1990年3月14日生まれ、大阪府出身。2010年、NODA・MAP公演「ザ・キャラクター」で初舞台に立ち、同年のNODA・MAP番外公演『表に出ろいっ!』でヒロインを演じる。2011年から映画、TVドラマ、CMなどにも出演。『小さいおうち』(14)でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。『浅田家!』(20)で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。主な映画出演作は『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『日日是好日』(18)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)、『余命10年』(22年)、『イチケイのカラス』(23年)、『#マンホール』(23年)、『ヴィレッジ』は23年4月21日公開。
「世界に向けた時代劇を作りたい」と声をかけていただきました
江戸末期、父親と長屋に暮らし、寺子屋で読み書きを教える武家の娘・おきくと、下肥買いの中次と矢亮は身分や立場の違いを超えて、心を通わせていく。そんなある日、22歳のおきくは喉を切られて声を失ってしまう。阪本順治監督の新作であり、これまで阪本作品に美術スタッフとして数多く参加してきた原田満生の企画・プロデュースによる『せかいのおきく』は、理不尽な現実を強いられながらもひたむきに、自分たちの世界を生きる若者たちを描く青春物語だ。
江戸の空気に肌で触れるような、モノクロの時代劇ながら、現代に生きる我々にもなぜか身近に感じられる普遍性のある物語の主人公、おきくを演じるのは黒木華。
過酷な境遇にくじけそうになりながら生きていく女性像への取り組み方から、普段の生活、他者とのコミュニケーション哲学まで、1つ1つの質問に対して丁寧に語ってくれた。
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黒木:美術監督の原田さんから「世界に向けた時代劇を作りたい」と声をかけていただき、お受けしました。その時は短編というお話でしたが、そこから長編になると聞いて。最初に撮ったのが2年前でしたので、こういう物語になると知ったのは長編を撮ると聞いてからでした。
黒木:京都は時代劇を撮るところが多いので、床山さんなど知り合いの方がいらっしゃいます。だから私にとってはアットホームといいますか、やりやすい環境でしたね。
黒木:所作や品といった、武家の娘として育ってきた時間があったということを意識しました。粗野じゃないといいますか、きちんと、でもたくましく生きる力があるという風に感じました。
黒木:日本舞踊を昔やっていたので、手の動かし方などは身についているような気がします。着物を着て歩く、走る、ちょっとした袖のさばき方などは日本舞踊をやっていないとできなかった動きです。20代は時代劇に出演する機会が多かったので、自分で着物を着られるよう最低限のことは勉強したつもりです。
黒木:(少し考えてから)「表現しよう」と考えすぎないことですかね。
黒木:そうですね。事前にあまり考えていかないようにしています。相手の反応を見るといいますか、自分が発することより、相手の目とや、相手が何を言いたいのかをすごく見るようにしているかもしれないですね。
黒木:プライベートでもそうですね。「相手の目を見て話しなさい」と教わったので、その人が何を思って喋っているのか……こういう取材の時もそうですけど、私のことを知らない人に私自身の感覚を伝えるのって、すごく難しいじゃないですか。共通言語がない人が相手の時は、誤解がないように伝えるにはどうしたらいいかということは考えています。どの言葉を選べばいいのか、もしこの言葉で伝わらないなら、何を補足すればいいのか。友だちだったら感覚がわかるから一言で済むことだとしても、相手をよく見て、言葉を選んでいるかもしれないですね。言葉以外だと、表情を見るということになってくると思います。
黒木:心理学だったと思いますが、会話をする時に見つめられ過ぎると、何秒かで威圧感を感じるらしいんです。普段はあまり見つめすぎないようにしていますが、やっぱり目を見るとその人が何に興味を持っているのか分かるような気がするので、失礼のない程度に見てしまいます。
黒木:現代の動きになりそうになるので、めちゃくちゃ難しかったですね。といっても、その時代に生きてないから、当時の人たちがどういう風にやっていたのかは分からない。ただ、ちょっとした仕草も「今っぽいんじゃないか?」と勝手に思ってしまう。着物を着ている分、動きも制限されます。伝えたいことが、どうやったら伝わるんだろう?と。名詞を表現するのがすごく難しかったですね。
黒木:文章を伝えるのが特に難しくて、眞木蔵人さん(おきくが文字を教える寺の住職)とのシーンが大変でした。世界……世界ってどうやるんだろう?(両手を動かしてみせながら)これだと天井になるかな? 空になっちゃうかな?と、1つ1つがすごく難しい。でも、あんまり考えすぎないようにしよう、と思ってやっていました。
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おきくは武家の娘だけど逞しい、生命力があふれてる感じ
黒木:現代と一番違うのが近所付き合いかなと思います。今は防犯の関係上、挨拶できなかったり、自分がどういう人なのか知られたくないと挨拶しない人もいますよね。でも、あの時代の生活は基本的に支え合うことで成り立っていて、コミュニケーションの取り方も違う。話もするし、他人だけど関係性も近い。不思議だけど、いいなと思いました。
