【週末シネマ】粗も目立つが、生きるために戦う男たちの圧倒的パワーでねじ伏せる
『ダラス・バイヤーズクラブ』
3月3日(日本時間)に発表の第86回アカデミー賞主演男優賞に最有力視されているマシュー・マコノヒー主演の『ダラス・バイヤーズクラブ』。1985年のアメリカ・テキサス州から始まった実話の映画化だ。
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酒もドラッグも女も大好きで、手当たり次第にやりまくる。エイズはゲイの病気だから関係ない。そんな乱暴な生き方をしてきたテキサスの男がHIV陽性と余命30日を宣告される。打ちのめされながらも男はすぐに行動を起こす。運命に逆らうため、生きのびるためならば社会制度や製薬会社を敵に回してでも、という勢いで戦い続けていく。
主人公のロン・ウッドルーフは電気技師として働きながら、ロデオと酒と女に金をつぎ込む刹那的な毎日を送っていた。数年前からじわじわと蔓延し始めたエイズは同性愛者しかかからないという風説をロンも信じていたが、ひとたびHIV陽性を宣告されると、彼は図書館で新聞記事や専門書を読み漁る。未承認の特効薬の存在を知るや、自分を診察した医師に処方を頼む。当然断られると、彼は単身メキシコに渡り、さらなる別の未承認薬を大量に入手。自分で服用するのみならず、ほかの患者たちに提供し始める。会費制で集まった会員たちに薬を無料で配るというトリッキーなシステム、それが「ダラス・バイヤーズクラブ」だ。これを医師たちや製薬会社、政府が見逃すはずはない。摘発を試みる彼らに対して、ロンは美しきトランスジェンダーの相棒・レイヨンと共に“個人の健康のために薬をのむ権利”を勝ち取るための戦いに臨む。
マコノヒーは21キロ減量し、骨と皮のようにやせ細った体で治療薬を求めて世界を飛び回るエネルギッシュなロンを演じる。死にたくないという執念から凄まじく悪知恵をめぐらせ、そこから自身の視野も広げていく。女装の相棒・レイヨンは辛辣なユーモアのセンスで偏見をはねつけつつ、愛情深い一面を持つ。演じるジャレッド・レトは6年ぶりの映画出演だが、文字通りの見事なサポートで多くの映画賞で助演男優賞に輝いているのもうなずける。彼も役作りのために18キロの減量を行ったが、2人共に肉体的な変化だけが突出することはない。むしろそれを忘れさせるほど、もっと別のレベルから訴えかけてくる。
治療薬をめぐる政府と製薬会社の思惑、患者を救うことが最優先の医師、病院という組織の一員であることを選ぶ医師……と様々な現実が盛り込まれる。その一方で、80年代後半の時代描写はところどころ粗が目立つ。ロンが東京へ足を運んだあの時代、渋谷のスクランブル交差点はあんな風景ではなかったはず、という想念が浮かんだりもするが、圧倒的な主人公の旅はすべてをねじ伏せる。自由に生きてきた男が自分のために、他人を巻き込んで行動を起こし、結果的に他人をも救う。一種の「One For All, All For One」の精神、連帯の美徳を独特の形で描いた物語だ。
『ダラス・バイヤーズクラブ』は2月22日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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