1974年7月9日生まれ、埼玉県出身。1991年にCDデビューし、ドラマや映画、舞台、CMなどで活躍。主な映画出演作は『黄泉がえり』(03年)、『日本沈没』(06年)、『あなたへ』(12年)。テレビドラマは『僕と彼女と彼女の生きる道』(04年)、『任侠ヘルパー』(09年)、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(21年)など。2017年9月には『新しい地図』を立上げ、オムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18年)中の『光へ、航る』に主演。その後に『まく子』(19年)、『台風家族』(19年)に出演し、第44回日本アカデミー賞作品賞受賞の『ミッドナイトスワン』(20年)で同最優秀主演男優賞を受賞。「アルトゥロ・ウイの興隆」など舞台作品にも出演。現在、Disney+とNHK・BSプライムにてドラマ『拾われた男』が配信・放送中。
トランスジェンダー役が自然な感じでできたのは現場のおかげ
東京でトランスジェンダーとして生きる凪沙が、故郷・広島から親戚の少女・一果を預かることになるところから始まる『ミッドナイトスワン』。実母の育児放棄に遭っていた中学生の少女との生活が始まり、少女はバレエという夢に出会う。高みを目指すこの子の背中を押してあげたい。そう思い始めた凪沙の中に、それまでなかった感情が芽生えていく。
人はこの世に生まれてくる時、親を選べない。性別も、名前を選べない。その定めに抗い挑む凪沙の葛藤を渾身の演技で表現した草なぎ剛に話を聞いた。
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草なぎ:面白そうだったので、ほんとに。内田監督の『全裸監督』とかも見ていて、その監督とお仕事できるんだな、面白そうだなと思って。台本も読まないで。
草なぎ:そうです。役とか作品って、話が来た時点で巡り合わせというか、神様がくれてるんじゃないかなっていう勝手な思い込みがあって。そこは難しく考えないです。来た仕事は取りあえず拒まないで、来るうちはやらないと生活できないみたいな。そんな感じですよ。そんなに難しいことは考えないですよね。
草なぎ:自分がどの役か分かってないで読んでるくらいなんで。でも、まあこの役だろうな、とは思ってました。主人公って聞いてたから。大体その役なんだろうなと思って。一果ではないな。と(笑)。いつもどの役か分からずに読むことが多いから、それはそれで楽しみではあるんですよ。でも大体いつも合ってる。この役だろうなって。主役じゃなかったら、「あれ? どうかな?」みたいな感じになるんですけど、今回は分かった。でも、あんまり難しく考えないで、ほんとに読んだら「すげぇ、いい!」と思ったので。大体いつもそんな感じなんですよね。
草なぎ:どういう気持ちか分からないんですけど、すごく感動したんですよ。果たしてこれは何の感動なのかっていうのが分からないのが、すごい良くて。何て言うのかな……。一果の気持ちもすごい分かる。母から愛情を受けてはいるんだけど、うまく受け止めていない一果と、トランスジェンダーとして生きてきた凪沙のどこかが、心がシンクロするというか。どういう理屈か分からないんだけど、そういうところってすごい人間らしいなと思って。最初に台本を読んで、すごい涙が出てきたんですけど、「何で俺は泣いてんのかな」みたいな。でもそれが非常に素敵で、リアルだなと思って。それが映像でも伝えられたらな、と思ったんです。
草なぎ:そうですね。何か考えてもできるような役じゃないので。監督がすごく優れているので、現場でその空気を感じていました。樹咲ちゃんもほんとに初めてで、演技もしたことなかったので、演技するというか、その場でその人物になれれば、というのを意識していました。
事前に監督からいただいたいろいろな資料に目を通して、そういう方(トランスジェンダー)と会ったりして、それも自分の中ですごく役作りの参考にはなりました。現場がすごくいい形で進んでたので、自然な感じで「できたかな」と思っています。
草なぎ:いや、全然してなくて。今初めて、そう言われればそうだなと思った。たまたま僕もクサナギなんで、“なぎ”つながりでね(笑)。
