海外の賞レースで注目される『そこのみにて光輝く』のプロデューサーに聞く
●夢の1億円を突破! 次に目指すのはアカデミー賞
(…中編より続く)函館出身の不遇の作家・佐藤泰志の原作小説を映画化した『そこのみにて光輝く』。製作費も規模も決して大きくはない本作が、第38回モントリオール世界映画祭において最優秀監督賞を受賞。そのほかイギリスのレインダンス映画祭にて最優秀作品賞を受賞するなど国内外の映画賞を騒がせ、そして2015年2月に行われる第87回米国アカデミー賞で外国語映画賞部門の日本出品作品に決定した。
・作品力だけで勝ち上がり米国アカデミー賞日本代表となった小規模作、その快進撃の舞台裏/前編
・作品力だけで勝ち上がり米国アカデミー賞日本代表となった小規模作、その快進撃の舞台裏/中編
公開封切から時間が経過したタイミングでの受賞は、ビジネス的な意味合いとしては正直言って大きな価値はない。封切前に受賞し、それが宣伝効果となって観客動員数が伸びることが理想ではあるが、そうそう良いタイミングにハマるものではない。しかし、逆に言うと『そこのみにて光輝く』の場合、その理想をさらに凌いだものとなった。というのも、受賞より以前にロングラン公開となって、当初目標としていた興行収益“1億円の大台”を突破したのだ。つまり、“映画祭受賞”という看板がなくとも、作品の中身とキャスト・スタッフの実力でじわじわと観客動員数を伸ばしていったのだ。
シネコン時代の今は、客入りが悪いと如実に公開期間に反映されるものだが、そんななか、大々的に宣伝されたわけではない作品がロングランヒットを放つのは並大抵のことではない。本作のプロデューサーをつとめる星野秀樹氏は、劇場にお客さんが来てくれることがなによりも嬉しいという。そして、こんな小規模な作品が数字的な実績を出し、海外の賞も受賞して、これからの日本映画の可能性が広がっていくことに期待したい、と。
「映画祭での受賞が何かに直結するわけじゃないけれど、いずれは自分にも返ってくるものだと思います。プロデューサーとして、ただお金になる作品だけ作っていればいいわけじゃないと思って仕事をしています。子どものころから見ていた映画には、いつまでも心に残る作品がたくさんあります。そういった作品は感情的なことだけじゃなく、いつの間にか自分の蓄積になり映画作りにもつながっていく。『そこのみにて光輝く』と前作の『海炭市叙景』とあわせて三部作となる、佐藤泰志原作の映画化をもう1本企画しています」
菅原氏も話してくれた三本目の佐藤泰志原作の映画化は実現に向けて進行しているようで一映画ファンとしてとても楽しみにしている。
その前には米国アカデミー賞という大イベントもあり、『そこのみにて光輝く』の奮闘が気になるところだ。第87回アカデミー賞で外国語映画賞部門の日本出品作品に決定した吉報は、モントリオール映画祭から凱旋帰国した直後に飛び込み、興奮の連続だったのだとか。
海外は作品の規模やキャリアといったフィルターを通して見るのでなく、純粋に良い作品かどうかをフラットに見てくれるところが面白いという。
「ただ、見てもらうためにはまずプロモーションしないとなりませんね。ハリウッドでこの作品の試写会を開いて、アカデミー会員の方に作品の説明をして、実際に見てもらわないことには。お金がないのでまたバックパッカースタイルで行ってきます。今度も珍道中になりますね、きっと」。そう言って笑う星野氏に邦画界の希望の光を見て、とても心強く思った。アカデミー賞はまもなく予備選考が行われ、年明けにはノミネート作品が発表、2015年2月22日に授賞式が行われる。ゆけ、日本のインディーズ魂! その底力を見せてくれ!!(文:入江奈々/ライター)
『そこのみにて光輝く』DVDが11月14日にリリース(セル豪華版DVD 4,800円+税/セル豪華版Blu-ray 5,800円+税/セル通常版DVD 3,800円+税/発売・販売元:TCエンタテインメント)。
星野秀樹(ほしの・ひでき)
1971年4月30日生まれ、福岡県出身。東京都立大学大学院理学研究科を卒業後、自主映画製作に携わる。2001年にプロデュースしたインディーズムービー『Peach』がLAIFF in JAPANにて大賞を受賞、キノタヴル映画祭でも大賞を受賞する。その後、劇場公開作品を手掛け、プロデューサーおよびラインプロデューサーとして活躍中。主な作品は『ノン子36歳(家事手伝い)』『海炭市叙景』『四十九日のレシピ』『銀の匙 Silver Spoon』など。また、呉美保監督の『きみはいい子』が2015年に公開予定。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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