映画はテロとどう向き合っていくかについて描かれている
2014年2月2日に帰らぬ人となったフィリップ・シーモア・ホフマン。『カポーティ』（05年）でアカデミー賞主演男優賞に輝き、『ザ・マスター』（12年）でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞（共演者のホアキン・フェニックスと共同受賞）した名優の遺作となるのが、スパイミステリー『誰よりも狙われた男』だ。
スパイ小説の大家、ジョン・ル・カレの傑作小説を映画化したもので、平和という目的を達成するためにどんな犠牲もいとわない練達のスパイ、ギュンター・バッハマン（フィリップ・シーモア・ホフマン）を軸に、9.11以降の諜報戦をリアルに描き出す。
本作でもいぶし銀の演技を見せるホフマンに生前行ったインタビューを公開する。
──まずは本作の見どころと、あなたが演じたバッハマンについて教えてください。
ホフマン：バッハマンはドイツのハンブルクにある、小さくてあまり資金を持たない対テロ組織に所属している。政府はその組織を非常に汚い仕事へと送り込むんだ。彼は、自爆テロや、爆弾テロなど、事件を引き起こしている真の大物を、本当の黒幕を探す方法を模索している。
彼はメイングループより下にいる人や、彼らを助ける人たちにとても共感している。映画において、そこが彼と他の諜報機関との異なる部分なんだ。バッハマンは、他の諜報機関や他国と異なる自分自身の方法論が最適だと信じ、そこで正面衝突をする。彼が目の前に降り掛かってくる障害物に直面することから、物語は展開するんだ。
この映画は多くの事柄について描かれている。まず関係のある国々や、テロとどう向き合っていくかについてだ。彼は正しいことをしようとしていて、僕は彼が本当にそうしようとしているのだと思うが、世界は悪者を大事にするような彼の手法通りには進まない。
この映画を見て何も感じないのであれば、視野が固まっていると思う
『誰よりも狙われた男』場面写真
(C) A Most Wanted Man Limited / Amusement Park Film GmbH (C) Kerry Brown
──そんなバッハマンが目をつけるのが、イスラム過激派として国際指名手配されている青年イッサですね。
ホフマン：イッサの父親は裕福で、チェチェン人に酷いことをたくさん行ってきた独裁者だ。この青年はそのような環境で生まれ、裕福な家庭で育ってきたことは明らかだが、彼は身の回りのお金が、若くして死んだ母親の犠牲の上に成り立っていたことに気が付く。それに気がついたとき、まだ彼は幼い少年だった。そして、彼はあちこちで小さなテロ行為を行う組織に加入し、それが原因で刑務所に入れられるんだ。
──原作は『裏切りのサーカス』など多くの傑作をもつジョン・ル・カレの小説です。物語についてどう感じられましたか？
ホフマン：この作品はとても人間臭く、人間らしさを出した作品だ。通常、政府やスパイ組織を描くと、より派手に、ロマンティックに描かれることが多いが、実際はロマンティックなことなど皆無なんだ。
『誰よりも狙われた男』場面写真
(C) A Most Wanted Man Limited / Amusement Park Film GmbH (C) Kerry Brown
──アントン・コービン監督はどんな方ですか？
ホフマン：彼はアーティストだ。写真家で、全てをユニークに捉えていて、何か特別なものを作り上げると信用させてくれる。彼は周りの人々を理解し、信用してくれる。助けが必要なときは出来るだけのことをしてくれるし、僕たちが納得するまで見守ってくれる。人の邪魔をしないどころか、時には好きにやらせてくれる。この映画は彼によってとても美しく撮られている。それは間違いないよ。やっと完成した作品を見たけど、彼は素晴らしい仕事をした。彼は大きなハートを持ち、アーティスティックなセンスは非常に鋭い。
──この映画で観客にどんなことを感じてほしいですか？
ホフマン：もしこの映画を見て何も感じないのであれば、視野が固まっているんだと思うな。この映画は必ず心を揺さぶるよ。広い視野と広い心で見れば、鑑賞後に素晴らしい議論を巻き起こすだろう。
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