【週末シネマ】マリリン・モンローの私的文書から見える“天真爛漫なブロンド娘”の葛藤
『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』
グラマラスな容姿、公私ともスキャンダルに満ちた生活、36歳での悲しい死。『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』は天真爛漫なセックス・シンボルであり、同時に傷つきやすい無垢な心の持ち主で、ドラマティックに過ぎる一生を送った伝説の女優の生涯を追ったドキュメンタリー映画だ。
生前の秘蔵映像や関係者の証言による構成はこの手の作品の常道だが、本作はさらに、死後50年を経て新たに公開されたマリリン自筆の膨大な私的文書の数々を加えている。
断片的なメモや詩、落書きの絵、日記、手紙に遺された本人の偽りない言葉や、周囲の人々の証言を観客に語って聞かせるのはプロの俳優たちだ。ただ朗読するのではなく、それぞれがマリリンに、最後の夫で作家のアーサー・ミラーに、遺作を監督したジョージ・キューカーになり切って語る。いわば、演じるドキュメンタリーという一風変わった試みが行われている。
マリリンに扮するのは10人の女優たち。グレン・クロース、マリサ・トメイ、ヴィオラ・デイヴィス、エヴァン・レイチェル・ウッド、ユマ・サーマン、ジェニファー・イーリー、エリザベス・バンクス、エレン・バースティン、リリ・テイラー、そしてリンジー・ローハン。年齢も人種もバラバラ。物まねするように似せようとすることもない。マリリンの死後、自筆資料を預かっていた演技コーチのリー・ストラスバーグを演じるスティーヴン・ラング、デヴィッド・ストラザーン(アーサー・ミラー)、エイドリアン・ブロディ(トルーマン・カポーティ)、ポール・ジアマッティ(ジョージ・キューカー)ら、関係者役の俳優も同様だ。
彼らのモノローグの合間にマリリン本人や関係者のインタビュー映像も加わる。これが面白い効果をもたらす。正真正銘のマリリン・モンローが自ら語るその言葉はいわば建前、偽物のマリリンたちが思い入れたっぷりに演じる言葉が本音なのだ。誰に読ませるつもりもなく書き綴った心の内を聞かされた後、同時期の本人インタビュー映像を見ると、それまで気づかなかったものがいろいろ見えてくる。たとえば、アーサー・ミラーとの婚約会見。笑顔で応じているが、非常に言葉を選んでいるのが見てとれる。嘘はつきたくない。でも本音は明かせない。そんな葛藤が伝わってくるようだ。
マリリンの遺した言葉の端々からほとばしるのは、演技に対する真摯な姿勢だ。それは世間が求める「明るくて可愛らしくセクシー」というイメージとはギャップがある。ただ、いい俳優になりたい。その一心でひたすら努力を重ねていくのに、誰もそれに気づかず、あるいは気づかぬふりをし続け、それゆえに彼女の魂は引き裂かれ、孤立を深めていく。
ケネディ兄弟との恋、1962年の自宅での死の謎は、マリリン伝説には欠かせない二大要素だが、オスカー候補にも度々なっているリズ・ガルバス監督はそこにはほとんど触れず、あくまで本人が遺した言葉にこだわり、そこから知られざるスターの一面を掘り下げた。
ちょっとおバカなブロンド娘は、聡明で才能豊かな女優が文字通り命がけで演じたマスターピース。だから、その魅力は時を超え、今も老若男女を問わず人々を惹きつけるのだ。
(文:冨永由紀/映画ライター)
『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』は10月5日より新宿ピカデリーほかにて公開中。
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