(…中編より続く)
●「自分で演ってる気持ちで書いていたな」と思うことも
青春映画『桐島、部活やめるってよ』『幕が上がる』の脚本を手掛けて高く評価され、本多孝好原作の「ストレイヤーズ・クロニクル」の映画脚本も担当した喜安浩平氏に、原作を脚本化する極意と苦労を聞いた。
・【映画作りの舞台裏】前編/『桐島』『幕が上がる』を手がけ「青春映画の名手」と謳われる気鋭脚本家に注目!
・【映画作りの舞台裏】中編/『桐島』『幕が上がる』を手がけ「青春映画の名手」と謳われる気鋭脚本家に注目!
筆者がこれまでの作品を見て個人的に喜安氏に会えたら聞いてみたい!と思っていた質問をぶつけてみた。『桐島〜』の映画版では、違う人物からの視点で同じ時間が何度も描かれるが、原作は章に分かれていて高校生活という同じ空間と時間を共有している概念はあるものの、そこまで明確ではない。あのアイデアは喜安氏によるものなのだろうか?
「原作はオムニバスのようになっていますが、映画でそれをやると、ただ羅列しただけで終わる気がしたんです。ある種、息つく暇もない緊張感を持たせたほうが、映画という手段にあうんじゃないかと思いました。プロットは書かずに、いきなり脚本に取りかかったんですが、第1稿の時点で、金曜日が繰り返すという案は書いていました。あと、吉田大八監督と一緒に20稿ぐらいまで脚本を書いたんですが、その中で、原作を解体して映画少年を主人公に据える、ということを脚本の柱にしていただきました」。
原作では映画少年たちが話題にするのは岩井俊二監督作や犬童一心監督作だが、映画版ではジョージ・A・ロメロ監督のファンでゾンビ映画オタクだ。これも喜安氏の案だったのか?
「正直に言うと、僕は映画少年の感覚を表現するための具体的な情報をあまり持ちあわせていません。ロメロにしようと決断したのは吉田監督です。ただ、僕も岩井さんや犬童さんではないなと思っていました。そんな子なら、あんなふうに鬱屈しないのではないかと。もっと、女の子に理解してもらえないような種類の表現が好きな子だとは思っていました」
一方『幕が上がる』は、原作で描かれている恋愛要素が映画版にいっさいなく、男子生徒も登場しなかったが、それに関してはどうだろう?
「一度、卒業する先輩を男子生徒で書いてみて、ほんの少しの恋愛も絡めてみたんですが、その先輩が愉快過ぎてテーマがぶれるのでやめました。『がんばれ! ベアーズ』みたいに、とまでは言わないけど、演劇部員たちが、演劇を通して成長していくところに絞りたかったので。僕が脚本化する時に意識したのは主人公のさおりをダメな子にする、いうことだけで、そこが原作と違うところです。原作者の平田オリザさんにはすみませんと思いながらも、「主人公があまり演劇を好きじゃない子でもいいじゃないか」と思いながら脚本を書きました」。
なるほど! ナイスなアレンジ。青春モノのツボを心得た喜安氏の手腕はさすがだ。しかしながら、いまや“青春群像劇の名手”と言われる喜安氏だが、当人はそれを自負していないという。
「いつだって登場人物それぞれの物語だと思っています。『ストレイヤーズ〜』にしても、昴や学がたまたま若者だっただけで、 “青春群像劇”を書こうと意識してるわけじゃないです」。
自身の肩書きはどうとらえているんだろう、役者か、脚本家か、はたまた……?
「うーん、それも自分では意識してないですね。脚本を書いているときに『あ、今、自分で演ってる気持ちで書いていたな』って思うこともあります。監督やプロデューサーに『このセリフは違和感がある』と言われても、『役者さんがちゃんとやれば大丈夫ですよ』と言ってしまうのは、僕自身が役者もしているからでしょう(笑)。ただ、吉田監督に『このセリフ、どう演出していいかわからないよ』と言われてカットされそうになった時に、僕はカットしたくなかったので『大丈夫ですよ』と言ったら、そのセリフを会議室で全力で読まされました」と笑う喜安氏は非常に頼もしい。
さらに彼は「僕が何という立場かより、何かを作っている仲間のもとに呼んでもらって、たまたま文字に起こす係が僕だった時は脚本家と呼ばれるだけって感じです」と軽やかに言う。
喜安氏ならその軽やかさで各業界の枠を飛び越えて活躍し、各界のカンフル剤となってくれるだろう。そのことを告げると「お役に立てれば嬉しいです」と謙虚に微笑んでくれた。(文:入江奈々/ライター)
『ストレイヤーズ・クロニクル』は6月27日より全国公開される。
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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