「バンドはある種、病んだ状態なのかも」車の故障から始まるメンバー間の不協和音
#J・マスキス#キム・ゴードン#サーストン・ムーア#ソニック・ユース#ダイナソーJr.#ダイナソーJr./フリークシーン#ハスカー・ドゥ#ピクシーズ#ブラック・フラッグ#マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン#ロック
音楽だけで結ばれていたオリジナル・メンバー3人それぞれの正直な証言
90年代のオルタナティブ・ロックの中核として活動したダイナソーJr.の歴史を紐解くドキュメンタリー『ダイナソーJr./フリークシーン』が、3月25日より劇場公開される。これに先立ち本国版オリジナル予告編が日本語字幕付きで解禁された。
・切なく哀愁を帯びたメロディを包み込む殺伐とした轟音! ダイナソーJr.初の公認ドキュメンタリー
80年代USハードコア/パンクの直撃を受けた面々によって1984年、マサチューセッツ州で結成されたダイナソーJr.。アメリカのアンダーグラウンドからメジャーシーンまで、80年代末から90年代のオルタナティブ・ロックの巨大なうねりの中核として活動、しばしの活動休止を経て現在も新たな音楽を生み出し続けている轟音バンドだ。
本作『ダイナソーJr./フリークシーン』は、ダイナソーJr.の歴史を、オリジナル・メンバーであるJ・マスキス(G./Vo.)、ルー・バーロウ(B.)、マーフ(D.)の3人の関係性にフォーカスしながら貴重な過去のフッテージを交えて描く。バンド自身が製作に関わった公式のドキュメンタリー映画だ。
今回、解禁されたアメリカ版予告編は、デビューアルバム「Dinosaur」からの「Repulsion」を演奏するLIVEシーンから始まる。若き日の仲の良いメンバーがそこにいるが、瞬時に87年に発売されたセカンドアルバム「You’re Living All Over Me」の発売前のツアーの様子に場面は変わる。
「初日に車が故障し、その後も故障続きで最悪だった。やがて完全に動かなくなる。1週間ほど足止めを食らい、そこで全てが崩れた」とマスキスが語り、その時のメンバー間の関係性と重ね合わせている。「病んだ家族みたい。よく分からないことが儀式や習慣になっている。バンドはある種、病んだ状態なのかも」というソニック・ユースのキム・ゴードンの発言がそれを裏付ける。
ダイナソーJr.の代表曲「フリークシーン」が流れるシーンからは様々な場面が映し出され、少しずつ関係を修復するメンバーの姿と発言と共に再結成へ向かう。
マスキスのギター音があまりに巨大だったため、リズム隊の2人は自らの音が聴こえるべくボリュームを上げるしかなかったというダイナソーJr.の凄まじい轟音は、ニルヴァーナやサウンドガーデン、パール・ジャムなどのグランジ・ムーブメントが勃発するより前にソニック・ユースに見出された。
2ndアルバムはUSハードコア界の総統ともいうべきグレッグ・ギン(ブラック・フラッグ)運営のSSTレコードからリリース。巷にあふれたハードコア・サウンドとは一線を画す、暗く、ヘヴィでギターまみれな音の洪水でありながらもポップでキャッチーさを備え、そしてニール・ヤングやニック・ケイヴ的とも云われる無気力極まりない唯一無二のボーカルが欧米の地下世界で絶大な支持を得た。
しかし、ツアー中のある出来事をきっかけに3人の関係性は崩壊。ルーとマーフは次々と脱退、新メンバーを迎えて活動を継続したダイナソーJr.はマスキスのソロ色を強めていった。ダイナソーJr.の音楽は、売れようとするものでもなく、他人に聴いてもらおうとするものでもなく、バーロウは「どのぐらい客が集まるか、どれだけの人が聴いてくれるのかと考えたことがない。俺たちは客を襲うためにライヴをやっていた」と語る。
人気を獲得するためにギラギラするロックスター然としたバンドとは対極、音楽以外には一切関心がない3人のコミュニケーションは唯一、音楽を通じて図られる。
そんな音楽だけで結ばれていたオリジナル・メンバー3人それぞれの正直な証言を引き出し、そして2005年以降再集結した現在までを、華美な演出を許さない愛情あふれる視点でまとめたのは、マスキスとは義理の親族にあたるフィリップ・ロッケンハイム。これまで100本以上のミュージックビデオを手掛け、ジム・ジャームッシュ監督作『ギミー・デンジャー』(16年)にも撮影素材が使われるなど長年音楽映像の世界で活躍するベルリン在住の監督だ。
またバンドの歴史を補完する証言は、キム・ゴードン(ソニック・ユース)、ヘンリー・ロリンズ(ブラック・フラッグ)、ボブ・モールド(ハスカー・ドゥ)、フランク・ブラック(ピクシーズ)、サーストン・ムーア(ソニック・ユース)、ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)などダイナソーJr.に近しいミュージシャンたち。
80年代末から90年代にかけてオルタナティブ・ロックという巨大な渦の中心にいたダイナソーJr.の約30年にわたる心情、メンバーの関係性、として音楽をタイトに、丁寧に、誠実に描いた本作は、同時に人間の成長と友情の在り方も映し出すものとなった。
『ダイナソーJr./フリークシーン』は3月25日より劇場公開される。
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