黒木:私は人見知りで、基本的に距離が近い人が苦手なので、無理かもしれない。(笑)。
黒木:現代がいいですね。平成生まれなので(笑)。玄関を出て、いきなりいろんな人から声をかけられると、一人になりたくなっちゃいますね。
黒木:関西のおっちゃん、という感じでした(笑)。
黒木:はい。だから、たぶん居やすいようにしてくれたのかもしれないです。いい意味で、親しくしてくれた感じはします。監督と役者という関係性ではあるんですけど、それよりもちょっと近い感じといいますか。監督ご自身がユーモアのある方なので、それは大きいんじゃないですかね。
黒木:そうですね、和気藹々と。監督は締めるところはもちろん締めますけど、基本的には仲良くやらせていただきました。
黒木:監督が「おきゃん」とずっとおっしゃっていて。現代で言うと、キャピキャピじゃないけど、ハツラツとしている感じ。バタバタするところは「もうちょっと大げさにやって」という演出がありました。武家の娘だけど逞しいといいますか、生命力がすごくあふれてる感じになっていると思います。
黒木:まっすぐさだと思いますね。仕事に対してもそうですけど、生きるということに対してまっすぐな姿といいますか。中次は喋れるし、おきくも聞こえるのに、おきくと同じ方法で気持ちを伝えようとするまっすぐさ、力強さというところにすごく惹かれたんだと思います。
黒木:みんなマイペースといいますか大人といいますか、独立してそれぞれの時間を持っているので居やすかったですね。みんなで話すときもあれば、それぞれ過ごしていたり。つかず、離れずみたいな感じで別に喋らなくてもいい、という感じが私は心地よかったです。
黒木:私は両親が大阪にいるので、休みの時はなるべく会いに行くようにしています。両親だけでなく友だちもですけど、会って過ごすという時間がコロナ禍でなかなか取れなかったんです。最近やっと対面できるようになって、改めて、ちゃんと会うことの大切さを実感しました。
この間、仕事で大阪に行った際、コロナ禍でずっと会えなかった大阪の友だちに数年ぶりに会ったら、その子どもたちがすごく成長していて驚きました。人と会うことで自分の時間が充実します。
黒木:「ありがとう」や「好き」、「そういうのはあまり好きじゃない」など普通に言います。
黒木:“相手を否定しない”ですかね。否定はしないけど「私はこう思うよ」ということは言います。
黒木:正論は相手を傷つけ、相手を追い詰めてしまうものだと聞いてからです。私はキレるタイプではなく、相手に理詰めで話していく。すると相手の逃げ場所がなくなるんですよね。人は性格も違うし、育ってきた環境も感覚も違う。それを理解することって、相手が恋人であれ、友だちであれ、親であれ、大事なんじゃないかなと。それを33年間生きてきて、少しずつ学んでいった感じです。
黒木:私が好きな役者さんに、そういう方が多いからかもしれないです。プライベートはどうでもいいといいますか、その役として映るもの、舞台で見えるものが良ければいいと思っているので。私自身のことは、皆様にお見せするものではないといいますか、見て欲しいものでもないので、という感じはあるかもしれないですね。
黒木:ありがとうございます。
黒木:普通ですよ(笑)。皆さんとあまり変わらないと思います。ご飯を食べて、だらだらして映画や舞台を観に行ったりドライブしたり。
黒木:そういうことはあまりないですね。もともと、映画も舞台も観るのが大好きなので、単純に私の中では娯楽といいますか、趣味として観ます。その後で、あの作品のこういうお芝居が素敵だったなと思うことはありますけど、観ている瞬間はいろいろ考えたりしないですね。
黒木:恥ずかしくて見たくないです。試写は見ますけど、なかなか冷静には見られないです。出演していない部分は「すごく素敵」「面白い」と客観的に見られるんですけど、自分の芝居に関してはいつまでも恥ずかしいし、もっとこうできたのかもしれないと考えてしまいます。
黒木:私もそう思いました。色づいた瞬間にハッとするといいますか、むしろそれがモノクロの時の色を想像させたりして、阪本監督はこういう映画を撮りたかったのかなって、出来上がったものを見て感じましたね。
黒木:嬉しいです。より色づいて見えて素敵でしたよね。
黒木:一番はこの仕事の始まりであった、野田秀樹さん演出の舞台に出た時です。『小さいおうち』の時に海外の賞(ベルリン国際映画祭銀熊賞)をいただいたのが2個目で、というふうに節々にあります。
黒木:そうですね。基本的には楽しもうと思ってますね。これまでを振り返ると、楽しいことしか思い出せなくて、辛かったなっていうことはないです。辛いことであっても楽しむというのは自分のテーマになっているので。
黒木:私は基本的にネガティブでいろいろ考えすぎてしまうんですが、母にそういう風に育てられたといいますか。母がポジティブなので、影響を受けていると思います。不思議なことに、歳を重ねるとだんだんネガティブさが少なくなってきて。30代になってから、いい意味で適当に生きられるようになってきている気がします。経験値が積まれていくことによって、なんとなく選択肢が分かるようになってくる。20代は結構がむしゃらに頑張るしかなかったけど、頑張るだけじゃダメだということにも気付くようになりました。
黒木:そうですね。図太くなったのかも。私は年を取るのが好きなんです。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
(ヘアメイク:新井克英〈e.a.t…〉/スタイリスト:梅山弘子〈KiKi inc.〉)
(衣装:ドレス、ネックレス、ブレスレット〈ゴールド〉、ブレスレット〈シルバー〉、サンダル、全てsacai)
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