CIAの全面協力を得て作られた本作は、すべてがトップシークレット
本年度アカデミー賞の5部門にノミネートされた『ゼロ・ダーク・サーティ』。あのジェームズ・キャメロンの元妻にして、アカデミー賞作品賞受賞作『ハート・ロッカー』を監督した豪腕女性監督キャスリン・ビグローの最新作だ。
10年間、オサマ・ビン・ラディンを追い続けた女性CIA分析官の実話をもとにした本作に主演したのはジェシカ・チャステイン。黒人差別をテーマにした『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で注目を集めた彼女は、今、ハリウッドが最も期待を寄せる女優のひとりでもある。男社会のなかで戦い続けた女性の姿を見事に演じた彼女に話しを聞いた。
チャステイン：トロントで仕事をしていたときに、以前一緒に仕事をしたことのある本作のプロデューサー、ミーガン・エリソンからメールが入ったんです。何度か電話をくれていたようですが、他の作品の撮影に入っていて忙しかったので、私は、電話に出ることができていなかったんです。
メールには「頼みたいことがあるの。5分で済むから電話をちょうだい」と書いてあり、私はすぐに電話しました。エリソンは「ジェシカ、出演の話よ。キャスリン・
ビグローが監督で、本当に素晴らしい作品なの。ピッタリの役があるんだけど、あなたの事務所からは、スケジュールが空かないから絶対に無理だと断わられてしまったわ」と言いました。私は「ビグロー監督の作品なら、ぜひ出演したい。スケジュールはなんとかするわ」って答えたの。
──CIAの全面協力を得て作られた本作ですが、国家機密の漏洩が問題となり、政治家から調査依頼がかけられた異例の騒動が起こりましたが、撮影中はどのような感じだったんですか？
チャステイン：本作は、すべてがトップシークレットでした。事務所にさえ役柄を教えられなかったので、出演のために、ただ「スケジュールを空けてほしい」と繰り返して頼み、「この役は絶対に引き受ける価値があるから。脚本の内容を教えることはできないけど、大丈夫。私を信じて任せて」と説得したのですが、事務所はあきれていましたよ。
今まで私は秘密を守れない性格だったんだけど、今回だけは頑張りました。ご存じの通り、マスコミはすぐにかぎつけて取材に来ました。彼らはアメリカ海軍特殊部隊の妻の役だろうと勝手に推測していたのですが、本当に腹が立ったわ。「違うわよ。妻の役じゃなくて、ビン・ラディンを追い詰めた主人公を演じているの」と言ってやりたかったのですが、その言葉をぐっと飲み込んだんです。結局、1年間も秘密を守り抜きましたから、これはもう表彰モノ。自分を褒めてやりたいくらいです。
主人公は冷酷で、全てを分析的に判断するよう鍛えられた非情な役柄
『ゼロ・ダーク・サーティ』
Jonathan Olley (C) 2012 CTMG. All rights reserved
──ビグロー監督はどんな方ですか？
チャステイン：とても穏やかで物静かな人です。ただ、現場では監督として、求めているものをハッキリと明示する人。そのメリハリが好きなんです。現場のなかでも外でも親切で思いやりがあって賢くて、演じる側としてはとてもやりやすい監督です。
今回は暴力シーンも多かったんですけど、そういうシーンから見える監督の理念も尊敬します。監督の描く暴力シーンには、はっきりとした勝者が存在しないの。
──主人公は直接は手を下さないものの、拷問のシーンもありましたね。
チャステイン：ええ、それらのシーンには苦労しました。主人公は冷酷で、全てを分析的に判断するよう鍛えられた非情な役柄でしたから。私とは正反対です。私は女優として、感情的で繊細で、傷つきやすい女性になるよう訓練を積んできました。ですから、このような感情を押し殺したシーンを撮影するときは、役に入り込むため、事前に心の準備をしなければなりませんでした。これまで通りの演じ方とは正反対の役柄だったので、とても大変でした。
目の前の光景に驚きながらも、マヤ（主人公）らしく感情を押し殺し、冷静に演じる必要があったの。
──主人公は突然、大学から連れ出され特殊部隊に入れられ、その後の12年間はビン・ラディンを捕獲することだけに集中します。その間、生活も性格も変化しますが、そういう変化する役を演じるのは大変ではありませんでしたか？
チャステイン：ええ、大変でした。このように断片的に演じるには特別なやり方があり、細かい演技が必要になります。
あらかじめ念入りな下調べをして撮影に臨み、ワンシーンを撮るのに、演技を変えて何テイクも撮影し、納得がいくまで色々試してみました。マヤのような女性は、自分の感情を表には決して出しません。ですから、彼女の気持ちが変化していく様や自分を見失う姿を、慎重に演じなければなりませんでした。
『ゼロ・ダーク・サーティ』
Jonathan Olley (C) 2012 CTMG. All rights reserved
──このような社会派作品に出た感想は？
チャステイン：素晴らしいの一言よ。私は『大統領の陰謀』（76年）のような映画が好きなんです。時事問題を扱い、社会に問題提議するような作品は世の中に必要だと思います。ベトナム戦争を扱った作品、特に戦争終盤を描いた物などは、偏った価値観を押し付けるのではなく、歴史的な事実を正確かつストレートに描いています。女優として、そのような作品に出演できるのは、とても光栄なことです。こういった映画こそが、後世にまで残る作品だと思います。
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