『神々の山嶺』夢枕獏と寺田克也の特別対談
第47回セザール賞アニメーション映画賞を受賞、フランスで大ヒットした本のアニメ化『神々の山嶺』が7月8日より全国公開される。このたび、原作の生みの親小説「神々の山嶺」の作者・夢枕獏と、谷口ジローを師と仰ぐ漫画家・寺田克也の特別対談が実施された。
寺田は、「アニメ版『神々の山嶺』を見たオレの第一印象は、山が主役の究極の山アニメだ、ということでした。オレは、山とは縁遠い人間なんです。登山歴と言っても、高尾山くらい(笑)。そんなオレにも、 高いところまで登るとこんな感じなのか、という空気感がひしひしと伝わってきました」と感想を述べた。
対する夢枕は、「原作者として僕が驚いたのは、そもそもアニメの原作に『神々の山嶺』をチョイスしたこと。日本ではありえないことですよ。フランスだから成立したんだろうなあ。一番大きいのは『神々の山嶺』をマンガ化した谷口ジローさんが、フランスでものすごく有名なマンガ家だからですよね。もうひとつは、フランスにはヨーロッパ・アルプスで一番標高が高いモンブランがあって、登山文化が国民の中に根付いていることだと思います」と背景を分析してみせた。
さらに夢枕を驚かせたのは、アニメにフランス人がひとりも登場してこなかったことだという。
「普通なら自国人をひとりくらいは入れたくなるものなんですけどね。しかも、日本の風景描写が完璧でした。よくあそこまで取材したなあ。谷口さんの原作へのリスペクトが強かったんだろうなあ。『神々の山嶺』を谷口さんにお願いしてよかったのは、(漫画版の)ラストシーンでマロリーがエベレストの山頂で見せるいい笑顔を描いてくれたことです。僕は、登頂に成功したのかどうかを最後までぼかして書いたのだけど、谷口さんは『ラストを変えて、マロリーが登頂に成功した場面を描きたい』と言ってくれた。心の中のモヤモヤが晴れたような気分でした。僕の中にも登頂を成功させてあげたかった、という思いがありましたから」
また寺田が、「ご本人はずいぶん前から、私は描きすぎるから、とおっしゃって、ひとりで描ける作品世界をつくろうとされていました。晩年には薄墨を使った絵も描いていた。ずっと自分の絵を模索してきていた人ですよね。一人のファンとして、もう少し長生きしてもらって完成形を見たかったです」と17年に本作品の完成を待たずして逝去した谷口の死を惜しむ。
「あと10年は描いてほしかったなあ」と夢枕が言えば、寺田も「同感です。アニメを見た方が、まだ原作を読んでいないのなら、獏さんの小説と谷口さんのマンガの両方を読んで、お2人の世界に触れてほしいと思います」と感慨深げに語った。
未解決のナゾを突き止めようとする男たちの物語
本作品は、「登山家マロリーがエベレスト初登頂を成し遂げたかもしれない」といういまだ未解決の謎を突き止めようとする男たちの物語。
その謎が解明されれば歴史が変わる──。カメラマンの深町誠はネパールで何年も前に消息を絶った孤高のクライマー・羽生丈二が、マロリーの遺品と思われるカメラを手に去っていく姿を目撃。深町は羽生を見つけ出しマロリーの謎を突き止めようと、羽生の人生の軌跡を追い始める。やがて2人の運命は交差し、不可能とされる冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑むこととなる──。
『神々の山嶺』は、7月8日より全国公開される。
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