1993年2月7日生まれ、東京都出身。2006年に俳優デビュー。主な出演映画に『桐島、部活やめるってよ』(12年)、第38回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞作『淵に立つ』(16年)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16年)、『南瓜とマヨネーズ』(17年)、『海を駆ける』(18年)、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(18年)、『今日から俺は!! 劇場版』(20年)、『生きちゃった』(20年)、『泣く子はいねぇが』(20年)、第76回毎日映画コンクール男優助演賞、第45回日本アカデミー賞助演男優賞、第64回ブルーリボン助演男優賞受賞作の『すばらしき世界』(21年)、『あの頃。』(21年/第64回ブルーリボン助演男優賞)、『ONODA 一万夜を越えて』(21年/第64回ブルーリボン助演男優賞)。などがある。ドラマは『ゆとりですがなにか』(16年)、『今日から俺は!!』(18年)、『あのコの夢を見たんです。』(20年)、『コントが始まる』(21年)、『#家族募集します』(21年)、『初恋の悪魔』(22年)などに出演。
沙莉ちゃんが来てくれれば、絶対良くなると確信/仲野
役者を目指して上京した青年が、自販機の下に落ちていた1枚の航空券を拾ったことから前途が大きく開かれる。個性豊かな人々との縁が次のステップへのきっかけに繋がり、運命の女性との出会い、渡米したきり音信不通だった兄との再会、そしてさらなる出会いを呼ぶドラマ『拾われた男』。
映画やドラマに欠かせないバイプレイヤー、松尾諭の自伝的エッセイが全10話にドラマ化され、Disney+とNHK BSプライムで毎週1話ずつ配信・放送中だ。
映画『百円の恋』『喜劇 愛妻物語』の足立紳が脚本、NHKのドラマ『その街のこども』や大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』などの井上剛が監督を務める、笑いあり涙ありのヒューマンドラマで、松尾の分身である主人公・松戸諭を演じる仲野太賀、ふられ続けた諭がついに出会った運命の女性・比嘉結を演じる伊藤沙莉に話を聞いた。
・『拾われた男』草なぎ剛、「言葉では表せないほどの感情がすごいぎゅっと詰まっている」
仲野:オファーをいただいたことに驚きましたが、松尾さん自身の人生に、こんなにもドラマティックで波乱万丈な出来事があったことにもとても驚きました。それを演出するのが井上監督で、脚本は足立紳さん……すごい布陣だなと思って、まずはそこにとても興味が湧きました。その後、松尾さんが書かれた本も読んでみて、とても面白かったんです。運と縁に引き寄せられながら、いろんな人と出会って諭が成長していく様と、恋人や家族、お兄ちゃんとの関係など。演じたら楽しくなるかもしれないと思ったし、俳優としての苦みとか悔しさとか、とても共感できて。なおかつ松尾さんという人のことをちゃんと知れて、愛さずにはいられないような人なんだな、という印象を持ちました。そういうキャラクターの魅力もあって、「ぜひやらせてください」とお返事しました。
仲野:なかったですね。実は松尾さんとはほぼ面識がなかったので、「なんで僕なんだろう?」と思ったりもして。でも、松尾さんとお会いしていてもいなくても、プレッシャーを感じることはなかったと思います。原作そのものがすごく面白かったので、台本通りやれば、面白くなれるかな、という感じがしていました。
伊藤:そうなんです。本を書いていると聞いていて。緊急事態宣言の時にリモート飲みをしていたら、そこで松尾さんが「これやねん」と本を提示してきて(笑)、「やらせたい役があんねん」みたいな感じでおっしゃっていたんです。いただいた本を読んでみて、我ながら(笑)、松尾さんの奥さん役だと思ったんですよ。なのに、松尾さんが考えていたのは全然違う役だったんです(笑)。でも実際にオファーを頂いたら、やっぱり奥さん役でした。でもそれはそれで面白いな、松尾さんらしいなって思いました。松尾さんが私に、と言っていた役も、とてもぴったりで素敵な女優さんがいらっしゃったので、いろいろパズルがはまっていったと思います。
松尾さんはすごく面白い人で、人を楽しませるのも好きな方です。そういう人の影のような部分を見たりすると、先輩ではありますが、ますます愛おしくなったりする。だからこの作品に携われるのが、何より嬉しいです。
仲野:僕はほぼないですね。撮影が始まる前に一度食事に行ったんですが、その時もあまり時間が取れなくて。本当はもっとお話ししたかったんですけど、松尾さんが「自由にやっていい」言ってくださったので、その一夜で自分の中で解釈して自由にやらせてもらいました。