草なぎ:台本に書かれていることが全てというか。やっぱり内田監督の世界感が鮮烈に、読んだときに感じて響いてきたので、自分で裏設定とか考えなくてもよかった。すごく台本に力があったので、無意識のうちに台本に書かれてないような背景も感じ取れたのかな。
草なぎ:そうなんですよね。テストもなくてよかった。というか、監督がそういうスタイルだったので。困ったことは特になかった。
あんまり考えてやる役でもないので。もしかして、何度もテストをして作り込んじゃうと、いろいろ考えちゃって、このような形には演じられなかったのかな。僕としては、非常に楽な形で演じさせてもらえたというか。何も言われなかったので、好きにできました。
草なぎ:自由に動けたし、それで監督がOKしてくれたので、この方向性で合っているんだなと思っていました。樹咲ちゃんには監督がいろいろ言っていたんですけど、僕のほうには本当に何も言わない。そのバランスもすごく良くて。僕を信頼してくれたのか、僕もだんだん「監督もあえて僕に言ってこないのかな」なんて思ったりして。監督とディスカッションとかはしてないんですけど、日に日にお互いが目指している“凪沙”がつかめていったというか。監督も現場を進めながらやっていったところもあるのかなと思っています。
草なぎ:そうですね。でも“なんちゃって”バレエなので(笑)。みんなでレッスンして、撮影の合間にも時間を見つけて練習したね。撮影でみんな揃う日がなかなかなくて、「今日みんないるね」という時は撮影現場の隅でやってました。
つま先痛くて(笑)。でも、ああいうのも面白いと思いました。みんなで励まし合って。1人ズレると結構大変だったんで。
なるだけ「明日はちょっといい日になるんじゃないかな」と思って
草なぎ:そう。結構頑張ったね、あの日はみんな。
草なぎ:その経験も生きてはいるんですけど、やっぱり体の動かし方などは(バレエと)違かったりして、大変でしたね。
草なぎ:そうですね。海辺のシーンかな。天気のことがあって。撮影でよくありがちなんですけど、早く撮ればいいなと思ってたんですよ。現場に入ったら、ご飯休憩を入れることになって、「休憩いれるの? いやいや、もう撮ろうぜ」と思ったんですけど、みんなおなか減ってたみたいで(笑)。そしたら、ご飯食べたら雲が出てきちゃって。「だから言ったじゃない!」と俺は思ってたんですよ(笑)。それが結構大変でしたね。感極まって一果と接しないといけないのに、撮りながら「あ、雲が来てしまいました」「いやいや、OK」「いや、ちょっとつながってない」みたいな(笑)。あれはほんとにご飯抜きでやるべきだったな(笑)。30分ぐらいかな、ご飯したのが。そしたら急に雲が出てきて。それが一番つらかったです、ほんとに(笑)。
草なぎ:あさみちゃんとは昔共演したことがあったんですけど、本当に久しぶりにお芝居して。すごいパワーというか圧力がありました。一果の本当の母親なので、すごい覚悟で僕と対峙する気持ちが痛いほどで、すごくどきっとさせてもらった。凪沙はそれを受け止めて、自分の子どもではない一果に対して、ほんとの母より私のほうが愛してるんだよ、という気持ちを持つのはやっぱり大変でした。あそこまであさみちゃんに睨まれちゃうと、怖かった(笑)。
草なぎ:そうでしたね。現場も緊張感あるので。どうすればいいかな、というのはいつも考えてはいますね。
草なぎ:ありがとうございます。一果を演じた樹咲ちゃんは演技が初めてで。でも今まで演技をやったことないが故に、僕の目の前にいるのはほんとに一果だったんですよね。それにすごくびっくりして、というか、いとおしく思えてきて。(撮影中)監督に本当にいろいろ言われていたんですよ。俺は言われなくて、「ほんと大変そうだな」と見ていたのも含めて、すごくいとおしくなってきて、それがうまく相まって。一果、ちゃんと演技できるかなって、ちょっと思ったりするんだけど、役を超えて守ってあげたいな、みたいに思わせてくれたというか。
でも、彼女はしっかりしてもいるんです。逆に僕が(演技の)勉強になったというか。僕も樹咲ちゃんに比べたら、いろんな作品出てますけど、そういうことじゃないんだな、と。どんな演技をしてきたとか、今までやってきたことはもう関係ないというか。いい意味で僕をゼロにさせてくれたので。僕が凪沙を演じるに当たって、監督の気持ちもそうですけど、すごい純粋な、女優さんとしては生まれ立てでそこにいる彼女を見たときに、僕もまたゼロに戻してもらえたところがありました。
