『ゆきゆきて、神軍』の原一男監督、マイケル・ムーアはアホかと思った!?
天皇の戦争責任に迫る過激なアナーキストの奥崎謙三を追ったドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』(87年)などで知られる原一男監督が、7月12日にシアター・イメージフォーラムで行われたトークイベントに臨み「マイケル・ムーアやオッペンハイマーはアホ!」と世界的なドキュメンタリー作家2人を一刀両断にした。
原監督が登場したのは、現在公開中のワン・ビン監督作『収容病棟』の上映後。『ゆきゆきて、神軍』で世界のドキュメンタリー界を震撼させた原監督は、ドキュメンタリーでは“仕掛ける天才”。一方、超長尺の傑作『鉄西区』(03年)以来、ドキュメンタリー界の最前線にいる『収容病棟』のワン・ビン監督は、“カメラがあることを忘れてしまう”と評されるタイプ。
一見、両者の作風はまったく異なるもののように思われるが、これに対し原監督は「僕もワン・ビンも写真から入って、それから映画に転身した。写真の経験があると、被写体との関係のなかでカメラをどう相手に向けていくか、それを具体的に考えるんですよ。ワン・ビンの画を見て、なるほど僕と似ていると思った」と意外にもワン・ビンと似ていると思ったそう。
実は今年2月、『収容病棟』のプロモーションで来日したワン・ビン監督と雑誌の取材で対談している監督。その時の印象についても「ワン・ビンは風貌もあか抜けなくて、まるで田舎のアンちゃんのよう。私も決して都会的でスマートなタイプではないという点でも親近感が湧いた」と照れ笑い。
共通点といえば2人とも自分自身でカメラを回す点。それだけに「『収容病棟』はカメラが自由になっている。対象に2m以上近づかないようにしたと言っているそうですが、そのなかでも自由に、ある時はぐっと寄ったり、追いかけていたのをふと止めたり。カメラと遊んでいる感覚もあるんですよ。だから意外にもワン・ビンの映画のなかで、実はこの映画が一番見やすいんじゃないかと思っている」と話していた。
そうしたなか原監督は、過去に対談したことのある2人のドキュメンタリー監督の名をあげると、「マイケル・ムーア(『ボウリング・フォー・コロンバイン』監督)なんてただの典型的なアメリカ人で、アホとちゃうかと思った。それに比べたら、『アクト・オブ・キリング』の監督は知性的だろうと思ってたんですが、対談してみたら、ジョシュア・オッペンハイマー監督も典型的なアメリカ人。そういう視点から見ると『アクト・オブ・キリング』は大ヒットし、みんなも傑作だ傑作だと言っているようですが、たいした映画じゃない。観客が圧倒されるのは虐殺の数の多さ。現実世界のなかで虐殺した側が英雄視されているというおぞましさであって、作品のすごさじゃないでしょう」と原節を炸裂。会場を沸かすと、さらに「マイケル・ムーアともオッペンハイマーとも、もう話さなくていい。でもワン・ビンとならまた話してもいいなぁ。彼は実に気持ちのよい男でした」と締めくくっていた。
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