サイレント映画とコクトーの世界観、ゴダールの映画にオマージュを捧げた。続く『汚れた血』(86年)では、ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ、ミシェル・ピコリを主演に迎え、激しい感情表現のスタイルを確立、初めて国際的な成功を収めた。91年に3部作の終止符として発表した『ポンヌフの恋人』は、情熱的な愛の讃歌としてフランス映画の伝説的作品となった。以後、8年間に渡って沈黙するが、『ポーラX』(99年)でカンヌ映画祭のコンペティションに復帰。さらにオムニバス映画『Tokyo!』(ミッシェル・ゴンドリー、ポン・ジュノとの共同監督)に参加、『ホーリー・モーターズ』(12年)でカンヌのコンペティションに返り咲いた。
『アネット』レオス・カラックス監督インタビュー
カンヌ国際映画祭で監督賞受賞! 8年ぶりの新作はミュージカル映画
出演者が撮影現場で実際に歌ったダークファンタジー・ロック・オペラ
カンヌ国際映画祭のオープニングを飾り、監督賞を受賞したレオス・カラックス監督の最新作『アネット』が、4月1日より全国公開される。
ロサンゼルス。攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップ・コメディアンのヘンリーと、国際的に有名なオペラ歌手のアン。“美女と野人”とはやされるほどにかけ離れた2人が恋に落ち、世間から注目されるようになる。だが、2人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。
アダム・ドライバーとマリオン・コティヤールを主演に迎え、カラックスが初めて全編英語でミュージカルに挑んだ本作。ロン&ラッセル・メイル兄弟によるポップ・バンド、スパークスの原案をもとに、劇中全編を歌で語り、全ての歌をライブ録音するというこだわりと、カラックス監督ならではの映像美が相まり、ダークでファンタジックなおとぎ話を繰り広げる。
35年間で発表した長編作品は6本と寡作ながら、その卓越した演出力と圧倒的な美的センスによって、世界に衝撃を与え続けてきたカラックス監督。『ホーリー・モーターズ』以来、8年ぶりとなる新作『アネット』で新境地のミュージカルに挑んだ彼にインタビューを行った。
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監督:曲を聴いてすぐに気に入ったよ。幸運だと思ったし、ありがたいことだとも思った。でも最初は、僕には撮れないと彼らに言ったんだ。個人的な心配があったからね。僕には幼い娘がいて、その時はまだ9歳だった。メイル兄弟が僕の人生について何一つ知らないにしても(と思うんだけど)、このあらすじは娘を動揺させかねないものだった。それに本当に“悪い父親”についての映画を、人生のこの時期に作りたいのか? もしくは作れるのか? だけど何度も何度も曲を聴いているうちに娘も気に入ってしまって「これは何?」と聞くんだ。それで説明してみたら、娘がもう多くのことを理解できていることに気がついた。だったら映画が完成する頃には(完成するとすれば)、きっとこの作品が生まれる経緯を理解できるだろうと思ってね。だから「イエス」と言ったんだ。
監督:音楽はとてもパーソナルなものだ。全ての曲の、全ての音を感じることができなければ、ミュージカルはできないと思った。特に映画全体をミュージカルにしようとしていたから、それが心配だった。普通ミュージカルは10~20曲の歌があって、たいていその半分は退屈だよ。でも僕らには40曲必要だった。僕が分かる40曲を用意し、それを撮る。しかもミューシャンじゃない人間が、どうやって音楽を扱えばいいんだろう?
でも、スパークスとの作業は奇跡的なまでにシンプルだった。彼らはとても独創的で、謙虚で、早くて、そのうえ独特のメロディーとリズムのセンス、メランコリーと歓びがある。彼らの音楽を長く聴いていたから、数十年ぶりに子ども時代の家に帰った気分だった。でも、幽霊はいないよ。
リスクはあった。どんなに曲が良くても、曲数が多ければ映画が甘ったるいケーキのようになるかもしれない。もしくは、大音量でずっと曲を流しているだけのジュークボックスに。そうなったら映画的体験が死んでしまう。だから全体のスコアにはとても慎重になる必要があったんだ。シーンをつないでいる時に映画の全体性を気にかけるのと同じだ。いわばこの映画に固有の自然な呼吸を見つける作業だよ。別の懸念は、僕が共感できるヘンリーをどう作り上げるかだった。それはまた、この“搾取”のコンテクストにおいて、本当の父と娘の関係を思い描くことができるのかということでもある。
ヘンリーをバイクに乗せてカウボーイのように移動させたかった
監督:映画の舞台をLAに想定してたんだ。メイル兄弟が暮らす、彼らの生まれ故郷だよ。制作の準備段階では、何度も何度もLA以外の場所へ舞台を移そうと言われ続けた。撮影に莫大な費用がかかるからね。他の都市で考えてはみたけど、同じようにうまくはいかなかった。
ヘンリーをバイクに乗せて、彼の世界からアンの世界へカウボーイのように移動させたかったし、ニューヨークやパリ、トロントでは成立しそうになかった。だからLAを再構築することにしたんだ。そのほとんどはベルギーとドイツ(全然カリフォルニアっぽくない国だ)で撮影してる。夢の都市の夢のバージョンだよ。LAでは1週間しか撮影しなかった。プロローグとバイクのシーン、渓谷と丘の間の森のシーンだけなんだ。
監督:映画を始めた頃は、主役の男優と女優をのぞいて、セットではいつも僕が最年少だった。それに多くの場合でスタッフは男性だった。でも今は、ほとんど反対になってる。僕がほぼ最年長で、スタッフはほとんど女性だ。ネリーとは2作目の時に会って、それ以来ずっと一緒に仕事をしている。他の編集者をほとんど知らないから、彼女の何が優れているかを言うのは難しい。でも彼女は素晴らしいよ。仲間としても、人としても。とても忠実で、とても寛大。ごくたまに喧嘩をすると終わらないけどね。
キャロリーヌと会ったのはもっと後になってからで、12年前に東京で撮った短編(『TOKYO!』(08年)の一篇『メルド』のこと)の時だよ。80年代に撮った最初の3作品はジャン・イヴだったけど、彼は突然LAで亡くなってしまって、もう彼なしでは映画を撮れないかも、いや不可能だと思った。それがキャロリーヌを通じて、デジタル映画を発見したんだ。それは悪夢でもあったけど、彼女のおかげで、僕自身を救う術となった。彼女にはとても世話になったし、それに彼女は別の意味でとても寛大で忠実な人だ。僕は映画でともに働く人たちに多くの時間を求める。キャロリーヌは『アネット』の撮影の3年前から動いていた。そんなことをしてくれるカメラマンは多くない。いや、他にいないだろうね。
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