草なぎ:いえいえ。
草なぎ:合間に話してるときはほんと等身大の少女で、「お菓子食べたいんだよね」とか。僕も「あ、チョコレート好きなんだ」とか言って。お母さんが僕と同じ年なので、お母さまにも樹咲ちゃんにも何か親近感が湧いてきたし。だけどカメラ前に立つと、やっぱりすごい。大げさなこと言うと、彼女は一果を演じるために生まれてきたんだなって思わせてくれたんですよね。アパートのシーンでは、ほんとに田舎から出てきた女の子なんだけど、バレエを踊るともう周りの空気をいっぺんに変えてしまう存在感。もうこれはすごいなって思うんですよね。
だから何ていうのかな、僕もそうだと思うんですけど、役との巡り合わせというのはあって、今回はほんとにスペシャルな奇跡がみんな起きていて。だから、手前みそになっちゃうかもしれないんですけど、この作品は奇跡が積み重なってます。なかなか計算では生まれることじゃないところもある。だから、僕も何にも考えないで、すらっとできたんじゃないかなと思って。僕も樹咲ちゃんに何か刺激与えてあげられたらな、あげないとな、と思って一所懸命やったのがよかったのかなと思うし。お互いが相乗効果で役を演じきれたのかなと思います。
草なぎ:僕は台本どおりでやってるんですけど、監督は「アドリブっぽくなってるね」って。せりふ間違えてんでしょうね、僕が。台本どおりでやってるんだけど、「ナイスアドリブ」とか言われて(笑)、「いや俺、別にアドリブやってるつもりないんだけど」みたいな。「それ、せりふ前後してるだけじゃないの? 言い間違えてるとか」って思いながら(笑)。不思議ですよね。だから、いい時ってそうなっちゃうのかな。すごいいい感じに回ってたんでしょうね。
草なぎ:いや、何も考えてないですけどね。うちの母ちゃんのこと考えてたのかな。今まで会ってきた女の人のこと考えてたのかな、どこかで。……いや、考えてないです。
あんまり何にも考えてないですよね。こういうふうにやったら女らしいかな、みたいな。少しYouTubeで歌舞伎の女形の型を見たりとかしたかな。でも、あんまりやり過ぎても……みたいなところはあったので、ほんと何も考えてないです。
草なぎ:いや、僕はしてないですね。人のために生きるってのは疲れちゃうじゃないですか。まず自分が健康で、自分がちゃんとしないと疲れちゃうので。自分を犠牲にしてまでというのは……、自分に子どもが本当にできたら、もしかしたらそうするのかなってちょっと思えるぐらいで、基本的にはやっぱり自分重視ですよね。自分をちゃんとしてから、他の人を助けるとか。
でもやっぱりお母ちゃんなんでしょうね。母親ってそうなのかもしれないって少し思いました。ほんとに自分の母親のことを考えたりしました。思えば、熱を出したときにうちの母ちゃんが心配してくれて。そういうときの、自分はどうなってもいいからこの子を助けたいっていう母親の気持ち。それ、初めて分かったんだよね。
この作品をやって分かったというわけではないですけど、ちょうどそういう歳というか、そういうときにこの役がきたので演じられたかなとは思います。
草なぎ:思わないですよね。だからほんとにこのタイミング、このときにしかできない役だと思います。
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草なぎ:あんまり考えないで、ポジティブに捉えるようにしてるので。今回コロナ禍でこんなに大変になることは、誰も予期せぬことだったと思います。舞台だとかいろいろイベントもやるつもりだったんだけど、できなくなって。悲しかったり、残念な気持ちはあるんです。それでも、なるだけ「明日はちょっといい日になるんじゃないかな」と思って。嫌なことをまた一つ乗り越えると、次にいいことがあるんじゃないかなって常に思っていくと、楽に生きられる気が、僕はしてますね。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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