1997年生まれ、東京都出身。2014年、河瀨直美監督の『2つ目の窓』(14年)で映画主演デビュー。『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)、『武曲 MUKOKU』(17年)、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17年)、『ハナレイ・ベイ』(18年)などに出演し、『銃』(18年)に主演。オダギリジョーの長編初監督作『ある船頭の話』(19年)ではキーパーソンを演じる。待機作に『銃2020』(武正晴監督)『燃えよ剣』(原田眞人監督)、『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督)がある。外山文治監督の短編『春なれや』(17年)にも出演している。
映画作りってこんな面白いんだって思わされる現場だと感じた(村上)
東京で役者になる夢が挫折寸前の翔太。海辺の町の高齢者施設で働くタカラ。それぞれ別の世界で生きてきた若い男女が偶然出会い、ある事件をきっかけに全てを捨てて逃避行する姿を追う『ソワレ』。
彼らを強く結びつけたものは何か? 過酷な状況に追い込まれながら、ただひたすら走り続ける主人公2人を瑞々しく演じた村上虹郎、芋生悠に話を聞いた。
村上:僕から頑張ります。
タカラは、まずやっぱり、生きる意志を持ってそこにいてくれている、という感覚はあります。一歩間違えたら、もうこの世から消えてしまっていてもおかしくない経験をしていると思うんですけど。でも、そこに存在しているということのすごさを、僕が演じた翔太もだし、役を通して僕自身も感じます。僕はタカラの人物造形に関しては脚本でしか知らないんですけれども。何がそう強くそうさせたのか、ということはやっぱり興味深いし、すごいなと思います。シンプルに。
村上:そうですね。それは演じた方の強さでもあると思う。もし芋生さんじゃなかったらどうなるんだというか。僕らの中ではこの映画にとっては芋生さんというのは必然だからこそ、逆に気になりますよね。
芋生:私は、“タカラとして見た翔太”というのが印象的です。役者をやっている彼が輝いて見えていて。好きなものに熱中していて、自分じゃない誰かを演じたり、いろんな世界を見ているのがうらやましかったり、輝いて見えてて。その中に、自分をもっと見てほしかったり、もっと認めてほしい、愛してほしいという思いもあって、それをどこにぶつけたらいいか分からない、みたいな。怒りみたいなものが芝居をしてる中で、社会の憎悪みたいなものがグワーッてうごめいて見えるような目をしていました。私の役は狭い世界で生きているので、翔太の目から“こんなものを見てきたんだ”と感じ取ったりもしたので、すごく人間ぽくて、輝いて見えてました。
村上:まず貴重な体験として、初めてオーディションに立ち会うということをしました。もちろんそのときに台本もあって、その後にだいぶ変わっていると思うんですけど、それでもちょっと前から翔太を少しは演じていたみたいな気持ちもあって。監督とは結構コンタクトを取りました。今までの作品では、監督に、人物についてめちゃくちゃメールとかで聞くことはなかった。ここ最近でやるようになったのですが、あんまり聞いちゃいけないのかな?という感覚が前はあった。でも、それこそオリジナルというのも含めてなのかもしれないですけど、「ちょっと聞かないと分からないな」ということがたくさんあった。監督とやり取りしながら一緒に作り上げるというか、一緒に理解していきました。でも、役者の役ということで知らない職業ではないので、いわゆる「初めての挑戦」みたいなものとはまた違うかもしれませんね。肉体づくりからとか、そういうことはできないし。衣装合わせで、どういう服を彼は好んで着ているかという些細なことからヒントを探したり。それでも分からないというか、曖昧だったんです。
村上:まさにそうですね。遠いほうがもう少し無責任でいられるかな。
芋生:私の役は逆にというか、分かりやすいと言えば分かりやすくて。ただ、表面的に掬(すく)うんじゃなくて、心のもっと奥でたくさん葛藤して何度もくじけそうになって、それこそ「もう死のう」ぐらいの気持ちの中から何度も立ち上がっている部分を自分の中にも持っていないといけないので。自分自身は両親にも愛されてきたし、たくさんいい出会いをしてきたし、まだ22歳ですけど、タカラよりはきっといろんな世界を見ています。だからこそ「タカラはこうだろう」というものでやってはいけないなと思いました。タカラになることは、もしかしたら無理かもしれないとまで思って。でも、この子をそばで見ていたいなって思って。とにかく一緒に一番近くで見ていたいなと思ってやっていました。
芋生:演じているときはもう完全にタカラという存在になっているけど、同時に一緒に私もいるような。言い表しにくいんですけど。タカラをそのままやろうと思ったら、自分も壊れちゃうなと思って。それはタカラに対しても申し訳ないし、それではいけないなと思ったので、2人いたらもしかしたら走り抜けられるかもしれないと思った気がします。
村上:そうですね。(芋生に)どう思いますか?
