『インターステラー』
難解なストーリーを、実写にこだわった壮大なスケールの映像とエモーショナルなドラマで盛り上げる。これが『インセプション』、『ダークナイト』シリーズのクリストファー・ノーラン監督の得意技だ。最新作『インターステラー』もまさにその通り。だが、これまでと何か違う一皮むけた印象を与える。
・マシュー・マコノヒー、自身の名前のついた記念日認定に「とても光栄」
近未来、砂嵐が吹き荒れる地球が舞台だ。人類存亡のレベルに達した食糧危機に立ち向かうため、誰もが農業に従事する。宇宙開発計画などとうに廃止され、テスト・パイロットでエンジニアだった主人公・クーパーも故郷で年老いた義父と子ども2人とトウモロコシ畑を耕している。そんな彼が人類の移住が可能な惑星探査計画のパイロットに抜擢される。愛する家族を残して旅立つことと、人類を救うという使命感の葛藤に苦しみながら、後者を選択するクーパーをマシュー・マコノヒーが演じている。
今年『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、テレビシリーズ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』でも高い評価を得て、今がキャリアの絶頂期にいるといってもいいマコノヒーは、今回もしびれるような名演だ。といっても、クーパーは前記2作をはじめとする作品で近年演じてきたようなエキセントリックな人物ではない。家族を愛し、開拓精神もある、古き良きアメリカ男性の典型を端正に演じている。ノーランは本作製作にあたって影響を受けた作品の1つとして、『2001年宇宙の旅』などと並べて『アラバマ物語』を挙げているが、同作でグレゴリー・ペックが演じた主人公、アティカス・フィンチとクーパーには確かに通じるものがある。
同時にもう1つ、マコノヒーという俳優には何ともいえない“抜け感”がある。ノーランの映画で「Slick(米俗語で男性への呼びかけ方の1つ)」なんて言葉使いがはまるキャラクターがかつていただろうか? 一歩引いた客観性と、感情が一気に自制を決壊させる瞬間。そのバランスが絶妙だ。マイケル・ケインとアン・ハサウェイというノーランお気に入り俳優の堅調さはもちろんのこと、ジェシカ・チャステイン、ケイシー・アフレックのほか、ウェス・ベントリーやトファー・グレイスといった30代俳優のチョイス、意外な名優たちの登場なども見どころだ。
ストーリーのSF要素については、理数系がまったく駄目な筆者にはいくら台詞で説明されても「そうなんだ」としか思えないが、監督の弟で、兄の作品も数多く手がけるジョナサン・ノーランが理論物理学者で本作製作総指揮に名を連ねるキップ・ソーンの理論をもとに書き上げた。
音を聴く映画でもある。独特の抑揚で聞かせるマコノヒーの声、ディラン・トーマスの詩を読むマイケル・ケインの声、自然の音、物理的衝撃の音。そこに、静寂を恐れるようにハンス・ジマーの音楽が鳴り響く。十分にドラマティックなところに、だめ押しのような旋律の洪水で息がつまる点だけが、少し残念だ。
ノーランの作品の個性は、実は撮影監督のウォーリー・フィスターあってのものと思っていた。だが、フィスターが初監督作『トランセンデンス』に携わっていたため、本作では『裏切りのサーカス』『her/世界でひとつの彼女』のホイテ・ヴァン・ホイテマと組んでいる。最新の代表作2本からも見てとれる、荒涼とした寒々しさも心に沁み入るような温かさも伝わる映像は、徹頭徹尾スタイリッシュなフィスターとはまた違う味わいをノーラン作品にもたらした。ホイテマは『007』シリーズの最新作も手がける予定だ。
悲壮で大仰なドラマだけではない、温かさ。より大きく人の心に訴えかける境地に達したノーランの最新作は、もう1度見たい気持ちをかき立てる。2度目に見るときは、オープニング・シーンから、もうグッとくるはずだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『インターステラー』は11月22日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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