さまざまな映画祭で話題を呼び、日本の入管収容所の実態を映したドキュメンタリー映画『牛久』が、2022年2月26日に全国順次公開されることが分かった。あわせてキービジュアルや劇中写真が解禁されている。
「まるで刑務所のよう」「体じゅう殴られた」隠し撮りで難民たちの悲痛な思いを記録
日本には、在留資格のない人、更新が認められず国外退去を命じられた外国人を、不法滞在者として強制的に収容している施設が全国に17ヵ所ある。その1つが茨城県牛久市にある東日本入国管理センター、いわゆる「牛久」だ。
在留資格を失った場合や強制送還の対象となる理由が生じた場合、出入国在留管理局により収容所に収容されることがある。また2021年時点の日本の入管法では、強制送還を行う命令が出されると、法律上の収容期間の上限がないため、長期間にわたり収容されることがある。
施設内には、紛争などにより出身国に帰れず、難民申請をしている人も多くいる。しかし、彼らの声を施設の外に届ける機会はほとんどない。2021年3月の名古屋入国管理局に収容されていたスリランカ出身女性・ウィシュマさんの死亡事件、入管法改正案の国会成立断念など、日本の入国管理行政をめぐる闇は深まるばかり。本作は、厳しい規制を切り抜け、当事者たちの了解を得て、撮影されたものだという。
トーマス・アッシュ監督は隠し撮りという手法で、面会室で訴える彼らの証言を記録し続けた。命を守るために祖国を後にした者、家族への思いを馳せる者。「帰れない」現実を抱えたそれぞれの実像。「まるで刑務所のよう」「体じゅう殴られた」。口々に驚きの実情を面会室のアクリル板越しに訴える9人の肉声。長期の強制収容や非人間的な扱いで、精神や肉体をむしばまれ、日本という国への信頼や希望を失ってゆく多くの人々。論議を呼ぶ隠し撮りで撮影された本映画だが、ここに記録された証言と現実は、はたして無視できるものだろうか。世界中から注目された華やかな東京オリンピック開催の影で、露わになる日本のおもてなしの現実と偽りの共生。「撮影の制約自体を映画的な形式に用い、観客をその現実に参加せざるをえなくすることで、ドキュメンタリーの力を示した」として、2021年9月の韓国DMZ映画祭でアジア部門最優秀賞を受賞している。
国連から異例の反対表明「国際人権基準に達していない」
「難民認定制度」とは、1951年に採択された国際条約「難民の地位に関する条約難民条約」に基づき、人種や宗教、国籍、政治的意見、または特定の社会的集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるか、迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人を保護する制度。2018年時点、全世界で7080万人が故郷を後にしなければならず、他国や他地域への移動を強いられている。そして2019年に日本で難民申請を行った外国人は合計10,375人で、審査の結果、難民として認定されたのは44人と認定率はおよそ0.4%だった。
2021年3月31日、国連人権委員会の特別報告者及び作業部会は、日本政府に「入管法改正案」の見直しを求める共同書簡提出し、政府案は「国際人権基準に達していない」と非難。さらに4月9日、国連難民高等弁務官事務所UNHCRは、政府案の全面見直しを求めた。国連機関が加盟国国内法案に反対表明することは、きわめて異例。この法律案の問題が深刻であるかを物語る。入管庁は「いくつかの対応策を組み合わせての“パッケージ作戦”」で長期収容問題の解決を図るとしているが、立憲民主党の石橋通宏参議院議員は「日本の難民認定率04%と極端に低い。政府案は残りの96%を追い返すための法案」であると述べた。
映画『牛久』は2022年2月26日より全国順次公開。
[訂正とお詫び]
本文7段落目「〜政府案は残りの」に続く文章を以下のように訂正いたしました。不確かな記載がありましたことをお詫びいたします。
・訂正前:政府案は残りの996%を追い返すための法案
・訂正後:政府案は96%を追い返すための法案
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