“昔々”の物語に現代を反映、躍動感あふれるエンタメに昇華させたスピルバーグの真骨頂
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61年公開の名作を巨匠がリメイク『ウエスト・サイド・ストーリー』
【週末シネマ】1961年に公開され、アカデミー賞にも輝いたミュージカル映画の不朽の名作『ウエスト・サイド物語』をスティーヴン・スピルバーグ監督がリメイクした。
1950年代のニューヨークで、移民や低所得者たちの暮らすウエスト・サイドで対立する2つのグループ……プエルトリコ系移民のグループ「シャークス」と欧州系移民のグループ「ジェッツ」の抗争に、「ロミオとジュリエット」をもとにした悲恋の物語が重なる。
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スピルバーグは映像の中に1950年代の風景を緻密に再現し、ヤヌス・カミンスキーによる撮影は街を闊歩するキャラクターたちの輪の中に入り込むような近さで、彼らが発するエネルギーが手にとるように伝わってくる。
吹き替えではないキャスト自身の歌声が感情をダイレクトに伝える
「ジェッツ」の元リーダーで、今は勤勉に過ごす主人公・トニーを演じるアンセル・エルゴート以外は、映画では無名のキャストだが、シャークスとその関係者にはラテン系の俳優を起用、「シャークス」のリーダー、ベルナルドの妹でトニーと恋に落ちるマリアを演じるレイチェル・ゼグラーは撮影当時まだ10代で、これが映画デビュー作だ。1961年版でトニーとマリアを演じたリチャード・ベイマーもナタリー・ウッドも歌は吹き替えだったが、本作ではエルゴートもゼグラーも自ら歌い、彼らの中から湧き起こる感情がその声から伝わってくる。
ベルナルド役のデヴィッド・アルヴァレス、「ジェッツ」の現リーダー役のマイク・ファイスト、ベルナルドの恋人アニータ役のアリアナ・デボーズといったミュージカルの若き実力者たちが主演2人を支え、それぞれ存在感を放つ。
いま見ても決して古びることのないテーマ、現代の問題も掬い上げて
1961年版は当時の“現代”を描いたが、それから60年もの歳月が流れた2022年の今、1950年代後半は“昔々”だ。だが、60年以上経った現在も、テーマは古びていない。人種間の対立はパンデミック下でますます激化し、銃による暴力がもたらす悲劇も続いている。
スピルバーグは、スティーヴン・ソンドハイムの歌詞とレナード・バーンスタインの音楽によるブロードウェイ・ミュージカルのオリジナル、第34回アカデミー賞で作品賞、監督賞を初め全10部門に輝いた1961年版を踏襲しつつ、脚本を手がけたトニー・クシュナーと共に、21世紀という時代をも反映させた。
1961年版でアニタを演じてアカデミー助演女優賞に輝いたリタ・モレノが製作総指揮を務め、出演している。現在90歳のモレノが演じたのは、ジェッツの溜まり場の女主人のバレンティーナだ。オリジナル版で店を営むのはドクの愛称を持つ年配の男性だったが、本作のバレンティーナは彼の未亡人という設定だ。この脚色をはじめ、本作は1950年代には見過ごされていた問題を掬い上げていく。それを見事なエンターテインメントとして見せるのがスピルバーグの真骨頂だ。名曲に彩られ、画面いっぱいの躍動感に満ちた映像のエンターテインメントは、劇場の大スクリーンでの鑑賞がふさわしい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ウエスト・サイド・ストーリー』は2022年2月11日より全国公開。
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