仲野:そうですね。監督とも相談しつつ、松尾諭ではなくて、松戸諭として、魅力的に演じられたらいいな、と思っていました。
仲野:あまりなかったですね。モノマネをしてもしょうがないかな、と思っていたので。
伊藤:私は、松尾さんが「お家においで」と言ってくださったんですけど、なかなかタイミングが合わず、結局撮影が始まってからお会いしました。クランクインしちゃったけど、まだ深いシーンを撮影していない段階でした。お宅にお邪魔して、お子さんにも会って、奥さんにもお会いしました。奥さんはすごく可愛らしいんですけど、さっぱりした方で、ああ、こういう感じなんだな、と思いつつ、松尾さんの原作や、脚本にもキャラクターはちゃんと描かれているので、少し参考にさせていただきました。見ていて、とにかく松尾さんのことが大好きなのがすごく伝わるんです。2人の関係性がとても素敵でした。夫婦なんだけど、どこか恋人っぽいところもあったりして、その関係性がいいなと思いました。軸として“愛す”ということがぶれなければ、平和に行くのかな、と。
ドラマでは、泣きのシーンが多かったので、こちらとしては緊張していたというか、例えば奥さんが見た時に「え?」と思われやしないかとか勝手に心配していました。ただ、奥さんと2人でお話する時間があって、その時に「私としては冷たいかもしれないけど、まっつんがこれを書いてくれたことがギフトであって、とても幸福で、ここで正直完結をしているから、この後どう派生しても、ドラマができたりしても、私は楽しめる。だから、沙莉ちゃんの思うままにやってくれたら、いい。私は作品としてすごく楽しみにしてるから、自由に楽しんでください」と言っていただけたんです。その言葉を胸に、とても安心して臨めました。
仲野:もう何も心配いらないなと思いました。僕が何もしなくても、沙莉ちゃんが来てくれれば、絶対良くなる確信があって、ああよかったと思いました(笑)。今まで共演したことはなかったんですけど、合うだろなと、そんな予感はしていたので、現場でもすっと寄り添うことができたし、力を合わせながらやれたという印象です。
仲野:(伊藤に)初共演って感じはしなかったよね。
伊藤:しなかったですね。もうほんとに、勝手にほっとしてました(笑)。安心してました。それこそ何もしなくても大丈夫だし、何やっても大丈夫だって。
仲野:(頷きながら)そうね。そうだね。
伊藤:それが1番大事で。私はもともと自分からあんまり仕掛けるタイプではないですが、どう転んでも受け止めてくださるっていう勝手な信頼がありましたし、それが交差しているのも実感があったので、とても自由に楽しくできました。それは太賀さんだったから、というのは100パーセント確信を持って言えることです。松尾さんの原作が面白いからとか、お受けする理由はいろいろある中で、その1つになっています。「太賀さんと共演ですか? やらないわけないですよね」と、その時点で絶対楽しいじゃん!って(笑)。人柄を知れるのも楽しいですし、お芝居で一緒に戦えることが、とにかく楽しみでしたし、やってみても超楽しかったですし、幸せでした。
「この人、マジで一休さんや!」と思った/伊藤
仲野:なんだろうね。山ほどあるような気もするし……。
伊藤:意外と脚本に沿っていた気もするし……。動作とかを付け加えるというよりは、膨らんでいった感じですよね。
仲野:そうだね。台本で書かれているもの以上のものにはなっていると思いますね。そういう意味では膨らんでると思うし。(しばし考えてから)……なんだろう、ないのかもね(笑)。
伊藤・仲野:(爆笑)
伊藤:私は現場で、監督にはもちろんですが、太賀さんにもよく相談させていただきました。「このシーン、どう思います? 私はこう思うんですが」とか。ほんとに嫌な顔一つせずに聞いてくださいますし、一緒に考えてくれるときもあれば、助言をくださる時もあって。大喧嘩するシーンを撮っている時に「この人、マジで一休さんや!」と思った瞬間があって。
仲野:おお?(笑)
伊藤:ピシャンと扉を閉めて、扉を境界線にして、そこから先には諭が入ってきてほしくないというシーンだったんですけど、それをどう表現するか、という時に私はちょっと動けなくなってしまったんです。監督は、私には動いてほしかった。でも、私は思考が止まっちゃって「どうしよう!」となったら、太賀さんが助言をくれたんです。言い回しがちょっと明確じゃないんですけど、「入れたくないなら出せばいい」みたいな。
仲野:そうだね。どうやって入るかを考えていたよね。
伊藤:そうです。そうです。
仲野:でもそうじゃなくて、どうやって出るかを考えた方がいいんじゃないかって。まあ、もう自分で言っちゃいますけど(笑)。
伊藤・仲野:(爆笑)
仲野:もう俺がいかに一休さんだったか、と(笑)。
