1954年12月4日、東京都出身。20代後半からプロデューサーを務め、『ハチ公物語』(87年)、『226』(89年)、『遠き落日』(92年)などで興収40億円を超える大ヒットを収めた。一方、『その男、凶暴につき』(89年)で北野武を、『無能の人』(91年)で竹中直人を、『外科室』(92年)で坂東玉三郎などを、それぞれ新人監督としてデビューさせる。『いつかギラギラする日』(92年)、『ソナチネ』(93年)、『GONIN』(95年)などで多くのファンを掴む他、今村昌平監督で製作した『うなぎ』(97年)では、第50回カンヌ国際映画祭パルムドールを獲得した。94年には江戸川乱歩生誕100周年記念映画『RAMPO』を初監督。98年にはチームオクヤマ設立後第一弾作品として発表した『地雷を踏んだらサヨウナラ』がロングラン記録を樹立。スクリーン・インターナショナル紙の映画100周年記念号において、日本人で唯一「世界の映画人実力者100人」のなかに選ばれる。近年も中村文則原作『銃』などをプロデュース。 日本アカデミー賞 優秀監督賞・優秀脚本賞、日本映画テレビプロデューサー協会賞、Genesis Award(米国)他多数受賞。
難病である若年性パーキンソン病を抱えながらも、東証一部上場企業DDホールディングスを率いて辣腕をふるう外食業界の異端児・松村厚久の実像に迫ったドキュメンタリー映画『熱狂宣言』が、11月4日より公開中だ。
本作のメガホンをとったのは、プロデューサーとして数々のヒット作を生み出した奥山和由。ドラマチックなナレーションを排し、ひとりの男が“熱狂的に”生きようとあがき、もがく姿にただひたすらと寄り添った内容となっている。そこで今回は、本作で共犯関係を結んだ奥山監督と松村厚久、そしてDDホールディングスの社長広報として松村をよく知る江角早由里プロデューサーにも加わってもらい、話を聞いた。
松村:いやいや、そんなことないですよ(笑)。若気の至りです。
松村:さすが世界の奥山さんだと思いましたよ。はじめは僕自身のことで客観的にとらえにくいこともあり、すごく不思議な感覚で見たんですけど、でもやっぱり映画は感じるものだと。テレビとは違うものだなということがよく分かりましたね。もう十数回も見ているんですけど、毎回、感じることが違いますね。
松村:スピード感があって、あっという間に見終わったという感じでしたね。
監督:まぁ、上映時間は77分なんで、実際にあっという間なんですけどね(笑)。
松村:うちの義理の兄が年間300本以上見るほど本当に映画が好きなんですけど、キネマ旬報に僕が載っているのを見て、「キネ旬に載る日が来るなんて。厚久、夢がかなったな」と大興奮でしたよ。(東京国際映画祭で)レッドカーペットも歩きましたしね。
江角:わたしも外食の広報をしていて、まさか自分の社長がキネ旬に載る日が来るなんて思わなかったですよ(笑)。学生時代に映画業界でインターンをしていたこともあり、奥山さんに学生時代の夢をかなえていただきました。
松村:僕は映画が好きで、昔から朝礼でも社員に向かって「映画を見なさい」と言ってきたんです。それくらい映画は僕にとっては身近なものだった。それから店舗開発において、映画の世界観からインスピレーションを受けて、新しい店に反映するということは結構やってきたんですよ。例えば『オペラ座の怪人』や『ブラザーズ・グリム』といった映画を参考にして、店舗のイメージを膨らませたこともありましたね。
監督:松村さんという人の印象はどんどん変わっていくんですが、徐々に分かってきたのが、非常にシンプルな人だということ。なんで松村さんと会っていると元気が出るのか、爽快感みたいなものが残るのはなぜなのか。例えば落ち込んだ時は、何もかもがうっとうしくなり、意味も分からずに苦しくなることもありますが、スマホのアプリをアンインストールするように、いろいろな雑念を取り払っていくとスッキリして気持ちが軽くなることがありますよね。そうやって松村さんはシンプルになっていったんだと思うんですよ。パーキンソン病になることで、やれないことが山のように出てくるわけですし、それによっていろいろなものが排除されていったのでしょう。もちろんそうした痛みはあったと思うんですが、そうせざるを得ないという状況を何年も続けるうちに、どんどんシンプルになっていったと思うんですよね。
松村:僕は奥山さんの大ファンですから。『いつかギラギラする日』とか『GONIN』なんかも大好きでしたね。僕の実家にもVHSがたくさんありますからね。
奥山:松村さんって誰に対してもそうだけど、人と付き合う以上は、相手をどうやって喜ばせようか、リスペクトしようかと考えている人だと思うんです。それは社員に対しても、誰に対してもそう。例えば(スタッフの)運転手さんに対しても、近くにいると汗臭いとか、いろいろと好き勝手なことを言っていますけど、逆に言うと、それがあるからこそ遠慮がない距離感で会話ができるんだと思うんですよ。
