観客ターゲットを見据えて向井理を起用
中田永一原作による同名小説を映画化したみずみずしくて切ない青春ラブストーリー、『百瀬、こっちを向いて。』。
・前編/今旬美少女・早見あかり初主演作が出来るまで
・中編/今旬美少女・早見あかり初主演作が出来るまで
プロデューサーの明石氏も太鼓判を押し、ヒロインの百瀬役は早見あかりに決定したものの、さて、主人公のノボルはどうするか?苦労したという。 フレッシュなキャストやスタッフを起用するとき、プロデューサーとしてとくに気にかかるのはやはり製作資金の集まりや集客力、つまりお金のことだ。
幅広い層に支持される恋愛映画で、中田永一のファン層を考慮すると、作品のメインターゲットは25歳以上の女性と想定。原作ではノボルは高校時代と8年後の20代前半の青年時代が出てくるが、25歳以上の女性客を狙いたいとなると、さらに大人の目線が欲しい。過去の恋を振り返るにはより年月が経っていた方が感情移入が出来るだろう。それに、高校時代のノボルと青年時代のノボルに年齢差をつける事で、30歳前後の知名度ある俳優のキャスティングが可能になる。
映画業界に暗黙の裡に流れるひとつの目標として、“新宿ピカデリーで上映してもらえるか”というのがある。そこに必要なのは「メジャー感」で、それには集客力のある俳優が出ている事が必至なのだ。そこで白羽の矢が立ったのが向井理というわけだ。
青年時代のノボルを30代にしたり小説家にしたり、大きく設定を変えたために原作者の中田永一からOKがもらえるかと気を揉んだが、「映画と原作小説は異なるもの」と柔軟な考えを持っており、快諾を得ることができた。
冴えない高校時代を送る主人公のノボル役は「30歳のノボルは向井理」ということありきなのでキャスティングが難航すると思われたが、偶然、向井と同じ事務所に所属している竹内太郎が目に留まった。実際にお芝居を見せてもらうと、向井同様、イケメンなのにどこか「ノボル」を彷彿させるものがあり決定した。
筆者は主人公としてもっと冴えない、例えば『大人ドロップ』の前野朋哉が頭に浮かんで仕方なかったが、明石氏は原作に書かれている言葉のイメージだけでキャスティングすればいいというわけではない、という。今回は「イケてない」→「冴えない」→「自分に自信がない」という方向にイメージを転換させてキャスティングを考え、その先に向井理と竹内太郎がいたのだ、と。
なるほど、原作のイメージ通りで、映画ファンが納得する内容であったとしても、それが実際に作品としての成功に結び付くかどうかは難しく、とてもチャレンジングなことだ。
観客は狙い通り女性客が多く、また早見あかりファンであろう20歳前後の男性客と二分化している。「男性ファンにはとにかく早見あかりの美しさと可愛らしさに満足してもらえるだろうし、同時にノボルに共感してもらえるのではないだろうか。見終わった後、皆、『百瀬』に恋をするかも。女性客は、かつてした恋の切なさを思い出したり、ノボルのような男の子が陰ながら見守っていてくれてたらイイな、と少女マンガ風に浸れるかも」と明石氏は期待している。(文:入江奈々/ライター)
『百瀬、こっちを向いて。』は全国公開中。
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