【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第28回】
路面電車は全国に18ヵ所ある。
おそらく18ヵ所。
昔はもっとたくさんあったそうだが、車の普及によって徐々にその数は減っていった。
それでも残っているのは、市民の足としてはもちろんだが、電車が街に溶け込む景観の美しさや、人々の大切な思い出が記憶された走るタイムカプセルとしての役割があるのだと思う。
だから路面電車が残る街は感性豊かな街だと勝手に思っている。
路面電車を味わってみたくて日本中を旅してきてが、愛媛県は松山の伊予鉄道だけはまだ行ったことがない。
大好きな瀬戸内の大好きな路面電車「伊予鉄道」。
大好物は最後に食べる性分なのだ。
卑しいのだ。
自由に旅をすることがまたできるようになったので、夏の愛媛旅行を計画している。
なんせ、松山には伊丹十三記念館もある!
伊丹作品は社会派痛快エンタメ映画。
ただの社会派ではない。
鋭すぎる。
社会をメスでメッタ切りして、よく煮て、その汁だけを濾して、純度の高いスープをイッキ飲みする感覚。
軽いタッチでテンポよく笑いありの痛快作品に仕立て上げる。
また音楽もいい。
とにかく人を楽しませたい。
映画館の帰り道にダンスを踊りたくなるような面白さ。
タランティーノも伊丹十三監督に影響受けたんじゃないだろうか。
というか、それ以降の映像作家はみんな憧れているはずだ。
そして誰もまだ追いついてはいない。
『タンポポ』という2作品目の映画が特に好き。
人気のないラーメン屋を立て直し人気店にするために、見知らぬ男たちが集い、仲間になって奮闘していく話。
ラーメン西部劇。
その合間に色んな食にまつわるオムニバスのストーリーがいくつも挿入される。
人の数だけ食があり物語がある。
会社の重役たちとランチでフランス料理を食べる冴えない平社員の話がお気に入り。
これは是非見てほしい。
映画はやはり「絵」が肝だ。
山崎努と安岡力也が、ラーメン屋の店主宮本信子を巡って真昼の決闘のシーンの映像は実に惚れ惚れする。
こんなアングルでこの距離角度で撮るセンスたるや。
お洒落の極み。
でもスカしてるわけじゃないという。
松山の記念館でそのマルチな才能をゆっくりじっくり味わってみたいと思う。
もっと映画館でもやればいいのに。
お客さん入るだろうに。
見たことない若い人なんてたまげるんじゃないかなあ。
『マルサの女』なんて上質な教科書なのに。
『タンポポ』の予告編なんて若き小遊三師匠が、本編に亡くなった歌六師匠が、『スーパーの女』は米助師匠と伊集院光さんが出演している。
落語家が好きだったのかな。
ちなみにぼくの師匠瀧川鯉昇が弟子にまず教えるのは、落語ではなく食べられる草を教えること。
天ぷらにするためのタンポポを荒川の土手に摘みに行くのが我々の弟子のはじめての修行です。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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