少女が時空を超えて出会ったのは子どもの頃の母だった
【週末シネマ】子どもの頃に、同じ年頃だった頃の自分の親と会う。それはどんなものなのか、そのとき子と親は何を感じるのか。現実的ではないことなのに、自分に置き換えて考えてみたくなる。『秘密の森の、その向こう』は新鮮な切り口で親と子という関係を描いていく。第72回カンヌ国際映画祭脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』(19年)のセリーヌ・シアマ監督の最新作だ。
・世界が絶賛! 『燃ゆる女の肖像』セリーヌ・シアマ監督インタビュー
祖母が亡くなり、両親と共に森の中にある祖母宅の片付けにやって来た8歳の少女・ネリーが主人公だ。少女時代を過ごした家で懐かしい記憶にいたたまれず、母親は1人でどこかへ行ってしまい、父と2人で残されたネリーは森を探索中に自分とそっくりの少女と出会う。
母と同じ名前「マリオン」を名乗る少女とすぐに仲良くなったネリーは彼女の家へ招かれる。そこは自分が滞在している“おばあちゃんの家”だった。壁紙こそ違うが、間取りは同じ。寝室で横たわっているマリオンのお母さんは若かりし日の祖母に間違いない。信じられない心地でマリオンの家を飛び出し、森の反対側に戻ったネリーは、現在の祖母の家に帰った。
双子の姉妹が演じることでファンタジーに説得力が生まれた
時空を超える事象に驚きながら、それを素直に受けとめる子どもの心の柔らかさが美しい。8歳という年齢は幼すぎず、かといって大人と同じように物事を見ているわけではない。ネリーと8歳のマリオンを演じるのは、双子の姉妹であるジョゼフィーヌ&ガブリエル・サンス。これが映画初出演だが、枯枝で小屋作りに興じる無邪気な子どもらしさ、洞察力、孤独、他者への思いやりをナチュラルに表現する。実際に血縁である事実が、ファンタジーのような母と娘の出会いに不思議な説得力をもたらし、祖母も加わる3世代の物語が壮大に流れていく。
エンドクレジットで流れる監督の言葉を見逃さないでほしい
シアマ監督はスタジオジブリ作品に影響を受け、撮影中に迷った時は「宮崎駿監督ならどうする?」と自問自答したという。その演出は先回りして説明しすぎず、画面に映るものから、まず想像させる。観客はネリーと一緒に目の前で起きていることを経験する感覚だ。そこでわかるのは、子どもの視点というものがこんなにも豊かであるかということだ。理屈ではなく察する力で、大人ならば遠回りしてしまう本質にたどり着く。それを監督は「最も過激で詩的な近道」と表現している。
「またね」や「この次」がないことを知っている寂しさ、あるいは相手のことを大好きで親しいからこそ、“今度”の訪れを疑わずに「さよなら」を言えなかった後悔。誰しも経験があるであろう感情を呼び覚ますだけでなく、物語を通してカタルシスを与える作品だ。
エンドクレジットで流れる歌の詞が響く。画面の片隅に敢えて映し出される、シアマ監督が作詞した言葉をぜひ見逃さないでほしい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『秘密の森の、その向こう』9月23日より全国順次公開中。
(C) 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
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