1957年1月15日生まれ、福岡県出身。日本大学芸術学部の卒業制作として作られた『狂い咲きサンダーロード』(80年)や、『爆裂都市 BURST CITY』(82年)、『逆噴射家族』(84年)などで熱狂的な支持を得る。主な監督作品に『エンジェル・ダスト』(94年)、『水の中の八月』(95年)、『五条霊戦記 GOJOE』(00年)など。映画のみならずPVやテレビドラマの監督も手がけ、2006年より神戸芸術工科大学で教鞭(きょうべん)を執る。2010年1月に石井聰亙改め岳龍に改名した。
怪しい都市伝説が囁かれる病院に併設された大学。そこで、ある日突然学生たちが次々と倒れていく。そんな終末的な雰囲気で若者たちの生と死を描いた映画が『生きてるものはいないのか』だ。
本作は、突然迫り来る死という普遍的で重いテーマを描くが、脱力系のシチュエーションおよび会話劇でオフビートな世界観を展開。原作は作家・前田司郎の同名戯曲で、主演をつとめるのは『ヒミズ』でヴェネチア国際映画祭最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を獲得した染谷将太。
そして、本作でメガホンをとったのが『狂い咲きサンダーロード』『逆噴射家族』で知られる石井聰亙改め石井岳龍監督。『五条霊戦記 GOJOE』以来12年ぶりとなる長編映画での新たなる挑戦や映画に対する思いについて語ってもらった。
石井:この映画は2010年の10月に撮ったのですが、その年の1月に改名しました。随分前から改名のことは考えていて、『五条霊戦記 GOJOE』を撮った後から自分の未熟さと言いますか、脚本力とか演出力とかまだまだ足りないということを痛感していたので、もう一度自分の映画力を見直したいという思いもありまして。
それで、6年前に神戸芸術工科大学に教授として呼ばれて、なおかつ(過去作の)DVDボックスもリリースしてそれまでの仕事をまとめさせていただいて、2010年に機も熟したという感じです。心機一転ということをハッキリ示したかったということと、今後はこれをベースにガンガン行きたい、一旦リセットしたかったということですね。
石井:戯曲が原作の映画化はこれまでやったことがなく、会話劇というのも初めてでした。登場人物が18人でマシンガントークを繰り広げながら劇が進行していくっていうのは、挑戦でした。
あと、今まで私はアウトローの奴をどちらかというと主人公に選んでいましたが、今回はインナーの方を主人公にしました。しかも裏テーマがあって、全員いつかは必ず死んでしまうということ。それがいつ訪れるか分からないというのは非常に不条理なことですが、生まれるときも死ぬときも選べないというのが事実です。その事実を自分に言い聞かせ、それを踏まえた上で日常に向かうということ。そういうチャレンジはありましたね。
石井:インナーの方を描くというのが今回の狙いなので、特別なことは考えてなくて、役に合った人、それから18人も出てくるので描き分けというのも必要だと思うのでキャラが被らないようにしたりとか、最終的には演技力でしたね。
会話を映画内の時間でテンポ良くするためには相当なスピードも要求されますし、コンビネーションは出来て当たり前なので、その上でこちらのカメラポジションに対する動きの振り付けもありますし、アドリブもある。いくらでも面白くなるシチュエーションで、基本がしっかり出来ていなくてはならない。
あとは、天候との戦いもありますから、そういうのも全て取り入れてある種のスリルを出したかった。今この瞬間にこの天気のなかであなたはどう生きているんですか、っていうことも問いかけました。ただ役を演じているのではなくて、そこに生きるということ。映画には全部映るので、それがその人の魅力になり、映画の魅力につながる。そういうことに耐えられる人を選びました。
石井:染谷君は映画映えする俳優さんだということを『パンドラの匣』という映画を見て感じ、すごい衝撃を受けました。本当にキリッとしているし、クローズアップ力があるし、年齢不詳な雰囲気があった。
撮影当初はまだ高校生だったのですが、本当に驚きましたね。本人が持っている柔軟性と映画に映ったときの力、これが映画俳優さんだというのが分かることが重要だと思います。実物を見ているときよりも映画に映したときに何か異様な迫力が出る。オーラが出る。染谷君は久しぶりにこの人と仕事をしたいと思った俳優さんでした。
石井:これは時代ということもあるのではないでしょうか? 僕らは完全に女性に支えられてますね(笑)。男は理屈っぽい、私を含めてね。女性は強くてイキイキしているし、明るさやしなやかさがある。「この世で一番大事なのは女性の笑顔である」というのはジャン・ルノアールの名言ですが、それはこの作品でも思いましたね。
この映画に出演したいと言ってくれた女優さんたちのイキイキとした感じをとらえるというのは1つのテーマだったし、僕ら男性が陥っている何かも滲み出ているんじゃないかなと思います。
石井:いや、作りたいのはこれだけじゃないんですよね。本当はたくさんあって、そのなかにはアクション映画もあるし、純文学の映画化、殺し屋映画もあったんですけど、撮れてないんです。撮れるものから確実に形にしていくしかないんですよね。
映画の宿命は個人作業で完結するのではなく、たくさんのスタッフと映画館という装置、そこには当然お金がかかりますから、これらを無視するわけにはいかない。このことはお客さんが望まない限り形には現れて来ないものなので、仕方のないことです。
石井:そうですね、今まであまりそうは思ってなかったのですが、今、完全に吹っ切れているので。もちろん同じことは出来ないですけどね、あのときは命知らずだったので(笑)。『狂い咲きサンダーロード』や『爆裂都市』の山田辰夫や当時のロック連中みたいな存在ってもういないとは思いますけど、自分の映画の技術力とか「これが映画だろう」みたいな思いはものすごくあるので、やれって言われて用意してくれればやってやるっていうのはあります。
ただ、自力で出来るのはまず今回のような作品です。アクションに関してはお金がかかるので。昔は命知らずで、自分も命かけて、俳優さんにも命かけさせてやってたけど、暴走したり、みんなに迷惑をかけて人を殺すわけにはいかない。それでも、アクションは仕事としてはやりたいですね。
(text&photo=じょ〜い小川)
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