老いてなお華やかな女性関係と
精力的な製作活動
(…前編から続く)音楽への造詣が深く、自作の音楽を担当したこともあるイーストウッドだが、80年代の作品では挿入歌も担当したり、香港映画のスター並みの八面六臂の貢献ぶりだ。ジャズを愛し、セロニアス・モンクの記録映画を製作し、やがて『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』『父親たちの星条旗』では自ら音楽を手がけ、『さよなら。いつかわかること』に至っては音楽のみを担当したほどだ。
・80歳を超えてなお、ペースも質も落とさずクリーンヒットを放ち続けるクリント・イーストウッド監督/前編
俳優・イーストウッドは『ダーティ・ハリー』など強面のイメージだが、険しい目つきを少し和らげれば、元が二枚目なだけに甘い雰囲気になる。65歳で『マディソン郡の橋』の主人公を堂々と演じることもできるわけだ。イーストウッドは60歳を迎えて以降、出演作のほとんどは自ら監督を務める作品だが、それまでのイメージに囚われず、老いを味方につけて、俳優としてもどんどん自由になっていったのが興味深い。
自由といえば、私生活、特に女性関係は賑やかだ。結婚は2度だが、元妻たちを含めた5人の女性との間に7人の子どもがいるとされる。75年から89年まで同棲し、共演作も多かったソンドラ・ロックの自伝によると、彼女には妊娠中絶するように言いながら、別の女性との間に子ども2人をもうけていたという。20代で結婚した最初の妻との間にもうけた息子・カイルはジャズ・ミュージシャンで、父親の作品の音楽も担当、娘・アリソンは父親の作品に子どもの頃から出演し、モデルを経て女優となった。『ピンクキャデラック』で共演し、『許されざる者』に出演したフランシス・フィッシャーとの間に生まれたフランチェスカは『ジャージー・ボーイズ』に出演している。また、客室乗務員の女性との間にもうけたスコットも『父親たちの星条旗』をはじめ、父の作品で頭角を表し、11月公開予定のブラッド・ピット主演作『フューリー』に出演するなど俳優として活躍し始めている。
ソンドラとは破局後に慰謝料請求の訴訟を起こされたり、暴露本めいた自伝を執筆されたりしたが、フランシス・フィッシャーとは別れた後も『トゥルー・クライム』で一緒に仕事をするなど、友好的な関係を築いている。昨年10月、17年間連れ添った2番目の妻(35歳下)と離婚したが、その後は別れた妻の恋人の元妻と交際。さらに今年になって、イーストウッド所有のホテル「Mission Ranch Hotel」に勤務する40代女性と同居中と報じられている。
長寿社会の現代では、80代を超えて現役の映画監督も少なくない。ポルトガルには100歳を過ぎても撮り続け、その年齢に達した者しか描けない境地を描くマノエル・ド・オリヴェイラのような超人がいるが、彼の前では22歳下のクリント・イーストウッドはまだ若輩者扱いになるかもしれない。事実、今年もすでにスティーヴン・スピルバーグから引き継いだブラッドリー・クーパー主演の『American Sniper(原題)』を撮り終え、クリスマスにアメリカで限定公開を控えている。アメリカ海軍特殊部隊に所属し、米軍史上最強と謳われた実在のスナイパーの自伝の映画化だ。歳を重ねてますます研ぎすまされていく。ペースも質も落とさず、クリーンヒットを打ち続ける職人。映画の怪物、傑物だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ジャージー・ボーイズ』は9月27日より公開中。
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