【週末シネマ】『危険な関係』映像化作品のなかでも群を抜いた魅力を放つ1作

『危険な関係』
(C) 2012 Zonbo Media
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『危険な関係』

ある種の感情には国も時代も問わない普遍性がある。言わずもがなのその事実を再確認させるのが、新たに映画化された『危険な関係』だ。原作は1782年に発表されたフランスの小説。貴族社会を舞台に、プレイボーイの子爵と恐ろしいほど頭の切れる侯爵夫人が純真で無邪気な人々を残酷な恋愛ゲームに巻き込んでいく。書簡形式でその過程を描くド・ラクロの原作はこれまで、オリジナルに忠実なものから大胆な脚色作まで、何度も映画化されてきた。

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1959年のジェラール・フィリップとジャンヌ・モローが主演したロジェ・バディム監督作に始まり、アカデミー賞に輝いたグレン・クローズ主演のもの、リース・ウィザースプーンらを起用し現代アメリカの若者を主人公にした『クルーエル・インテンションズ』、ヨン様ことペ・ヨンジュン(『スキャンダル』)やコリン・ファース(『恋の掟』)の主演版、日活ロマンポルノで蓼科のスキー・リゾートを舞台にした新藤兼人脚本、藤田敏八監督という作品もある。

今回はチャン・ツィイーとチャン・ドンゴン、セシリア・チャンというアジアのスターを主演に迎え、『八月のクリスマス』のホ・ジノ監督が1930年代の上海の上流社会を舞台に据えた。若き未亡人で実業家でもあるジユと、裕福な家庭出身の名うてのプレイボーイ・イーファンは恋にまつわる悪だくみを仕掛けては周囲の人々の心を弄ぶ。今回ジユが狙いを定めたのは婚約したばかりの十代の少女・ベイベイ。かつて自分を捨てた男への復讐として、ジユはイーファンに少女を誘惑するよう持ちかける。

だが、百戦錬磨のイーファンにとっては別の女性――亡夫の遺志を継いで奉仕活動に従事する貞淑なフェンユーを落とす方がよっぽど挑戦のしがいがある。さらに、ジユとイーファンの間にも共犯関係だけには収まらない感情が存在する。やがて2人は互いの土地や体を賭けの対象に、フェンユーを堕落させる恋愛ゲームを始め、そこにベイベイと彼女の芸術教師の青年・ウェンジョウも巻き込まれていく。

楚々とした未亡人から、ひとたび恋心に火がつき我を忘れるフェンユーの情熱的な変貌を演じるのはチャン・ツィイー。疑うことを知らない無垢な表情があまりにも完璧だ。その力強さには悪女・ジユ役のセシリア・チャンが霞んでしまうほど。もっとも、押され気味のセシリアが見せる虚勢は本来このキャラクターが隠し持つ弱さを表す効果を発揮している。イーファンを演じるチャン・ドンゴンは中年になり、二枚目の顔にちょっと影を落とす草臥れた風情が放蕩三昧の日々を送ってきた人でなしのプレイボーイらしさを醸し出す。ゲームに興じていたはずがいつしか本気になり……となって以降の切ない表情は、さすが多くの女性ファンを虜にした韓流スターの本領発揮といったところだ。

誰かを想う心よりも体面を重視しようとするイーファンとジユ。愛することで負う傷を恐れる弱さとそれを隠すための虚勢、プライドの高さ、容赦ない残酷さと退廃的な空気に満ちた30年代上海の相性の良さは予想を遥かに上回った。恋に没頭する者も、権謀術数に長けるあまりに自滅する者も、気性の激しさは日本のスタンダードとは桁違いだ。今も残る往時の劇場などでロケを行い、主な舞台となる豪邸を撮影用に一から造り上げ、衣裳から家具調度品まで贅の限りを尽くして時代を再現する映像美も必見だ。

そういえば原作が書かれたのもフランス革命まであと数年、という時期だった。どんな時代のどこの国においてもはまる物語だが、戦火が吹き荒れる前夜の爛熟の魔都と美しい男女という組み合わせは、近年の『危険な関係』映像化作品のなかでも群を抜いた魅力を放っている。(文:冨永由紀/映画ライター)

『危険な関係』は1月10日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中。

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[動画]『危険な関係』 予告編