1983年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。99年にテレビシリーズ『ゲット・リアル』で俳優デビュー。『イカとクジラ』(05年)で注目され、放送映画批評家協会賞、インディペンデント・ スピリット賞にノミネート。『ソーシャル・ネットワーク』(10年)でアカデミー賞、 ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞にノミネートされ、演技派俳優として高い評価を得る。その他の主な出演作は、『ゾンビランド』(09年)、『グランド・イリュージョン』(13年)、『エージェント・ウルトラ』(15年)、『母の残像』 (15年)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)、『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』 (16年)、『カフェ・ソサエティ』(16年)、『ジャスティス・リーグ』(17年)、『ハミングバード・プロジェクト 0.001 秒の男たち』(18年)、『ゾンビランド:ダブルタップ』(19年)など。劇作家、小説家としても活躍している。
『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』ジェシー・アイゼンバーグ インタビュー
ユダヤ人孤児123人をスイスに送り届けた“パントマイムの神様”の実話
#ジェシー・アイゼンバーグ#ナチス#パントマイム#ユダヤ#沈黙のレジスタンス#沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~
僕も自己中心型のアーティスト。いつも彼と同じことを考えている
“パントマイムの神様”マルセル・マルソーの知られざる実話から生まれた感動作『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』が8月27日より公開される。
舞台は1938年のフランス。昼間は父の精肉店で働き、夜は小さなキャバレーでパントマイムを披露していたマルセルは、兄のアランと従兄弟のジョルジュ、想いを寄せるエマと共に、ナチス・ドイツ政権下で親を殺されたユダヤ人孤児の世話をすることに。古城を改装した避難所に匿われた123人の子どもたちは、マルセルのパントマイムで笑顔を取り戻していく。しかし1942年、遂にドイツ軍がフランス全土を占領。マルセルは、アルプスの山を越えて子どもたちを安全なスイスへと逃がそうと決意するが──。
マルセル・マルソーは2007年に84歳でこの世を去った著名なパントマイム・アーティスト。“パントマイムの神様”として、マイケル・ジャクソンをはじめ世界中のダンサーやパフォーマーに影響を与えている。彼が第二次世界大戦中に身を投じていたレジスタンス活動を、マルソーの従兄弟などの証言をもとに映画化。マルソーを演じるのは、『ジャスティス・リーグ』『ビバリウム』のジェシー・アイゼンバーグ。自身もユダヤ人で母親はプロの道化師と、マルソーと共通点を持つアイゼンバーグに、役作りや本作への思いを語ってもらった。
・知られざるマルセル・マルソーのレジスタンス運動『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』予告編
アイゼンバーグ:この話については何も知らなかった。マルソーがユダヤ人だったことも知らなかったんだ。彼が作り出した人物以外の部分で、もちろんどんなルックスだったかも知らなかった。監督が言った通り、自分のバックグランドにいくつもつながるものがあった。ストーリー、それから戦争で家族を失うこと、母が道化師というところだね。その道化師というのは、あまり尊敬されていないパントマイム・アーティストの弟的なものと言っておこう。でも、自分が物語に一番共感した部分、一番気に入った点は、自己中心的なアーティストについての話だったことなんだ。彼は渋々ヒーローになり、他の人々を助けることで、芸術的才能を磨いていった。
僕も自己中心型のアーティストなので、いつも彼と同じことを考えている。自分勝手な行いを帳消しにしようとすることをね。仕事の一環として、独りでじっとそのことを考えることで、働いている人や社会奉仕をしている人が手にしているように、直接的な恩恵が受けられる。僕は非営利団体で働いている人と結婚している。妻は週に7日、一番弱い立場にある人を手助けしている。僕は自分自身の自己主義的なやり方を、常に帳消しにしようと考えている。何かいいことをしようとしている。この映画もそういう話なんだ。マルセルが自己中心型で思い上がった若いアーティストからスタートし、仕方なく子どもたちの保護者のような存在になっていく。そして最後は彼らを愛することや、自分のアートについて学んでいくんだ。
アイゼンバーグ:監督が信じられないほど素晴らしい先生を見つけてくれたんだ。その人の名前はローリン・エリック・サルム。勉強をして、ロサンゼルスでパントマイムの先生をしている。フランスにあるマルソーの学校でマルソーの指導の下、何年もの間学んだ人物なんだ。以来、マルソーの人生の非公式な伝記作者のような存在になっている。そこで何ヶ月間か、2段階に分けて彼と一緒に勉強をした。一つはパントマイムの実用的な応用だった。マルソーのスタイルに合わせた振り付けを彼がやって、その決められた動作を学んだ。それからパントマイムの歴史も学んだよ。
