【週末シネマ】なぜ苦戦? 予測不可能な展開と反骨精神も強烈な快作『アムステルダム』
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クリスチャン・ベール、マーゴット・ロビーら豪華キャストが共演
クリスチャン・ベールを筆頭に新旧のオールスターキャストが揃うデヴィッド・O・ラッセル監督(『アメリカン・ハッスル』)のスリラー・コメディ『アムステルダム』。先に公開されたアメリカでは厳しい批評と興行面で苦戦が伝えられたが、なぜそんなことになったのか不思議に思えるくらい、予測不可能で大胆な展開とユーモアと反骨精神も強烈な快作だ。
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まずは豪華な顔ぶれを挙げておこう。監督の『ザ・ファイター』でアカデミー助演男優賞を受賞したベール、『スキャンダル』でアカデミー助演女優賞候補になったマーゴット・ロビー、デンゼル・ワシントンの息子で『TENET テネット』などで主演を務めたジョン・デヴィッド・ワシントン、さらにロバート・デ・ニーロとラミ・マレックというオスカー俳優に、クリス・ロック、アニャ・テイラー=ジョイ、ゾーイ・サルダナ、マイク・マイヤーズにマイケル・シャノン、歌姫のテイラー・スウィフトまで登場する。
アカデミー賞常連監督による1933年の事件を題材にしたフィクション
『世界にひとつのプレイブック』、『アメリカン・ハッスル』などアカデミー賞常連の監督が今回取り組んだのは、1933年にアメリカで実際に起きた「ビジネス・プロット」事件をもとにしたフィクションだ。1929年の世界大恐慌を受け、社会が第二次世界大戦へと向かい始めた時期のこの事件は、大企業や財界の大物たちが当時の政権転覆とドイツやイタリアのような独裁政権成立を企み、海兵隊のスメドリー・バトラー将軍を傀儡として擁立を目論んだというものだ。
この実話に架空の主人公3人が関わっていく。そのトリオは第一次世界大戦で共に戦い、重傷を負った2人の元兵士のバート(ベール)とハロルド(ワシントン)、彼らを手当てした看護師だったヴァレリー(ロビー)だ。ヨーロッパの戦地で意気投合した彼らは「どんな事があっても互いを守り合う」と誓い、オランダのアムステルダムで共同生活を始めたが、バートはやがてアメリカに残した妻の元に戻り、ヴァレリーも突然姿を消す。
時は流れて1933年、バートとハロルドはニューヨークにいた。かつてニューアムステルダムと呼ばれた街で、バートは医師として退役軍人を救援し、ハロルドは弁護士として活動していた。そこで2人はある殺人事件の濡れ衣を着せられ、無実の罪を晴らそうと行動する中で消息不明だったヴァレリーと再会する。昔と変わらない絆を取り戻した3人は真相究明のために奔走するが、そこに資産家一族や高名な将軍のギルが関わり、彼らはあまりに巨大な陰謀へと巻き込まれていく。
3人のケミストリーが素晴らしく、荒唐無稽な展開に乗れれば楽しめる
登場人物はくせ者だらけで、突飛な行動もするが退役軍人たちを献身的にケアするバート、困った人を見捨てられないハロルド、自由を体現する芸術家でもあるヴァレリーの3人がある意味、最もまともな感覚の持ち主だ。1933年現在も、かつてアムステルダムという桃源郷であらゆるしがらみから解放されて自由を謳歌していた時も、彼らは戦争によって負った深い痛みを忘れていない。
監督とはこれが3度目の顔合わせのベールは水を得た魚のように自在で、ワシントン、ロビーとのケミストリーが素晴らしく、3人は実に魅力的なアンサンブルだ。彼らの持つ背景は一見ほら話のようだが、不思議な信憑性があり、荒唐無稽な展開に乗ることができれば、美しく痛快な物語を楽しめるはずだ。誰がどんな役で誰とどう絡むのか、人間模様やそれぞれがたどる意外な運命が面白い。時代を再現する衣裳やセット、アカデミー撮影賞を史上初の3年連続で受賞したエマニュエル・ルベツキの映像も見事だ。
社会への怒りや抵抗をエンターテインメントとして表明
ありとあらゆる狂騒の連続でふざけ倒しているようで、物語は現代にも通じる社会の不条理を突き、一見平穏な世の中に広がる拝金主義や権威主義のグロテスクさを痛烈に批判する。権力者が望むものとは何なのか。蔑ろにされ続ける者たちが捨て身でその正体へと迫っていく。戦争、差別といった人間を不幸にするだけのものに対する強い怒り、芸術や文化を軽視し、自由さえも抑圧する風潮への抵抗と警鐘を、徹底的に豪華絢爛なエンターテインメントという形で表明している。(文:冨永由紀/映画ライター)
『アムステルダム』は、2022年10月28日より全国公開中。
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