オリジナリティに溢れ、非常に美しいラブ・ファンタジー『アップサイドダウン 重力の恋人』。物語の舞台は“双子惑星”と呼ばれるふたつの星。それらは互いに触れられそうなほどに近くに存在しながら、重力が真反対に作用している惑星同士。この、近くにありながら、決して交わることのない、まるで映し鏡のような世界にそれぞれの住人──上の世界には富裕層、下の世界には貧困層が住んでいる。
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それぞれの世界に住む男女が恋をしたことから、物語は動いていく。障害のある恋。「ロミオ&ジュリエット」現象だ。下の世界に住むアダムにジム・スタージェス、上の世界に住むエデンを旧『スパイダーマン』シリーズ(02年、04年、07年)や『メランコリア』(11年)のキルスティン・ダンストが演じる。
前書きが長くなったが、今回、プッシュしたいのはアダム役のジム・スタージェス。ボロボロの洋服をまといながら、そして時に心もボロボロになりながらも、エデンとの愛を貫こうとする青年を熱演。女性が見れば、きっと惚れるに違いないと思うのだが、これまでにもジムは、そう思うに足りる作品に出てきた。なのに、いまいちドカンとブレイクがやってこないのである。筆者には何とも不思議極まりない。
イギリス、ロンドン生まれ、現在35歳のジム。筆者が彼を知ったのは、ブロードウェイ・ミュージカル『ライオン・キング』の演出家として知られるジュリー・テイモア監督が放った、ビートルズの曲名から取られたタイトルを持つ『アクロス・ザ・ユニバース』(07年)だった。
1960年代、イギリスからアメリカへと渡った青年、その名も“ジュード”がヒッピーカルチャーと、反戦運動で熱を帯びるアメリカの若者たちと出会い、友情を育み、恋に落ちる。これを全編ビートルズのナンバーで綴った青春ミュージカルだ。ビートルズのナンバーは役者たち自らが歌った。ジュードを演じたジムも繊細な歌声を披露し(彼自身、かねてより音楽活動を行っており、恋人もミュージシャン)、悩める青年を見事に演じて見せた。
続く『ラスベガスをぶっつぶせ』(08年)でも主演。マサチューセッツ工科大学のエリート学生が、学費を稼ぐためにその頭脳を生かしてラスベガスへと乗り込むサスペンスフルなエンタテインメントで、また違った魅力を見せた。その後も『ブーリン家の姉妹』(08年)、『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』(09年)、『ウェイバック−脱出6500km−』などでキャリアを積んでいく。
本当は、『アクロス・ザ・ユニバース』、『ラスベガスをぶっつぶせ』の成功で、舞台版『スパイダーマン』と、新『スパイダーマン』の主演候補にも挙がったのだが、立ち消えに。おそらく年齢が上過ぎた。暗黒の過去として忘れよう……。
そして11年、アン・ハサウェイの相手役を演じた『ワン・デイ 23年のラブストーリー』に出演。ここにきて、「あぁ、あの“相手役の人”ね」と思った人もいるかもしれない。しかしプッシュする身としては“相手役の人”などという認識では困るのだ。かといって、『アップサイドダウン 重力の恋人』が彼の新作だから、「こりゃ、タイミング的にちょうどいいぞ。プッシュしてしまえ」という安易な発想で、プッシュしているわけではない。
『アップサイドダウン 重力の恋人』は、作品自体が非常に素晴らしい出来。これまで見たことのない世界観で、ビジュアル(建造物や景色)に目を奪われながら、アダムとエデンの恋物語に胸をキュッと締め付けられ、ドキドキし、応援したくなる。脇を固めるキャストがいい味を出していることも外せない。ともかく、騙されたと思って本作を見ることをオススメする。そして、なんだか放っておけない母性本能くすぐるジムのオーラを浴びて欲しい!!(文:望月ふみ/ライター)
『アップサイドダウン 重力の恋人』は角川シネマ有楽町ほかにて全国公開中。
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