【2013年映画ベスト5/人生を考えさせてくれた作品】
2013年もあとわずか。なんだかんだ言いながら、今年も素敵な作品に出逢えたことを嬉しく思う。そのなかでも、映画というのは人生に向き合わせてくれるツールのひとつととらえる私としては、“人生を考えさせてくれた映画”の個人的な2013年ベスト5を決めたい。
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第5位『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
まず第5位は、異国の地で第二の人生をスタートさせようとする妙齢の男女を描いたイギリス製ヒューマン・コメディ『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』。夢描いて再出発したものの現実とのギャップとトラブルに登場人物たちが悩まされるという例のパターンが待ち受けているわけだが、高齢化問題を抱える日本人としては他人事としては見られない。しかし暗い気持ちになることはなく、イギリス流のウィットとユーモア、加えて舞台となるインドのパワーもあって「悩むばかりが解決につながるわけじゃない、人生こんなものかな」と前向きにしてくれた。さらに、ジュディ・デンチをはじめとした大御所のベテラン俳優たちによるキイキとした軽やかな好演もポイント高い。邦画じゃ、こうはいかないだろう。
第4位『ビル・カニンガム&ニューヨーク』
4位には『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を入れたい。ニューヨーク・タイムズ紙の人気ファッション・コラム「ON THE STREET」と社交コラム「EVENING HOURS」を長年担当する名物フォトグラファー、ビル・カニンガムを追ったドキュメンタリーだ。ファッションにまったく興味ないわけじゃないが、おしゃれな人でもない私が見てもいいんだろうか? わかるだろうか? とおずおずと見たのだが、おしゃれにまったく興味ない人でもハートを射抜かれるであろう愛すべきおじいちゃまの映画であった。この80歳過ぎのビル・カニンガムがとても素敵でチャーミング。彼は削ぎ落とされた質素な生活をしつつ、ストリートでもセレブのパーティでも自分のアンテナに引っかかったファッションだけをフィルムに収めていく。その好奇心あふれる姿は少年のように無邪気。それでいて野心はなく、それどころか指図されずに自由でいるためノーギャラでやっているという。そこまで夢中になれるものを見つけられるとは、幸せなことだ。
第3位『コズモポリス』
さて、ベスト3は現代アメリカ文学を代表するドン・デリーロの同名小説を鬼才デイヴィッド・クローネンバーグが監督した『コズモポリス』だ。簡単に言うと、大都市ニューヨークで、若くして大富豪となった投資家が一夜にして富を失い、虚無感と死の影を感じながら人生と街をさまようといったところ。といっても主人公が人生を取り戻そうとジタバタもがくドラマティックな展開はない。舞台の大半がマンハッタンの渋滞を徐行する、ブルーを基調とした光を放つハイテクのリムジンの中。それは言わずもがな資本主義の象徴であり、サイバー的であり、閉塞感があり、主人公の戦車であり、安堵感に包まれた胎内であり、さまざまな解釈が取れる。会話劇とも言えるセリフの応酬もメタファーに満ちている。ヌメっとした質感の観念的なドラマはいかにもクローネンバーグらしく、それでいて非現実的に終わらせていないのもまた彼らしい。前立腺が非左右対称なのが発覚するあたりから均衡が崩れていく青白い顔した主人公に、決して熱くはないがしっかりと体温を感じ取ることができる。彼の人間らしい痛みが伝わってくる。『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンのハマりっぷりも印象的だ。
第2位『クラウド アトラス』
2位となるのは、こちらも観念的というか哲学的な叙事詩であった『クラウド アトラス』。6つの異なる時代と場所によるストーリーが同時進行し、輪廻転生を意味するように1人の俳優が複数の役に扮してそれぞれのストーリーに登場する、手塚治虫の原作漫画『火の鳥』形式のスペクタクルロマンだ。『マトリックス』3部作のウォシャウスキー姉弟と、『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァが共同監督・脚本・製作し、いかにもなSF的ビジュアルと世界観が炸裂。その映像に惑わされるが、本質は人生そのもの、あるいはこの世の原理を捉えようとしている。それぞれが影響し合いながら生きていき、且つ人間にはコントロールできない流れに翻弄される濃密な3時間弱にこちらもパワーが吸い取られ、ヘロヘロになればなるほど、作り手の情熱に感動させられた。
第1位『いとしきエブリデイ』
市井の人々の日常を切り取る名匠はイギリス映画界に多いと思うが、中でも最高級の監督である『ひかりのまち』のマイケル・ウィンターボトムによる『いとしきエブリデイ』が1位。登場するのはどこにでもいそうな平凡な家族だが、父親は服役中でほんのわずかな面会時間に会えるだけ、母と4人きょうだいは父親不在の毎日を暮らしている。不穏な場面も迎えつつ、何か起こりそうで起こらない、タイトル通りにこれこそが日常と言わんばかりに淡々と進んでいく。幼い4人きょうだいは実のきょうだいで、実際に5年の歳月をかけた撮影で彼らの成長がフィルムに焼き付けられている。本当なのだからズルいほどリアルなわけだが、この生きた表情はウィンターボトム監督ならではだろう。愛くるしかった子どもたちはたくましくというか、ふてぶてしいほどに成長。反対に母親には、放っておけない不安定な心情が、ドラマ的ではなくリアリティある微妙な変化として現れてくる。母親が子どもよりも危なっかしく頼りなく思えていると、終盤で父親が肩車してあやすのは妻であるこの母親だ。たまたまかとも思うが、ウィンターボトム監督なら狙いだろう。いつもウィンターボトム監督はすごいと痛感してしまうのは、登場人物に好感が持てなくても愛おしく感じさせられること。応援したくなるような人物でなくても決して見放したりはせず、自分の人生をひたむきに生きているその現実を繊細にそっと切り取って見せる。そして、こちらの人生の現実も肯定してくれているように感じさせる。たいていの人間は彼の映画の登場人物のように、清廉潔白なばかりじゃなく汚れた部分も隠し持つ欠点多い人間なのだから。
どうにもならない人生を改めて考えさせられ、明日も頑張ろうという気持ちに少しでもさせてくれる映画たちに感謝したい。やっぱり映画は人生を支えてくれる良き友だ。(文:入江奈々/ライター)
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