昨年に開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015オープニング作品となった映画『鉄の子』がいよいよ2月13日より全国公開される。鋳物の街・川口市を舞台に、親の再婚をきっかけに姉弟となった同い年の子どもたちが、身勝手な親に反抗するために「リコンドウメイ」を結成。あの手この手で両親を離婚させようと企むのだが――。新鋭・福山功起監督が、少年時代に実際に体験したことを元に描きだしたヒューマンドラマだ。
子どもたちの母親役は、女優として著しい活躍を見せる田畑智子。田畑のデビュー作『お引越し』が以前から好きだったという福山監督が「子どもたちの成長を描く上で必要不可欠な存在。芯のある印象はこの作品の母親役にピッタリ」ということでキャスティングされたという。そこで今回は、母親役を務めた田畑に、本作について振り返ってもらった。
田畑：最初に脚本を読んだ時に、やよいという女性には強さもあるし、もろさもあるなと思って。そういったところが女性として共感できる部分だったので、演じてみたいなと思いました。いろいろと考えさせられる台本でした。
田畑：子どもに対して、あまり悲しい顔を見せたくないなと思いました。子どもにとっては強いお母さんでありたいなと思ったので、最後のシーンも、どういう表情をしたらいいのかということを監督と話し合いました。子どもの方を見るか見ないかで印象が全然違いますからね。
田畑：まぁ、酔っ払って帰ってきたりとか、もろい部分も見せていますけどね。でも、そこまで見えるのって、たぶん相当なことだと思うんです。正直、わたし自身もお母さんのそういう姿を見たことがありますし、女ってもろいときにはそうなっちゃいがちですけども。そういうところで子どもの一言に救われるんだなと思う。そういう意味で、わたしはあのシーンが大好きでした。
田畑：それは姉ですね。姉は22の時に子どもを産んでいて。3人いるんですけど、姉がそれによって、どれだけ強くなってきたかというのを、わたしは側で観てきましたからね。やはり子ども3人を育てるのってすごい力だと思うし、子どもを産んでから、姉は変わりました。すごく強くなったんですよね。本当に母親ってたくましいなと思います。特に男の子を育てるのは本当に大変で。甘えん坊なところもあるし、頑固なところもあるし。だから、姉を見ていて、姉もすごく成長したんだろうなと思います。母親としても妻としても、近くにそういう存在の人がいると、参考になったというか、こういうのがあったなということを思い出したりします。
──理想のお母さん像はありますか？
田畑：わたしのお母さんが理想です。理想のお母さんです。
田畑：いえ、逆に厳しく育てられたんですが、でもそれがきっと優しさだったんだと思います。小さいころはすごく怖かったんですよ。あまり褒められたという記憶はなかったですね。このお仕事でデビューしたときには、よく頑張ったねと言ってくれましたが。仕事の途中で「帰りたい」「嫌だ」とか言い出すと、祖母なんかは「1度引き受けたんだから。最後までやりなさい」と言うんですが、お母さんは「帰ってきたら」と言うんです。わたしは負けず嫌いだから、そこではそんなことを言われたら絶対に帰らない。わたしの性格をよく分かっているし、お父さんに対しても、男性を立てるというがすごくよくできている人だと思う。お母さんの心の大きさも大きいなと思うし、お母さんみたいになりたいなとすごく思います。
田畑：やっぱり決断力って女性の方が強いんじゃないかなって思うんです。（娘の）真理子ちゃんもそうでしたけど、弱い部分を最終的にしか見せないというか。それが女性の強さなんじゃないかなと思いますね。
田畑：2人はとても大人なんです。話をしていても、大人としゃべってるような感じでした。特に真理子ちゃんは少女という感じではなく、もうひとりの女性ですね。もちろん子ども同士で遊んでいる時は無邪気な感じがしていましたけど、でもお仕事の現場だということをしっかりと認識していて。そこはすごく大人でしたね。
田畑：とにかくできるだけそばにいようと心がけました。控え室はみんな一緒だったんで、ご飯を食べるときは、みんなで一緒に御飯を食べるようにしたりとか。現場と控え室は少し離れていたんですが、子どもがお芝居をしている時はなるべく現場の近くに行って、彼らの行動をなるべく見るようにしたりとか、遊んでいる姿を見たり、などを心がけました。
──田畑さんが思う理想の家庭というものはありますか？
田畑：私は、うちの両親が理想の夫婦だと思っているんです。ああいう風になりたいなと思いますね。すごい喧嘩をしても、それで仲が深まるというものもあるし、喧嘩できるほど仲がいいとはこういうことかというのも感じます。それから会話がすごく大事なんだなと思います。ふたりは毎日一緒にいるんですよ。職場も一緒だし、終われば、お父さんが先に飲みに行って。お母さんはその後から行くというくらいに、毎日一緒にいて。毎日一緒に会話をして。それでも毎日のように夫婦漫才みたいなことやっているんですよ。それがものすごくうらやましいというか。そういう姿を見ていて、わたしもそういう風になりたいなと思うんです。理想の男性はうちの父なんです。
田畑：それはわたしも思いました。すごく男らしくて、いいお父さんになりそうですよね。わたしは現場ではお会いできなかったんですけど、映画祭の時にスギちゃんに初めてお会いして。「すごく素敵でした」と言ったら、「いやいやいや」と言っていましたけど。だけど本当にああいうおじさんが近くにいて、「銭湯に行くか」と誘ってくれたら、男の子はすごく喜ぶんじゃないですかね。
田畑：もちろんいろいろな人に見てもらいたいという気持ちはありますが、あえて言うならやっぱりお母さんですかね。女性が見て、どう思うかちょっと聞いてみたいですね。
（text＆photo：壬生智裕）
1980年京都府出身。1993年、相米慎二監督『お引越し』で主演デビュー。第67回キネマ旬報新人女優賞をはじめ多数の新人賞を受賞。2000年NHK連続テレビ小説『私の青空』のヒロイン役で幅広い世代から注目を集める。崔洋一監督『血と骨』（04年）で第28回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、山田洋次監督『隠し剣 鬼の爪』（04年）で第59回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。2012年に主演したタナダユキ監督『ふがいない僕は空を見た』では第67回毎日映画コンクール女優主演賞を受賞した。その他の主な映画出演作は、矢口史靖監督『ハッピーフライト』（08年）、堤幸彦監督『くちづけ』（12年）、高畑勲監督『かぐや姫の物語』（声の出演／13年）、周防正行監督『舞妓はレディ』（14年)、『ソロモンの偽証』(15年)など。
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