【今日は何の日】悪妻の日、その陰に夫あり! 稀代の悪妻の夫が主役の映画
#アナイリン・バーナード#コラム#プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード#今日は何の日#哲学の日#悪妻の日#終着駅 トルストイ最後の旅
歴史に名を残す悪妻というと必ず名前が挙がるのが、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの妻クサンティッペだ。4月27日は夫ソクラテスが毒杯を飲んで命を絶った日であるにもかかわらず、なぜかその妻にスポットが当たり「悪妻の日」ということになっている(「哲学の日」でもあるようだが)。
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クサンティッペと並んで悪妻と評される人物には、ナポレオンの妻ジョセフィーヌ、トルストイの妻ソフィヤ、モーツァルトの妻コンスタンツェなどが挙げられるが、その誰を取っても「何を以てどのくらい悪妻なのか」となると決定打にかけるのが実情のようだ。なんせ昔のことなのでエピソードの大概は口伝によるものだし、記録が残っていたとしてもそれを記述した人物の個人的主観が入っているケースも少なくない。当時の時代背景や慣習に照らし合わせるとさして問題ないことが、後世では冷酷非道な仕打ちとされ悪妻説の根拠になっているケースもある。なので、彼女たちが何ゆえどのくらい悪妻であったかを検証するのは至難の業であり、その悪妻っぷりを描いた映画もあまり見当たらないようである。そこで視点を転換し、「歴史を代表する悪妻の夫たち」が主役の映画に注目してみた。
やけに伊達男なモーツァルト! アナイリン・バーナード主演作
一人目の“悪妻の夫”は、神童モーツァルトだ。『プラハのモーツァルト 誘惑のマスカレード』では『ダンケルク』のアナイリン・バーナードがモーツァルトを演じたが、イケメンすぎるモーツァルトとして話題になった。だが、その才能が称賛されることはあっても、モーツァルトにはあまり色男というイメージはない。世代は少し異なるが、フランツ・リストなどは元祖ヴィジュアル系としてその超絶技巧で婦女子を失神させ、ツアーグッズの走りともいうべく自分の横顔のモチーフを付したチョコレートやステッキを販売した人物として知られるイケメンであるのに対し、モーツァルトにはそういうエピソードもない。だがこの映画におけるモーツァルトは、やけに色気たっぷりで小学校の音楽室の肖像画の中の人物とはかなりかけ離れた印象を受ける。
本作は、妻帯者のモーツァルトが妻子の湯治旅行中にプラハに招かれた際のロマンスを描いた作品(フィクション)である。悪妻として名高いコンスタンツェもわずかながら作中に登場するが、嫌な印象は一つもない。むしろ、本番直前に夫が序曲を描き上げる際のサポートをするなど、献身的な姿が描かれる。モーツァルトが湯治先の妻を恋しがり、「会いたい」という手紙を書き綴る場面も見られる。ますます悪妻説の根拠が怪しくなる。
だが、この作品のキーマンは間違いなくサロカ男爵だ。家柄と財力に恵まれているのをいいことに女性を食い物にする好色家で、嫉妬深く粘着質にして冷淡。本当に最低最悪なゲス野郎なのである。イケメンすぎるモーツァルト、プラハ市立フィルハーモニー管弦楽団による美しい調べ、当時の社交界の優雅な装いを堪能するとともに、サロカ男爵の卑劣さに大いにムカっ腹を立てて見て欲しい。
ロシアの文豪とその妻を描いた『終着駅 トルストイ最後の旅』
続いての“悪妻の夫”は、『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などの著作で知られるロシアの文豪トルストイである。彼の妻ソフィヤも、歴史を代表する悪妻として名前が挙がる人物だ。
この作品は、晩年のトルストイ夫妻を描いたもの。48年間の夫婦生活で築き上げた確固たる絆があり、意見の相違はあるものの互いに深い愛情で結ばれている様子が画面越しに伝わってくる。ここでもまた、映画とはいえ「どこが悪妻なんだ?」という疑問が頭をもたげるのである。
確かに、最終的には「著作権」や「富や財産」に関する考え方の相違で二人の間に埋めがたい溝が生まれ、トルストイは病弱な老人でありながらも家出を敢行するという暴挙に出る。二人の別居は当時のロシアでは一大スキャンダルであり、トルストイの滞在先にはあっという間に新聞記者やパパラッチの野営キャンプが乱立したほどだ。映画ではトルストイがこの世を去るまでが描かれるが、その時悪妻(とされる)ソフィヤは夫の死に対してどう向き合うのか、その辺が見どころと言えるだろう。
冒頭で悪妻説の明確な根拠を見出すのは難しいと書いたが、ソクラテスが語ったとされるこんな言葉が残されている。「ぜひ結婚しなさい。よい妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば私のように哲学者になれる」。もしもクサンティッペが良妻であったなら、哲学の祖と言われるソクラテスは誕生しなかったのかもしれない。(T)
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