伊藤:あの時は本当に一休さん全開でした! そういう、きっかけになることを生み出してくれたり、確かにこう来られると、ポンってやりたくなるようなことを仕掛けてきてくださる。それも言葉よりも、お芝居でそこに誘ってくださるのが、ほんとに素敵だなと思って。もちろん監督もいろいろおっしゃってくださいましたけど、あのシーンはホントに太賀さんが作り上げたと思います。すごいゴールに至ったな! と。監督のやりたいことも叶いつつ、私の動けなさも解消しつつ、自分の芝居を全うするという1番かっこいい姿を、その時に三連単で見せられて。
仲野:(笑)
伊藤:なんだこれ、大当りだ!みたいな。超かっこよかったです。
仲野:とても新鮮でしたね。だからもう僕もなんかイキイキしちゃって(笑)。
伊藤:(笑)
伊藤・仲野:(爆笑)
仲野:どうなんですかね。そんなに聞いちゃいけない空気もないし。でも人の芝居にとやかく言うのはどうなんだろうみたいな暗黙な了解はあるよね。
伊藤:そうですね。でも今回は聞きたい相手だから、聞きました。
仲野:(神妙な面持ちで)もうこの出来事を一生忘れない……(笑)
伊藤:(仲野に)これからすごい頼りにされますよ。
仲野:わからないですけど……、もちろんやっていることはフィクションだし、お芝居なんですけど、それを演じている時間だけは、自分に嘘はないようにしたいなと思っていて。言葉を喋っていても、何かに触れていても、実感を持って、やってることと思ってることに違和感がないように信じようとしています。作品をすごく信じているし、お芝居というものも信じているし、自分のやっていることにちゃんと意味があるんじゃないかと思うようにしています。
そうすると、実感が持てるような気がしていて、そこは誇りを持ってやっています。それが説得力になっているかどうかは、わからないですが。
伊藤:私の場合は、演じる役をあまり役として見てないというか。自分との共通点を見つけて、こういうところは似ているなとか、こういうとこはダメなんだよな、とか。単純に人として見ているところがあります。それこそ私も器用な方じゃないので、「?」が浮かんだままとか、違和感があるままだと、動けないんですよ。
伊藤:はい。だからと言って、正確なプランを立てて挑めるほどの頭の中の構成力もそんなにないので、その場をほんとに生きるということしか選択肢がないというだけの状態です。だから、かっこいいことを言えないというか(笑)、そういうことを思っているわけでも、抱えてるわけでもなく、ただそこに生きるということが1番楽しいです。技術力も備わっている方なら打案を見つけられますし、そういういろんな人がいる中でどちらかというと、自分は不器用だから、そこしかできないんです。
仲野:もうめちゃくちゃ拾われるタイプだと思います。拾われまくっています(笑)。自分の人生で誇れるものは何かと聞かれたら、人との出会いとしか言いようがないぐらい、そういう意味では本当に救われている気がします。
仲野:今の事務所に拾ってもらえたというのがまずあるし、……ちょっと待ってください(しばし考え込む)。……本当に拾われ続けてているので、1つには絞れないです(笑)。ただ、このドラマをやって改めて思ったのは、人生は拾われたり拾ったりすることでしかないな、ということです。
仲野:そうですね。諭もたくさんの人に拾われてきたし、兄貴を拾った男でもあるし、兄貴も拾われた男だし。そういう意味では“拾われる”っていいフレーズだなと思います。繰り返しになりますが、この作品を通して、ああ、僕もたくさん拾われているんだな、と思いました。
伊藤:私もそのタイプで言うと、拾われる方です。ほんとに縁に恵まれていると思っています。拾われるということ……見つけてもらえるとか、人が何かを与えてくださったことで広がっていったので。学生時代は特に、オーディション三昧な生活を送っていました。それはある種、私も拾いに行ってるし、でも拾われにも行ってるし、みたいな繰り返しの日々でした。それを言うと、拾われないことの方がすごく多かったりもしたんですけど(笑)。でも、それが今にも続いている。仲野さんと同じで、私も今の事務所との出会いは大きいです。入る前に面接を受けたんですが、その時はお芝居を見てもらうのではなくて、社長と面談でした。本当にフラットな話しかしなかったんですが、「面白い人生だね。じゃあいいよ」みたいなことを言われて入ったんです。それがすごく人生を大きく左右した。その前からこの仕事はやっていたけど、その瞬間があったかなかったかは大きいし、そこに声をかけてくれた方にもきっと拾われたんだろうし。そういう積み重ねで来ていると思います。
仲野:素晴らしい。僕もそれぐらい構成できたら、よかったんですけど(笑)。
(text:冨永由紀)
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