ジョニー・デップがラッパー射殺事件を追う刑事役、社会の闇を炙り出す一作
1990年代の未解決事件を題材にした『L.A.コールドケース』
【週末シネマ】1990年代、アメリカのヒップホップ界の大スター2人が相次いで射殺された未解決事件をモチーフに、事件の真相を追い続ける元刑事とジャーナリストを描いた『L.A.コールドケース』。ジョニー・デップが実在のロサンゼルス市警察の元刑事を、フォレスト・ウィテカーが事件を調査するジャーナリストを演じた本作は2018年に完成しながら、昨年ようやくアメリカで公開されたクライム・サスペンスだ。
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ロサンゼルス市警のラッセル・プール刑事は1997年3月、東海岸の人気ラッパー、ザ・ノトーリアスB.I.G.ことクリストファー・ウォレスがL.A.滞在中に何者かによって射殺された事件を捜査していた。事件の半年前には西海岸の人気ラッパー、2パックがラスベガスで射殺される事件が起き、両者がそれぞれ所属するレーベル同士の抗争が招いた悲劇と噂されたが、その真相は未だに明かされていない。
事件から18年経ち、警察を辞してもなお1人で事件の謎を追い続けるプールのもとに、事件を振り返る記事を担当するジャーナリスト、ジャック・ジャクソンが訪ねてくる。彼はかつて、ウォレスに批判的な記事を発表し、ピーボディ賞を受賞したが、プールはジャクソンの記事に対して否定的な態度を隠さない。
家族と別れ、一人暮らしの質素なアパートの壁いっぱいに資料を貼りつけて調査を続けるプールは、ウォレス殺害と真相の隠蔽についてロス市警の関与を確信している。自説を否定されながらも、ジャクソンは今まで知る由もなかった数々の事実や事件の謎を解く手がかりに触れ、プールのもとに足繁く通って彼の信頼を勝ち取り、事件当時からの捜査で新事実が判明するたびに妨害され、真実から遠ざけられていった過程を本人から聞き出していく。
デップとフォレスト・ウィテカーの演技力で飽きさせない
マシュー・マコノヒー主演の『リンカーン弁護士』で知られるブラッド・ファーマン監督の演出は、2015年の現在に1990年代がフラッシュバックさせながら進む構成だ。当時のヒップホップ・シーンの関係図や実際に起きた2つの殺人事件、当時のロサンゼルスを震撼させたロス市警の汚職事件「ランパート・スキャンダル」の知識なしでは、ついていくのがやっとの状態だが、要点を整理したストーリーテリングと、何よりもデップとウィテカーの名演の求心力で飽きさせない。
事件に取り憑かれ、全てを失ってなお真実と正義を追い求めるプールを演じるデップは抑えた表現を貫くことで、プールが味わった苦難と孤高さを際立たせる。ウィテカーが演じるジャクソンと次第に相棒のような関係を築き、気を許しあった2人が交わすやりとりや表情の細やかさ、自然さは見事で、ジョニー・デップという俳優の真価が改めて発揮される。
ラッパーの母親役を演じた人物の言葉が胸に響く
『リンカーン弁護士』のシェー・ウィガム、『潜入者』のマイケル・パレなど、ファーマン監督作に出演した俳優のほか、1990年代に『パルプ・フィクション』や『ユージュアル・サスペクツ』などに出演し、『クリーン、シェーブン』という怪作に主演したピーター・グリーンも出演している。
孤独に戦い続けた男の物語を通して、汚職や陰謀、人種差別、人命の軽視という、2022年の今も世界にはびこる普遍的問題を炙り出す社会派作の一面もある。
劇中、クリストファー・ウォレスの母親が登場するシーンがある。息子を奪われた悲しみや怒りの果ての境地を感じさせる、穏やかだが重みのある佇まいに「演じているのは誰か?」と調べたところ、ウォレスの母であり、本作の製作総指揮に名を連ねるヴォレッタ・ウォレス本人だった。彼女が静かに紡いだ言葉は胸に響く。その言葉に聞き入るデップとウィテカーの表情も忘れ難い。(文:冨永由紀/映画ライター)
『L.A.コールドケース』は、2022年8月5日より全国順次公開。
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