松村:まったくないです。テレビの取材を受ける時でも、何を撮ってもいいと言っているんです。病院もどこでも、許可がもらえるところならどこでも撮って構いませんと言いました。
松村:別にカットしてもらいたいとは思わないですね。奥山さんが必要なカットだということですから。ただ社内の人間は反対しましたけどね(笑)。
奥山:コンプライアンス上は問題になる可能性もありますからね。
江角:社内では、松村以外は皆、わざわざ使う必要があるのかと反対していましたよ(笑)。
奥山:株主総会の映像を、目的外で使用するということは基本的には許諾が必要なことなので、使用する場合は、映像に映り込んでいる株主はもちろんのこと、映像に映っている本人にも了解をもらわないといけない。地道に時間をかけて、一つ一つクリアしていかないといけないんですよ。
江角:もちろん許可をとりました。承諾書を送って、サインして戻してくれということで。
奥山:まずは本人以外、映り込んでいる株主全員の承諾を3ヵ月くらいかけて全部とってもらいました。それから最後は、あの映っていた本人に配達証明を送ったんですけど返事がなくて。そこで江角さんが直接電話をして、本人と話をしたんです。
江角:やはり社内的な調整は大変でしたが、それでも社内の担当部署の社員や上司と相談して通しました。株主さんの許可も取りましたし、発言した本人の許可も取ったというのは大きかったですね。映画が出来上がった今となっては、みんな歓迎ムードになっていますけど、クリアするまでは大変でしたね。
奥山:映画だけをやっている我々と違い、DDホールディングスさんは一部上場の企業なので、コンプライアンスはクリアしなくてはいけないし、そのためには膨大なエネルギーが必要になる。松村さんは、奥山が使いたいと言っているから使えるようにしてくれと言ってくれた。みんな嫌々だろうが、そうしないといけないということで。でも普通の会社なら、トップがもう無理かなとあきらめてしまうところだと思うんですけどね。
江角:そもそも我々はこの映画に出資もしていないわけで。これは業務じゃないんですよ(笑)。とはいえ、松村としては、奥山さんの意向通りにしたいという思いが強かったので。社内をなんとか説得しましたけどね。
松村:やはり立場もありますからね。訴訟に持ち込まれたら大変だから(汗)。
奥山:僕自身は、なぜ彼らが急スピードで成功したのかといったビジネスの部分はあまり興味はなかったんだけど。でも、この問題をクリアにするためのプロセスひとつとっても、人間の温度とビジネスにおけるバランスの良さと粘り強さがあるなと感じたんです。とにかく僕が言いたかったことはひとつだけで、「あきらめない」ということ。負けを認めずに続けているうちは負けじゃない、という松村さんの哲学は、言葉にしたらすごいシンプルで当たり前な発想のように思われるかもしれないけど、それを実行するのは相当なものだと思う。その実行力がすべてだと思うんですよ。
松村:やはり日本の皆さん、全員に見てもらいたいですね。基本は30代、40代、50代の男性になると思いますけど、実は僕、40代の女性に人気があるんですよ(笑)。圧倒的な強さを見せていますからね(笑)。女性がご覧になると、きっと男性とは刺さるところが違うと思うんですよ。
江角:男性の観客は戦う実業家という姿が見たいんだと思いますし、株主総会のシーンのインパクトが強かったとおっしゃっていただいているんですが、女性の観客はそこよりも病院のシーンとか、海のシーンとか、実家に帰るシーンとか、社長の人柄が見える日常のシーンが良かったと言ってくれる方が多いですね。映画の見方は、男性と女性では違うように思いますね。
奥山:松村さんは余計な見栄がないところがいいんでしょうね。そういったものがスッパリとキレイになくなっているから。そういう意味でこの映画を見て、一番反応するのは、30代後半から40代前半あたりの女性じゃないかと思うんですよ。女性もおそらくそのあたりで、インプットしたものを整理しなきゃいけなくなってくる。そういう人にとって、この松村さんのシンプルさはスッキリすると思うんです。
奥山:これは言葉を選ばずに言ってしまいますが、松村厚久という男はこんなにガタガタなのに、何の問題もなくまとまっているじゃないですか。僕も昔、難病を患っていた企業のトップの方を何人か知っていましたよ。でもその人たちは、自分のへこんだ部分を埋めることにすさまじい執念を持っていた。でも松村さんは、それを削除する方に針が振れて、スッキリしちゃった。残ったのは多少の性欲と(笑)、多少の自己顕示欲くらいで。病気も良くなりたい、まだまだ元気で生きていたいということを、ものすごく素直に表現できるようになったというのが、見ていて、さわやかになるんじゃないかなと。だからこそ撮っておくべき人だった。そういう意味で、この作品は落ち込んでいる人に見てもらいたいですよね。
松村:聞いてなかったなぁ(笑)。
江角:社長は照れているんですよ(笑)。
(text&photo:壬生智裕)
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