芋生:これがね。難しい。この2人の関係は、たぶん見てくださった方に委(ゆだ)ねたほうがいいのかなとは思っています。ただほんとに名前では言い表せない2人だけの、短いかもしれないけど、心でぶつかっていた、裸でぶつかっているような、そんな感じがしていて。私は個人的に恋愛経験とか全然乏しいんですけど、恋愛と言えないかもしれないけど、そういう人間同士の内面でぶつかって絡み合うような関係というか。そうでありたい。それが愛な気がするな、と思います。
村上:(アソシエイト・プロデューサーの小泉)今日子さんとそういう話になったんですけど。今日子さんが「恋愛の恋が薄いから愛が強まってるんじゃないか。だから人間愛の映画なんだ」って。(ジョン・カサヴェテス監督の)『グロリア』っぽい。もちろんタカラと翔太との年齢設定も関係性も違うけど、表現したこととしては近いというか形は違っていても、それは近いことかな、と思います。
芋生:監督はギリギリの状態で一緒にいてくれました。クランクイン前に「心中するくらいの気持ちでやるから」と言われて、私も「そういう気持ちでやります」と答えました。撮影中も、どんどん顔つきも変わってくるし(笑)。私たちに感情移入してくれて、本気でぶつかってくれたので、そこにすごい信頼があって。監督がOKと言ったら、きっとOKだろうと信じて、ついて行くしかないと思っています。
村上:監督の印象自体は変わってないんです。むしろ監督らしさはずっとあると思うんです。なんかね、朗らかを気取ってるんですけど、結構目が“決まってる”んですよね、実は、という印象(笑)。
芋生:(笑)確かに。
村上:意外と目がきついです。
それっておそらく監督という仕事に共通しているのかもしれない。ものすごい視点を持って、ものすごい深さ、緻密さで、多角的に見ている。ある意味、人格もたくさんあるわけじゃないですか。脚本家さんも、作家さんもそうですけど。
監督はこれまでずっと、自分でプロデュースしたり、いろんなことを全部自分でやってこられましたけど、今回はまた全然違うつらさがあると思うんです。違うステージで監督が挑戦してる様を僕らも目の当たりにしたとき、顔が変わった。3分の1くらい撮った後に休みがあって、その撮休が明けた次の日に2日前の顔と全く別人みたいになっていたんです。
芋生:違う人みたいに。
村上:僕らでもさすがに気づかざるを得ないレベルで面構えが変わった。役者より変わってない?みたいな感じはあって、面白かったですね。
村上:もちろんそれはあります。監督が一番先を突っ走ってるイメージはあるというか。
芋生:役者みたいだよね(笑)。
村上:そう。一番プレーヤーな部分があるというか。プロデューサーさんも、現場においてプレーヤーでいてくれたというのもあって。僕らからしたら、むしろすごい素敵なことだった。一体感というのが強かったんじゃないですかね。ものすごいエネルギーだった。映画作りってこんな面白いんだって思わされる現場だと感じました。
村上:僕はあんまり分かってないで臨(のぞ)んでます。“ソワレ”という言葉の意味は知っているけど、どういう意図を持ってこのタイトルを付けたかということに関してはあまり聞かずにやっていて、そんなに深読みはしてないですね。見終わっても、僕の中ではまだ読み切れてない余地があるので。芋生さんは、ちゃんとこれから答えてくれると思うんですけど。監督の説明も豊原さんの説明も、それぞれ違うし。僕は「そうなんだ」と、いろんな人の解釈見て楽しんでいるところがあります。
芋生:演じているときはタイトルについて考える余裕もなかったんですけど、公開に向けていろいろ準備してる中で、『ソワレ』をやっていたときの記憶がフラッシュバックする時間もあったり。そういうときにガン!と落ちたりするんです。同時に自分自身も今の状況……コロナ禍だったり、地元が大雨で被災したニュースがあったりで、すごく暗くなったんです。重くて、何も見えないような暗いところにいったとき、そんなにパッと明るく照らしてくれなくていいから、ちょっとでもささやかな光みたいなものがあったらいいなと思っていて。それが明日を迎えるための希望になればいいなと思うので。
この映画を思い出すと、たまにつらいときもあるけど、やっぱり本当に特別でたくさん大切な人たちの顔が浮かぶし、自分のことがちょっと好きになれるし。この映画によって変わることで、自分も明日を迎えられているというか、毎日生きられている気がするので。“ソワレ”というのは、“ずっと暗闇じゃないんだよ”ということ。絶対歩き続けなくてもいいなと思うし、立ち止まってもよくて、ちょっといつもと違うところを見て、誰かに寄り添ったり、自分を愛してあげたりすることによって明日が迎えられるんじゃないか、という意味だと思います。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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