「映画好き」と言われれば言われるほど、聞きづらくなるのが映像技術の一般常識。理解しているようでいて実はよく知らない。こっそり訊ねたら「そんなこと知らないの?」と呆れられそう。本コラムでは話題の映画ブルーレイを題材にしながら、いまさら聞けない映画の一般常識や用語についてお話していこう。
●今回のお題「錯視」
●オススメBlue-ray『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/3D』
「錯視」という用語がある。これは読んで字のごとく、視覚に関しての錯覚だ。対象物の明るさ、色、形を実際と異なるものとして見てしまう視覚の錯誤であり、たとえば昔からの「だまし絵」もこの錯視の好例だ。
もちろん3Dにも錯視があり、ホームシアターで言えば2D鑑賞より大きな問題となることが多い。図(1)をご覧いただこう。黒いフレームに囲まれた画面上に、球形の物体が配置されている。すべて同じ球体なのだが、それぞれ見え方が異なるはずだ。画面中央の球体は立体感があるが、四隅の球体は平面的だ。
これはどういうことなのだろう。これも錯視によるものである。物体がフレーム内にある場合は飛び出し感があるものの、物体の一部がフレームにかかっている場合は、飛び出していないように人間の脳が視覚を補正してしまうからである。
ここから正しい3D鑑賞法が見えてくる。これまでにも解説してきた通り、視野角と視聴距離の関係が3D鑑賞ではより重要となってくるからだ。人間の左右の視野角一杯の距離(視野角40度/画面高の約2.4倍)から、画面左右の端が少し視野からはみ出す距離(視野角48度/画面高の2倍)に視聴位置を設ければ、3D映像がフレームにかかっても飛び出し感が保たれることになるわけだ。
3D映像は離れて見るのではなく、なるべく近づいて見るもの。遠く離れて鑑賞しても、その魅力は引き出されない。画面サイズも大きい方が好ましい。ここには4K映像と同じ鑑賞スタイルがあることを憶えておいてほしい。
ジェームズ・ガン監督のメガヒット作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の3D版は、ハイビジョンサイズ(1.78:1)とシネスコサイズ(2.40:1)画面サイズが混成している。人間の左右の視野角は上下に比べて狭いため、画面端を視野角ちょうどに収めて鑑賞すれば、シネスコ映像は人間の知覚とリンクして安定感が増し、観せ場のハイビジョンサイズ映像はぐっと立体感(飛び出し感/奥行き感)が増して楽しめるという仕組みなのである。
さて次回はデジタルシネマカメラのお話。(文:堀切日出晴/オーディオ・ビジュアル評論家、オーディオ・ビジュアル・ライター)
次回は8月21日に掲載予定です。
堀切日出晴(ほりきり・ひではる)
これまでに購入した映画ディスクの総額は軽く億を超えることから、通称は「映画番長」。映画助監督という作り手としての経歴を持ち、映画作品の本質を見抜くには、AV機器を使いこなすこと、ソフトのクォリティにも目配りすることを説く。
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