それは自分を騙すこと。森山未來と伊藤沙莉らが描く90年代の青春と現在
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46歳のボクの25年間を遡る『ボクたちはみんな大人になれなかった』
【週末シネマ】大人になるとは、どういうことなのだろうか。新型コロナウイルスによるパンデミック下の2020年から数年刻みで時を戻して1995年まで遡り、1人の男性の四半世紀を、恋愛を切り口に描く『ボクたちはみんな大人になれなかった』。劇場とNetflix配信で同時公開される本作は、小説家、エッセイスト、そしてテレビ美術制作会社に勤務する燃え殻の自伝的内容も多い小説が原作だ。
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46歳で、さまざまな大人の事情も心得ながら生きている主人公の佐藤誠を森山未來が演じる。物語が進むに従って時間は逆行し、彼は21歳になる。そこに至るまでに、テレビ業界の片隅で酷使され続けたキャリア、さまざまな友情、出会った女性たちとのエピソードが重ねられていき、忘れられない一言をかけてくれた“彼女”との恋愛が描かれる。その彼女、かおりを伊藤沙莉が演じている。
つまらなかった過去を美しく上書きして見直すような切なさ
劇中では25年という長い時間が流れるが、佐藤の髪型や服装を極端にいじりすぎない微妙な変わり具合が、1人の人間の歩みをリアルに感じさせる。
はっきりとした個性の持ち主ながら、ふわっと掴みどころがないかおりの佇まいは、佐藤の思い出の中にしか存在しない儚さを表すようだ。佐藤の友人である関口、七瀬を演じる東出昌大と篠原篤も、失恋した佐藤が出会うスーを演じるSUMIREも、現れては消えていく。
“普通”という、実は個々の価値観次第で如何様にも変わる概念が、平凡あるいは凡庸という意味に置き換えられ、その“普通”を避けようと足掻く主人公の姿に身に覚えがある人は多いだろう。佐藤とかおりの恋の記憶には、本当はもっとつまらなかった自分の過去を美しく上書きして見直すような切なさを感じる。
90年代のポップカルチャーがノスタルジーを誘う
森山が主演した『モテキ』や、松坂桃李主演の『あの頃』、妻夫木聡主演の『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』など、1990年代から2000年代初め頃に20代だった男性の物語は、どれもとてもやさしい。
今作も、彼らが好きだった音楽やファッション、映画などポップカルチャーの断片が贅沢に散りばめられてノスタルジーを誘う。インターネットも普及せず、携帯電話もまだ持てず、文通やポケベルと公衆電話で時差のあるコミュニケーションでゆっくり関係を築くことは、SNS全盛の今改めて見ると、とても新鮮だ。
現実を言い換えながら自分を騙すことこそ大人らしい
原作にあるエピソードを丁寧に掬いつつ、映画独自の内容や時間の構成を工夫した高田亮(『そこのみにて光輝く』『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の夕じゃ』)の脚色は見事だ。ミュージックビデオやCMを数多く手がけ、ドラマ『恋のツキ』で高田とも組んだ森義仁の映画監督デビュー作で、両者のコラボレーションは20数年で大きく変わった時代の一部を切り取ってみせる。
年老いたという現実を「大人になれなかった」と言い換えながら自分を騙すことこそが、とても大人らしい。緊急事態宣言下の閑散とした夜の東京で、佐藤が偶然向き合うことになった過去は、苦いようで甘い夢の世界のようだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、2021年11月5日に劇場公開およびNetflixにて全世界配信開始。
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