『ジョーンの秘密』ジュディ・デンチ インタビュー

不公平を是正すべきという気持ちは理解できた

『ジョーンの秘密』
2020年8月7日より公開中
(C)RADEMARK (RED JOAN) LIMITED 2018

これまでに『007』シリーズや『キングスマン』シリーズなど、イギリスでは数多くのスパイ映画が誕生している。そんななか、イギリス史上、最も意外なスパイと言われている人物の実話を基に描いた話題作『ジョーンの秘密』が誕生した。2000年にイギリスを駆け抜けたのは、ソ連のKGBに核開発の機密を漏洩していた“核時代最後のスパイ”として容疑を掛けられたのが、どこにでも住んでいるような80代の老女だった、という衝撃のニュース。本作では、ドラマティックで数奇な彼女の半生をスリリングに描いている。

今回、主人公となる元スパイのジョーンを演じたのは、イギリスが誇る大女優ジュディ・デンチ。「英国映画・演劇界の至宝」と呼ばれ、唯一無二の存在感で世界中から愛され続けている。そこで、ジョーンを演じるうえで感じた思いや現場の様子などについて、語ってもらった。

デンチ：ジョーンは、ごく普通の家に住んでいるとても普通の女性。でも、1940年代にソ連のスパイだったことが、高齢者になってから判明するのよね。だから、彼女はとても上手く秘密を守ってきた人物だった思うわ。

デンチ：ずっと隠し通していたけれど、それは彼女が自分なりの信条を持って行動していたからじゃないかしら。第二次大戦から冷戦期にかけて、ソ連のスパイとして活動していたイギリス人のガイ・バージェスとドナルド・マクリーンを思い出したわ。

デンチ：たとえば、王室の絵画鑑定士だったアンソニー・ブラント。彼もごく普通に見えていたのに、裏の顔があったことを突然暴露されてしまうんだけれど、権威ある仕事に就いている人が裏でスパイ活動をしていたなんてまさかよね。衝撃的なことだと思うわ。

『ジョーンの秘密』撮影中の様子

デンチ：映画の中で彼女が行動を起こすきっかけとなったのは、広島の原爆投下を知ったときだけれど、私自身も広島のことはよく覚えてるわ。そのあと、すぐに長崎も続いたのよね。私もショックを受けた出来事だったから、彼女の気持ちが分かるところもあるの。不公平を是正すべきだと。そして、一方に情報が偏るべきではないという考え方も、私自身が信じていることでもあるわね。

デンチ：トレヴァーとは長い付き合いよ。ストラトフォードの舞台で『マクベス』や『間違いの喜劇』や『冬物語』の舞台を一緒に作ったことがあるから。でも、彼の映画に出るのは初めてのこと。だから、出演を打診されたときは、「喜んで」と答えたわ。

『ジョーンの秘密』撮影中の様子

デンチ：トレヴァーについては、何と説明したらいいかわからないんだけれど、彼は“現場主義”で、いつでも近くにいてくれる監督。それは、これまで一緒に仕事をしたどんな映画監督よりも、そばにいてくれる感じるほどよ。この感覚は、俳優じゃないと分かりにくいかもしれないけれど、とにかくトレヴァーは私たちとの距離が近いということは言えるわね。普通、映画の撮影現場で監督というのは、カメラなどに囲まれていて、俳優とは離れた場所にいることが多いんだけれど、彼の場合はとても近くに感じるの。

デンチ：彼との共演は、信じられないほど楽だったわ。なぜなら、会ってから本当にあっという間に打ち解けたから。彼について何も知らなくても楽に仕事ができたほどよ。でも、それは彼が本当にすばらしい俳優だからだと思うわ。

デンチ：：確かに、母親の立場で考えるとつらいところもあったわ。かなりの年齢になった息子に過去を知られてしまうわけだから。スパイの話をニュースで聞くだけでも衝撃的なのに、家族がその1人だったなんてね。実際、彼女の息子は本当にショックを受けたはずよ。

デンチ：最初は、ジョーンだけが秘密を暴かれる日が来ることを恐れて暮らしていたと思うの。それがある日突然、すべて明るみに出て、息子との関係がぎくしゃくしてしまうだけでなく、証言台に立たされて、スパイ集団の一員だったと認めなければいけないなんて……。でも、彼女にとって何よりもつらいのは、自分の告白によって愛する人たちを永遠に傷つけ、その影響を受けてしまうことだったんじゃないかしら。

デンチ：おそらく若い観客のなかには、こういった事件を知らない人も多いとは思うけれど、きっとたくさんの驚きが待ってると思うわ。