1985年2月8日生まれ、兵庫県出身。連続ドラマ「仔犬のワルツ」(04年)で女優デビュー。その後、『アジアンタムブルー』(06年)、『未来予想図 〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜』(07年)らの映画や、連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(10年)などに出演して女優のキャリアを積む。一方で、3歳からピアノを始め、東京音楽大学音楽学部音楽学科卒業。2月6日に7枚目となるオリジナルアルバム「Synchro」をリリースし、現在全国ツアー開催中。また、現在放映中の連続テレビ小説『まんぷく』では、ヒロインの姉を好演している。
宮川サトシの自伝エッセイ漫画を実写映画化した『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』。衝撃的なタイトルが印象に残るが、劇中では母を思う息子の思いが、優しく切なく、そしてコミカルに描かれている。
そんな本作で、安田顕演じる主人公サトシの良き理解者である恋人・真里を演じているのが、女優・松下奈緒だ。近年、ちょっと頼りない男性を支える妻を好演することが多い松下が、撮影のエピソードや人の死に対する思いなどを語った。
松下:原作の可愛らしい感じの絵のイメージが強かったので、敢えて読まずに臨みました。大森(立嗣)監督が脚本を書かれていたので、それを頼りに役を作っていきました。撮影が終わったあと、漫画を読んだのですが、絵は違うものの、ほっこりする温かさなど共通する部分は多かったのかなと思いました。
松下:まだ家族ではない、恋人という段階からスタートするんですよね。いずれは結婚するだろうなと思いつつも、サトシさんのお母さんとの距離感は考えました。あとはサトシさんというか、男性は結構、物事を一人で決められないんだなということを実感して、どこまでお尻を叩いていいのかなということも意識しました。
松下:本当にそうですよね。真里さんの行動や言動って「支えるというのは、こういうことなんだな」と思えるんです。イエスだけではなく、ダメということもしっかり言う。真里さんは、実際にサトシさんの奥さまなわけで、こういう人がいるんだ……すごいなと思いました。
松下:実際の肉親ではないのですが、死が間近に迫った愛する人の母親に対して、100パーセント理解できているのか、という気持ちは常にありました。真里さんだったら、どうするんだろうと考えつつも、辛いとき励ましたらいいのか、元気づけたらいいのか、見守っていたらいいのか……気持ちはわかるけれど、どういう接し方をしたらいいのか、とても難しかったです。
松下:大森組で安田さん、倍賞さんというメンバーだったので、ぜひやらせていただきたいと手を挙げさせていただきました。大森監督はハードな作品を撮られるというイメージで、見た目からも、少し怖いのかなと思っていたのですが、実際お会いするととても優しい方でした。脚本もあまり気にしなくていいとおっしゃっていて、とても心穏やかに過ごせた現場でした。
松下:そこまで台本が変わることはなかったのですが、その場の雰囲気で出てしまうようなものはありました。でも真里はそこまでセリフもなく、お母さんとサトシさんを見守っている立場なので、どちらかというと、二人のセリフに反応するという立場でしたね。
松下:そうです(笑)。あれはふざけていて……。でも倍賞さんが受け止めてくださったんです。ああいうシーンがあると、二人のいい関係性も見せられるのかなと。結構カット際になにか言う感じが好きなんですよ(笑)。
松下:お母さんが亡くなってしまうのはわかっているのですが、現場はとても楽しい雰囲気でした。逆に、明るくしている方が、悲しいんだなと感じることもありました。岐阜でのロケでしたが、私と安田さんと倍賞さんで、公民館で炊き出しご飯を食べたり、とてもフランクに接していただきました。
松下:男性っていくつになってもお母さんが一番なんだなと思いましたね。妻になる際、その母親を超えようとするのではなく、自分ならではの接し方を考えた方がいいんだろうなと実感しました。あとは、若いころだと、大切な人を亡くすのは、まだまだ先だと現実味がないのかもしれませんが、私も30代になり、自分が大切な肉親を亡くしたとき、どう接したらいいのかを考えるようになりました。この作品に出会わなければ、考えていなかったかもしれません。
松下:この作品に出会うまでは、こうした発想は頭になかったのですが、ふと「果たして私は誰の遺骨を食べるのかな」と考えたとき、両親だったら、そうしてしまうかもしれないなと思いました。だからサトシさんがしたことにも共感できましたし「そこまで母親を愛することができる人を好きになって良かったな」と思うかもしれません。
松下:どこかで受け入れなければいけないなと思うかな。どういう風に残された人生を過ごすことを望んでいるのか、一番に考えてあげたいですね。
松下:とても素敵な曲ですよね。エンドロールでまた泣けるんです。映画で伝えたかったことが、すべて歌に集約されているような気がします。BEGINさんの歌声もストレートでシンプル。心に刺さりました。音楽は小さいころからやっていて、できる限り多くの人に音楽活動は知っていただきたいし、楽しんでもらいたいという思いがあります。この作品でも、機会をいただけるのはありがたいことです。
松下:女優さんをやらせていただいて15年ぐらいたつので、成長していないとまずいなとは思いますが、自分のなかで満足しては終わりだと思っているので、あまり実感はないですね。もちろん現場でのふるまい方など、多少は成長している部分はあると思いますが、女優の仕事は点数で評価されるものではないですからね。あとは、年々難しく考えないようにとか、自分が思ったことを信じようという気持ちは出てきています。
松下:先輩が亡くなったり、水木しげる先生が亡くなったり、肉親ではありませんが、自分が大好きで愛おしいと思っている方が亡くなったときは、すごく寂しい気持ちになるのですが、一方で「ちゃんと頑張るので見ていてください」という気持ちも湧いてきます。まあ、自分のなかでそう思わないと前に進めないという部分もあるのですが……。すごく尊敬する方が亡くなってしまうと、喪失感と同時に、一緒に過ごした時間がフラッシュバックのようによみがえってきます。人はそういう悲しみを乗り越えようとパワーが生まれてくることもあると思います。それが亡くなった人がくれた、最大の贈り物のような気がするんです。そういうことをすごく感じる作品でした。
(text&photo:磯部正和)
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