『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』
ライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパーという今後のアメリカ映画を牽引していく30代のスター2人が主演をつとめ、2つの世代の3つの物語で構成される『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』。犯罪サスペンスを軸に、家族という宿命を重厚に描く人間ドラマだ。
・『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』シアンフランス監督インタビュー
オープニングで、もう釘づけになる。入れ墨、それも芸術的ではなく行き当たりばったりに入れた安っぽい柄が散らばる男の背中がメタリカのTシャツを着る。赤い革のジャケットを羽織って歩き出す。そこは夜の移動遊園地。やがて男はバイクにまたがり、鉄製の球体内部を縦横無尽に走る曲乗りを始める。長回しでとらえた一連の動きを見ているだけで、こちらはゾクゾクと高揚する。
サーカスや移動遊園地を舞台にした作品は、1932年の名作『フリークス』をはじめ最近では『恋人たちのパレード』まで数多くある。社会からはみ出した者が肩を寄せ合う空間はそれだけでドラマティックだ。そこで連日、天才的な技を披露するルークを演じるライアン・ゴズリングは、ほかに生きる場所のないアウトローのやさぐれ感を、背中だけで醸し出てみせる。そんな彼が1年ぶりに訪れた町で、以前に関係を持った女性が自分の息子を生み育てていることを知る。父性に目覚めた彼が流れ者であることをやめ、2人を養うために始めたのは銀行強盗だった。持ち前の俊敏さと命知らずな向こう見ずさで犯行を重ねるが、ある日ついに、逃走中に新米警官に追いつめられる。
犯人追跡中にミスを犯し、良心の呵責と野心の板挟みに煩悶しながらも、やがて出世街道を歩むことを選択する警官のエイヴリーをブラッドリー・クーパーが演じる。正義派でありつつ抜け目ない賢さで周囲とわたり合う男が内に抱える葛藤の表現は実にきめ細かく、単なるイケメンではない役者の力がうかがえる。破滅型のルークと優等生のエイヴリー。正反対のようでいて、自分を殺して無理やり理想像に近づこうとしていく点ではコインの表と裏のようだ。
やがて15年の時が流れ、“親の因果が子に報い”の様を呈して、宿命はそれぞれの息子たちへと受け継がれる。男たちの物語のなかで、ルークの息子の母を演じるエヴァ・メンデスの幸薄い存在感も忘れがたい。ちなみに彼女は本作共演がきっかけでゴズリングと交際中だ。
タイトルにある“プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ”とは、舞台となるニューヨーク州の町「スケネクタディ」を英訳したもの。先住民族であるモホークの言葉で“松林の向こうの場所”を意味する。緑深い林が何度も印象的に登場し、父親になる2人の男それぞれの物語、彼らの息子たちが過去と直面する物語が、罪と愛の連鎖で繰り広げられる。
監督はゴズリング主演の『ブルーバレンタイン』のデレク・シアンフランス。90年代に活躍したロックバンド「Faith No More」のマイク・パットンが音楽を担当している。(文:冨永由紀/映画ライター)
『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』は5月25日より新宿バルト9ほかにて全国公開される。
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