1969年9月14日生まれ。韓国出身。劇場長編デビュー作は、監督と脚本を手がけたペ・ドゥナ主演の『吠える犬は噛まない』(00年)。『殺人の追憶』(03年)、『グエムル‒漢江の怪物‒』(06年)が次々と大ヒットし、海外にも進出。『スノーピアサー』(13年)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』(17年)など、多くの話題作を世に送り出している。
『殺人の記憶』(03年)、『母なる証明』(09年)など、ずしりと心に響くドラマティックな作品の名手として、また韓国映画歴動員記録を塗り替えた大ヒット作『グエムル−漢江の怪物−』(06年)で欧米でも高く評価されているポン・ジュノ監督。
韓流ブームの立役者の1人で、アイドル的存在だったウォンビンの新たな一面を引き出した『母なる証明』から4年ぶりとなる長編映画は、氷河期を生き延びた人類を乗せて氷の世界を走り続ける列車が舞台の『スノーピアサー』。先頭車両は富裕層、後方車両は最下層に分けられ、限られた空間に構築された階級社会を打破しようとする男の闘いを描く。
原作のフランスのコミックを監督自ら共同脚色。『アベンジャーズ』(12年)のクリス・エヴァンスを主演に、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントンといった実力派や『殺人の記憶』『グエムル〜』に主演したソン・ガンホが脇を固める。来日した監督に、壮大なスケールの新作の製作過程を聞いた。
監督:2005年の1月でした。僕はマンガマニアで、よく行くコミック専門書店で偶然この原作に出会いました。ですが、06年から『グエムル−漢江の怪物−』にとりかかり、続いて『シェイキング東京』(オムニバス作『TOKYO!』の1編)、『母なる証明』もあったので、脚色にとりかかったのは10年から。1年かけました。
凍りついた世界を走る列車に生き残った人類が乗っているという非常にユニークな発想の原作です。それをどう2時間の映画という形にしていくか。迫力のあるリズムをどうやって作り出すか、どれだけパワフルに映画的な構造を作り出していくかを考えながら脚本を書きました。
物語の構造そのものが列車の車両の並びと一致しています。劇中に様々な車両が登場しますが、脚本のシーンの配列と一致していて、クリス・エヴァンス演じる主人公は常に前進していく。前後を行ったり来たりしない。列車の構造を作るのは、シーンのリストを作っていく作業でもありました。
監督:華やかなキャスティングを目指したわけではありません。監督として求めるのは、演技のうまい俳優、そして劇中のキャラクターに溶け込んでくれる俳優です。今回は出発点が良かったので、そこからスムーズに進みました。
監督:ジョン・ハートとティルダ・スウィントンです。ティルダは『グエムル〜』の大ファンで、家族と一緒に何度も繰り返し見ているというインタビュー記事を読んだことがありました。とても嬉しかった。僕も彼女のファンだったんです。俳優と監督というのは、お互いにファンであると確認した瞬間、武装解除されて心が開きますよね。実際に会ったのは2年後にカンヌ国際映画祭でですが、すぐに意気投合しました。ちょうど本作の脚本を執筆中で、「必ず一緒に仕事しましょう」と握手を交わして別れたんです。ところが、脚本中に彼女がやれる役がなかった(笑)。そこで、中年男性として書いていたメイソンというキャラクターを女性に変えてオファーをしました。ティルダもこの役を大変気に入ってくれて、参加することになったんです。
ジョン・ハートとは、他の仕事でロンドンに行ったときに会いました。『母なる証明』をとても気に入っていたそうで、彼ともすぐに意気投合し、やはり脚本執筆中という段階ながら、彼も作品への参加を決めてくれた。映画業界で非常に尊敬を集めている2人が私を信頼して、早い段階から作品への参加を表明したことで、その後のキャスティングはとてもスムーズになりました。
監督:彼に対してはある種の偏見があると思うんです。『キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ』といったハリウッド大作に出ている筋肉質の俳優というイメージ。でも、彼は大作出演の合間にインディペンデント映画のシリアスな作品にも多く出演をしていて、非常に繊細な演技を見せています。今回はキャスティング・ディレクターの推薦もあり、彼の出演したインディペンデント作品のDVDを何本か見たのですが、本当に幅広い役どころで知的な演技を見せていました。本人もそういう作品との出会いを探し求めるタイプで、今回も私たちの脚本を取り寄せて読んだ彼の方から連絡がきました。
面白いエピソードがあって、映画完成後にアメリカで試写を回したとき、アメリカ人の映写技師が、『映画が始まって20分も経つのに、クリス・エヴァンスはどうして出てこないんだ?』と言ったんです。それくらい彼のイメージはガラリと変わっています。見る側のそういう反応は私もとても嬉しいし、クリス自身もとても喜んでいます。これまでの主演作と同様にヒーローを演じてはいますが、今回はすごく繊細な、涙を流すヒーローです。暗い過去を抱え、悲しい痛みを持った人間を見事に演じてくれた。素晴らしいチャレンジだったと思います。
監督:列車という狭く長い空間で、しかも人があふれかえっている。そんな飽和状態のなかで体と体がぶつかり合うアクションが展開されていきます。SF映画で舞台は未来ですが、列車のなかで起こる戦いというのはあくまでもプリミティブなスタイルで描こうというコンセプトは当初からありました。ハイライトとも言えるのは、映画中盤の斧で戦うシークエンスですね。そのシーンには刀や斧だけでなく、挙げ句の果てには松明まで登場します。ある意味、原始時代の部族の戦いのようにも見えます。
実際に現場では、私たちも照明をつけずに松明の光だけで撮影を行っていたのですが、心臓がドキドキするような興奮を味わいました。このすべてのエネルギーは、突き詰めれば、列車という空間があったからこそ生み出されたものだったと思います。列車というのは一直線の構造で、迂回していく逃げ道がない。前に進んで行く人と防ぐ人々。彼らは通路のなかで正面衝突を避けられないわけです。逃げ場がない、行き場がないというところから生じるものすごいエネルギーがある。さらに、列車は停まらず、ずっと動き続けている。橋を渡ったりトンネルをくぐったり、そこから来る興奮があり、まさに列車アクションならではの魅力ではないでしょうか。
監督:国際的な映画を撮るからといって映画の作り方が変わるわけではありません。これまで私が準備してきたやり方で同じように撮っています。そこにいろんな国の人たちが混ざり合って規模が大きくなったからと言って、特に変わったことはなくこれまで通りのやり方で作業は進んで行きました。いい通訳がいれば、作業はスムーズに進行していくものなんです。
『グエムル〜』ではアメリカやオーストラリア、ニュージーランドの特殊効果のチームの方々、CGチームの方々と一緒に仕事をしました。07年に『シェイキング東京』を撮ったときは100%日本のスタッフ、俳優の方たちとの仕事でした。そういった経験を少しずつ積み重ねていたので、今回が特に大変だったということもありません。それよりも、全世界の映画人、特に映画を作るスタッフは本当に同じだなと感じました。遠くから見て「あの人は照明部だろうな」と思うと、間違いなく照明部だったり、食事の時刻が遅くなるとみんなイライラしたり(笑)。誰もが同じ人間であり、スタッフであり、全く違いはないなということを感じました。みんな本当に映画を愛しているんです。
(text=冨永由紀)
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