ローリン先生は、誰も見たことないようなマルソーの写真やビデオを持っていた。彼のこと、彼の人生のことで頭がいっぱいなんだ。彼に教わるのは楽しかったね。でも演技に必要な、うわべだけの技量しか身につけていない感じなんだ。何週間か学んで、どうにか本物のように見せられるようになって、終わったらすぐに忘れるってやつさ。身につけるには撮影前にどれだけ時間を費やしたかによる。複雑な映画で、達成しなきゃいけないレベルに到達するのに6~7ヵ月かかったけど、楽しかったよ。
アイゼンバーグ:子どもたちは異常なぐらい優秀だったよ。珍しいことだった。子どもや動物、雪とうまくいくことはない、ということわざがあるから。ことわざの3つのうち2つが当てはまったけれど、子どもたちはすばらしかった。メインの子どもたちは、全員プラハのユダヤ人学校の生徒なので、中央ヨーロッパで行方不明になった家族とつながりがあり、ユダヤの文化つまり、彼らがうたう歌や、唱える祈りのようなものを知っているだけでなく、この物語に非常に根本的かつ悲劇的な形でつながっていたので、たとえ若くても自分たちのやっていることを本当に理解していたと思う。彼らは、この映画が自分たちの家族にとって重要であるということを、漠然と認識していた。つまり、子どもたちはただの子役ではなく、本作が描く歴史に関係がある子たちだったんだ。それはただただ驚くべきことだった。
全員が同じ学校だったので、お互いを知っていて仲間意識があった。僕にとっては、子どもたちのためにパントマイムを演じることほど良いことはなかった。そのために、約7ヵ月間パントマイムの決まったパターンを練習していたからね。7ヵ月の間、ささいな間違いで自分を罰しながら、機械的にパターンを暗記していった。それを子どもたちの前でやり始めると、突然、練習とはまったく違って、自由にパントマイムができたんだ。僕は新しい動きを間違えることを気にしていたけれど、子どもたちのためにパフォーマンスをしている時は、大切なのは彼らを笑わせることだけ。それで僕は少し気が楽になった。マルソーもまさにその通りだったと思う。彼は場末の酒場で無愛想な大人のためにパフォーマンスをしていた男だ。最初はしぶしぶ子どもたちにパントマイムを披露していたが、長い間一人で練習してきた後で、彼も喜びを見つけたと思うよ。
アイゼンバーグ:映画の中で一番好きなシーンだ。特に、クラウス・バルビーが親として何かアドバイスはないかと尋ねてきたのは、彼が自分の娘を励まそうとしているからなんだ。そのシーンは、おそらくこの映画の撮影を開始する1週間前に書かれたもので、この映画としては特異だね。映画ではたまにそういうことが起こるよ。これはとても珍しいことだった。ジョナタン(・ヤクボウィッツ監督)は、最終的にこの映画の主役とその敵役となる人物との間で、ある種の対話をさせたいと考えていたんだ。2人が対立するような会話ではなく、それはジョナタンがインスピレーションから作り出した非常に奇抜で賢明な会話であり、さらに現実的と言っていい、芸術について話しているというすばらしいアイディアだった。バルビーの違う一面が見られるだけではなく、怪物だと思っていた人に対して、人間性を見ることにショックを受けるマルソーの姿も見られる。ハンナ・アーレントが言うように、偽善者になったり、いい父親になったり、娘のことを尋ねるつまらない男になっているところが怖いね。けれどマルソーはまた、この男に人間性を見いだしたんだ。おもしろいよね。つまり、彼の恐ろしい行為をすべて免責するわけではなく、この男が裏で“人の心を持った行動”をしていることへのショックだ。
ジョナタンの言葉の1つを引用すると、ナチズムの構造と彼らの考え方には柔軟性がなく、厳格な独断主義が存在する。マルソーがバルビーに伝えたのは「押し付けないで、娘に自分自身で考えさせるんだ」ということ。このシーンで興味深いのは2人の人物だけでなく、対立する2つの世界観を示しているからだ。
アイゼンバーグ:最も顕著な例として、反ユダヤ主義と共に、別の形でたくさんの憎悪が今なお存在している。映画を撮影している間にも、ピッツバーグのツリー・オブ・ライフ銃撃事件が起こったり、他にもあまり報道されてない反ユダヤ主義の事件も起きている。でも、反ユダヤ主義感情の有無とは関係なく、この物語を伝えるのには他の理由もあった。ジョナタンがマルソーを民間人の英雄として描いたように、パントマイマーは、戦時中においては英雄からかけ離れた存在だ。そしてそれと同様に、現在英雄となっている人々を見てみると、2ヵ月前は英雄だと思ったりしなかった人たちだ。もちろんいつもそう思っていたわけじゃないが、医療の最前線で働いている人々、宅配ピザの配達員たち……2ヵ月前は英雄とは思っていなかった行為が、思ってもみなかった形で突然、命を危険にさらすことになる。
前にも言った通り、僕の役はアーティスト。アーティストでいることと、人道的であることをどう両立させられるか、アーティストとして一切妥協することなく英雄でいられるのか、その答えを見つけるような人物だ。こういった理由もあるけれど、反ユダヤ主義、あるいは違った形での同様の憎しみを、みんなの記憶に留めてもらうことが大事だと思う。
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