『レッド・ライト』
「テーブルを上から強く押さえつけて、両手を体に向かって引けば、テーブルの脚は女学生のスカートみたいにふわっと持ち上がる」。新居のポルターガイスト現象に怯える一家に、こともなげに種明かしをしてみせる物理学者のマーガレットと若き助手のトム。超常現象の科学的解明に取り組むコンビが“超能力”のイカサマを次々に暴いていく小気味好さで、冒頭から一気に引き込まれる。だが、30年以上も姿を消していた伝説の超能力者が表舞台へ返り咲き、そのからくりを解き明かそうと彼らが調査に乗り出すや、不可解な出来事が立て続けに起こり、物語はサスペンスに満ちたミステリアスな色を帯びていく。
冷静沈着で聡明なマーガレットにシガーニー・ウィーヴァー、愚直なまでのひたむきさを持つトムにキリアン・マーフィー、そしてカリスマ性あふれる盲目の超能力者、サイモン・シルヴァーにロバート・デ・ニーロ。なんと魅力的な顔合わせだろう。本当に、それぞれの風貌が多くを語ってみせるのだ。強靭な精神と背中合わせの脆さが漂うウィーヴァーの横顔。底知れない深さがあるマーフィーの瞳。こちらを見据える視線は時に実直さを象徴し、時には邪悪さを湛え、すべてを超越した感を与えることすらある。一方、光の消えた瞳にサングラスをかけ、余裕たっぷりに2人を翻弄するデ・ニーロ。23日公開の『世界にひとつのプレイブック』で見せた人間臭い父親像とは180度異なるケレン味で、怪しさをプンプンまき散らしている。
「シルヴァーは危険よ。近づかないで」というマーガレットの忠告を無視し、トムは徐々にシルヴァーの正体に迫っていく。それを阻むように、説明のつかない現象が立て続けに起こり、身も凍るような恐怖も体験し、トム自身も追いつめられていく。まさに超常現象としか言えないような出来事を目の当たりにし、自らの信念に揺さぶりをかけられる。シルヴァーといえば、挑発するかのように、トムの在籍する大学で自らが実験台となる超能力の科学的検証に協力する。
何かを信じることと疑うことが表裏一体となったカオスの中から導き出される結末に、やはり役者の肉体がものを言う作品なのだという思いを強くした。“騙し騙され”の駆け引きを作り手と観客が楽しむ知的ミステリーであり、超能力者と科学者の攻防をスリリングに描くエンタテインメント性も備わっている。脚本も手がけたスペインの俊英、ロドリゴ・コルテスの緻密かつ大胆な演出に見入った。(文:冨永由紀/映画ライター)
『レッド・ライト』は2月15日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて全国公開。
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