1970年7月19日生まれ。宮城県出身。1991年に松尾スズキ主宰の「大人計画」に参加。脚本家として、映画『謝罪の王様』(13年)や『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(14年)、ドラマ『あまちゃん』『ゆとりですがなにか』をはじめ数多くの作品に参加するほか、俳優としての出演作も多い。『真夜中の弥次さん喜多さん』(05年)で長編映画監督デビューを飾ると、『少年メリケンサック』(09年)、『中学生円山』(13年)など監督としても話題作を世に送り出している。
「宮藤官九郎&TOKIO・長瀬智也が地獄を舞台にしたコメディ映画を撮る」という一報を聞き、胸をときめかせたファンは多かっただろう。これまで2人のコンビは、映画やドラマで奇想天外なストーリーとキャラクターを紡いできた。
一方で作品への期待値は高く、よっぽどのことでは驚かなくなっているというのも事実かもしれない。そんなハードルをあっさり超えていったのが映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』だ。「バカだと思われて笑われたかった」と語った宮藤監督に作品に込めた思いなどを聞いた。
宮藤:最初に企画を考えるきっかけとなったのは、単純に「長瀬くんとバカみたいな映画を作りたい」という思いだったんです。しかも今までの日本映画の枠にとらわれない方法でお客さんを笑わせたいという気持ちが沸いてきて「バカだと思われて笑われる」映画をやりたいと思って。
宮藤:長瀬くんとはドラマや映画ですでに色々なことをやってきちゃったんで。ヤクザで落語家だったり、刑事もやったし……って考えていたときに「もう人間じゃなくてもいいんじゃないか?」って思っちゃったんです。そんな時、ジャック・ブラック主演の『テネイシャスD 運命のピックをさがせ!』って映画が思い浮かんで、長瀬くんもたまたま見ていたんですよ。ああいうコメディって外国ではあるけれど、日本では誰もやってないよねって話になって「やろうか」って。音楽とビジュアルを結び付けていったら、地獄という舞台になったんです(笑)。
宮藤:これまで映画を3本撮っていて、自分のイメージを映像化するとき、どうしても現実にぶち当たるんです。この作品を考えたときも、地獄なんてどう撮ったらいいかわからない。自分が監督するのだから、分からなければ考えるのやめちゃえばいいんだけれど、それを超えなくてはいけないような気がしたんですよね。とは言いつつも、予算や尺の関係があるので、今回は全部、苦肉の策(笑)。でもお金や時間の制約があるからこそ、逆に面白くできることもあるってことは、小劇場でさんざん学びましたからね。
宮藤:最初は地獄だけで全篇やろうと思っていたのですが、現世との対比がないと地獄に落ちた感じがしないので。脚本を練っていくうちに主人公が死んでしまうところから物語が始まると、生きている人も描かないとダメじゃないかということになって、時々現世を行き来できるような設定にしたんです。そこから転生というアイデアが生まれた。でも実際転生した人なんていないから、自分で考えたルールにのっとって(笑)。
宮藤:全然違います。脚本担当として作品に携わる場合、初稿に全精力をつぎ込みますね。三池(崇史)監督が言ってましたが、初稿にパワーと説得力がないと、いくら直しても「何とかなったなぁ〜」ぐらいまでしかいかないんです。だから初稿は大切。でも自分が監督をやる時は、正直初稿はどうでもいいと思わないと書けないです(笑)。
宮藤:やっぱり映画は監督のものなので、撮影途中で監督が「こう撮りたい」という絵が具体的に見えてくることが多いんです。だから脚本だけで参加する場合は、それについていくだけなんです。でも自分で監督する場合、脚本を書いている段階で「絶対こう撮らないだろうな」って自信があったり(笑)。なので今回の作品は絵コンテを書いたんです。絵コンテを書くと脚本が映画に近づいていくんですよね。すごくやりやすかった。よく今まで文章で書いていたものを映画にしてたなって(笑)。それくらい不可欠なものですね。
宮藤:僕も「この人とやってみたい」という好きな監督がいっぱいいますからね。まあ誰にも撮ってもらえないような作品を自分でやろうかなって(笑)。あとは毎回そうなんですが、脚本ができて「この映画やります」となった時に、スタッフが「脚本読んだけれど説明を受けないと分からない」って言うんです。いつも言葉で説明している仕事をしているからかもしれませんが、言葉で説明できないような映画を撮りたいという思いはありますね。
宮藤:確かに事務所の方はよくOKしたなと思います。長瀬くんのメイクのイメージのラフを描いてもらったとき「これ長瀬くんだって絶対分からないよね」という話になったんです。でも、良く考えたら劇中、演じているのが誰だかわかることってそんなに重要じゃないと思ったんです。キラーKとしてそこにいれば、演じているのが長瀬くんだとわからなくたって作品としては問題ない。この作品はロッテルダム映画祭でも上映されたのですが、多くの観客は長瀬くんのこと知らないわけで……。でも盛り上がっていたし、結局、鬼に見えれば問題ないんだなって(笑)。
宮藤:わからないですよね。獅童さんに会うといつも「なんで俺を映画に呼ばないんだよ!」って言われるから「出てるじゃないですか」って言いたくてああいう形に……(笑)。古田(新太)さんも現場で言ってました「これ俺ってわからないだろ。俺じゃなくてもいいじゃないか」って。でも古田新太を知らなくても「閻魔様の人すごいね」ってなればいいわけで。誰だかわかるから笑えるという次元じゃない作品にしたいという思いはありましたね。
宮藤:歌詞は脚本に書いていたのですが、すごく早めに向井さんに渡していたんです。その時点で向井さんから質問がなく、僕のほうも注文をしなかったんです。映画や舞台を含めてこれまで何度も一緒にお仕事させていただいていますし、今回は完全にお任せしようって決めていたんです。出来上がった曲を聴いたときはビックリしましたね。まさかボサノバになるとは……。曲もアレンジも演奏も良かった。ギターソロまであって……。「まさか向井さんがギターソロ!」って感じでした。
宮藤:地獄という設定なので、若いときに亡くなってしまったミュージシャンを登場させようという意図だったんです。10代で音楽に目覚めたとき、早逝したミュージシャンというのは印象深いんですよね。ジミヘン(ジミー・ヘンドリックス)とかもそうですし。
(text:磯部正和/photo:中村好伸)
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