若者のカリスマから
ギミック先行の“経営者”へ
「映画を作るのが好きなんだ。映画を見るのが好きなわけじゃない」。リュック・ベッソンについて、真っ先に思い出すのはこの発言だ。90年代後半、『フィフス・エレメント』(97年)を完成させた頃だっただろうか。その作品を見続けていれば、大いに納得できる言葉だ。作り手の気持ち1つで突っ走る。観客の共感を得た場合は大当たりだが、1つ間違えば大ブーイングか、最悪の場合は話題にすらならない。監督、プロデューサーとして巨大化していくにつれ、映画人・ベッソンはその傾向を強めている。
映画を作るのが好きと言いながら、観客をなめてるんじゃないかと思う雑な仕上がりでも意に介さない。1つのネタを2度も3度も使い回して平気でいられるのは、 良いものを作る創意工夫や完璧主義とは無縁に、ハマった遊びを飽きるまで繰り返す感覚で作っているんじゃないか? ここ数年は特にそんな気配が感じられる。それでも『マラヴィータ』(13年)にはロバート・デ・ニーロやトミー・リー・ジョンーズ、『LUCY/ルーシー』(14年)にはスカーレット・ヨハンソンやモーガン・フリーマンといったオスカー俳優や当代きっての人気女優が出演する。一流の仕事を知る一流の人々を惹きつける何かを持っているのは間違いなさそうだ。『ニキータ』(90年)以降のカメラはティエリー・アルボガスト、デビュー作『最後の戦い』(83年)から音楽はエリック・ セラ、と同じスタッフとずっと仕事を続けていることからも、映画を作る現場のリーダーとして必要不可欠な才能の持ち主であることもうかがえる。
ベッソンは自国フランスでは毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい存在だ。『グラン・ブルー』(88年)や『ニキータ』『レオン』(94年)などは社会現象になった大ヒット作だが、批評家受けは決して良くない。そして、最大の支持層である若者とベッソンの年齢に開きが出てくるに従って、以前のような求心力は薄れ、ギミックばかりが先走る印象が勝っていくようになってしまった。…後編へ続く(文:冨永由紀/映画ライター)
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