“誘拐犯”と“被害女児”となった2人の孤独な魂を活写する『流浪の月』
家に帰れない少女を自宅に招き入れた大学生、2人はその後…
凪良ゆう原作の2020年本屋大賞受賞作『流浪の月』が、広瀬すずと松坂桃李のW主演で実写化され、5月13日より公開される。
凪良ゆうは昨年実写ドラマ化されて話題となった『美しい彼』シリーズをはじめ、『セキュリティ・ブランケット』や『薔薇色じゃない』など多くのBL小説を手がけて実力を培ってきた作家だ。『流浪の月』はBL小説ではなく、年の離れた男と女を描いた物語となっている。
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主人公の家内更紗(かないさらさ)はうちに帰れない事情を抱えた少女。雨の公園で彼女と出会った孤独な大学生の佐伯文(さえきふみ)は一人暮らしの自分のうちに招き入れる。更紗は実はマイペースで自由な性格で、秩序をもって暮らしている文には新鮮だった。更紗は更紗で自分を受け入れてくれる文の側は居心地よく、2人は幸せなひとときを過ごす。しかし、文は“誘拐犯”、更紗は“被害女児”として、つかの間の時間は終わりを告げる。15年後、どうやっても消し去ることのできない“被害女児”という過去とともに周囲との距離を測りながら生きている更紗は、小さなカフェを営む文と再会する。
これはいわば救済と再生の物語
本作は“誘拐犯”と“被害者”の物語ではあるが、安易なストックホルム症候群が描かれているわけではない。それこそ、この作品のひとつのテーマでもある、レッテルを貼ってわかった気になるようなもので、真実はそんなに単純なものではないのだ。これはいわば救済と再生の物語。心に深い傷を抱え、他者にはとうてい理解されない者が傷つきながらも生きていくさまが描かれている。孤独な魂同士はお互いがお互いの拠り所となって、あがきながら居場所を見つけ出そうとする。ただ、他者を理解するのはなかなかに困難で、その難しさを当事者として常日頃肌で感じている更紗でさえ、他者の理解はできていないあたりはとてもリアルだ。
人気の役者たちが名演、少女時代を演じた白鳥玉季にも注目
この濃密なドラマを活写したのは『怒り』の李相日。特殊な環境ながら、普遍的な生きづらさを感じさせる。そして役者陣が上手い。広瀬すずは更紗の脆さと強さを、松坂桃李は自分の存在そのものに抱く文の不安感を体現。更紗の恋人の亮を演じる横浜流星も、文の恋人の谷を演じる多部未華子も、世間の代表でありつつキャラクターとしての背景を感じさせる。そして、約800名の中からオーディションで少女時代の更紗役に選ばれた白鳥玉季にも注目して欲しい。大人びた諦観と独自の奔放さを併せ持つ更紗を、説得力を持って好演している。
原作のもととなったBL小説もぜひ読んでみてほしい
惜しむらくは文の心情の描写が物足りないところ。凪良ゆうの得意とするキャラクターの視点を変えての描写が映画版では活かしきれずに、もとからつかみどころのない文というキャラクターの心情がさらにつかみづらいように思え、ラストがあっけなく感じられた。文章での表現に頼らない映像化の限界ではあるかもしれないが。興味がある方は原作小説も手にとってみてはいかがだろうか。
また、原作小説にはもととなったBL小説『あいのはなし』もある。凪良ゆうは『あいのはなし』をベースに『流浪の月』を手がけてたのだとか。ラブストーリーとして読みたいかたはこちらをどうぞ。そちらのほうがしっくりくるという方もいるかもしれない。(文:牧島史佳/BLライター)
『流浪の月』は、2022年5月13日より全国公開。
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