【週末シネマ】「スペインの暗黒史」と「母たちの物語」を描くアルモドバル監督の衝撃作
#コラム#スペイン#ティルダ・スウィントン#パラレル・マザーズ#ヒューマン・ボイス#ペドロ・アルモドバル#ペネロペ・クルス#レビュー#週末シネマ
ペネロペ・クルスと7度目のタッグで再び母をテーマに
新作が完成するたび、世界中の映画ファンを色めき立たせる映画監督の一人といえば、スペインが誇る名匠ペドロ・アルモドバル。3年振りとなる最新作『パラレル・マザーズ』では、彼のミューズであるペネロペ・クルスと7度目のタッグを組み、自身のライフワークでもある母の物語に再び挑んでいる。それらの要素を聞くだけでも、見ないわけにはいかないと感じるのではないだろうか。
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主演を務めたペネロペが演じるのは、人気フォトグラファーとして活躍しているジャニス。予想外の妊娠をしてしまうも、一人で子どもを産むことを決意する女性だ。出産が近づき、入院先で出会ったのは同じくシングルマザーになろうとしている17 歳のアナ。親しくなった二人は同じ日に女の子を出産するのだが、それこそが彼女たちの運命を大きく左右する出来事へと繋がっていく。
母性あふれる迫真の演技で最優秀女優賞を受賞
本作では、これまでさまざまな映画でも取り上げられてきた子どもの取り違えを軸に、母親の抱える葛藤を映し出している。ペネロペは、いまにも爆発してしまいそうな感情を内に秘めつつ、子どもへの溢れ出す愛情、そして女性の持つ強さを見事に表現。アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたのをはじめ、ヴェネツィア国際映画祭では最優秀女優賞に輝いた。実生活では夫ハビエル・バルデムとの間に2人の子どもがいることもあり、劇中の出産シーンでは、自身が出産した際に味わった感情が蘇ってきたという。彼女自身が持つ母性と役がリンクしていたからこそ、真に迫る演技が見る者の心を動かすのもうなずける。
内戦の悲劇、今なお続く遺骨発掘作業を並行して描いた意図
また、本作では母親たちの物語と並行して、重要なテーマとして描かれているのが1930年代にフランコ政権時代下で起きた「スペイン内戦」について。ジャニスは、被害者であった曽祖父を探し出す使命を胸に生きる女性でもある。歴史に興味がある人以外、日本人にとっては知られていない部分も多い出来事かもしれない。しかし、決して過去の話ではなく、10万人とも20万人とも言われている行方不明者の遺骨発掘の作業はいまなお行われている。アルモドバル監督もそういった活動に賛同したことから、このような題材を自身の作品に取り込んだという。
劇中で大きなカギを握るアイテムとして登場するのは、DNAテスト。遺骨の発掘作業においては愛する家族を見つけてくれる絆となるが、皮肉にもその一方で愛する娘との絆を断ち切るものにもなってしまう。苦悩の決断をするジャニスを通して、家族とは決して血縁関係のみで成り立つものではないということを見せつつ、嘘のうえには真の親子関係も未来も築くことは難しいと感じさせる。アルモドバル監督らしい濃密な人間ドラマも見どころとなっている必見の1本だ。
アルモドバル監督×ティルダ・スウィントンの短編も同日上映
そして、『パラレル・マザーズ』と同日上映されるのは、アルモドバル監督初の英語作品『ヒューマン・ボイス』。こちらは、イギリスを代表するティルダ・スウィントンが主演する短編映画となっており、恋人に捨てられて絶望している女性の姿に迫っていく。アルモドバル監督が得意とする色彩豊かな映像のなかで、唯一無二の存在感を放つティルダの一人芝居によって展開されていく本作は、30分という短さながら彼女の圧倒的な演技が存分に堪能できる。ペネロペとアルモドバル監督、ティルダとアルモドバル監督というそれぞれのタッグがどのような化学反応を見せているのかを比べてみるのもオススメだ。(文:志村昌美/ライター)
『パラレル・マザーズ』と『ヒューマン・ボイス』は、2022年11月3日より公開中。
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