岡山で農業に携わりながら映画制作を続ける山崎樹一郎監督の最新作『やまぶき』が11月5日に渋谷ユーロスペースで公開され、主演・カン・ユンスと祷キララ、川瀬陽太、和田光沙、黒住尚生、山﨑樹監督による舞台あいさつが実施された。
・岡山県真庭市の山間で農業に携わりながら、映画製作を続ける監督の長編第3作『やまぶき』仏と国際共同製作
撮影から3年を経てようやく公開。満席の会場に喜びもひとしお
2019年の撮影から3年経った2022年にようやく公開を迎えた『やまぶき』。山崎監督は「初日に満席。日本での初めての上映に来ていただいてありがとうございます。コロナ禍のためずっと編集をやっていて、ようやく今日、初公開できてとても嬉しい。これから全国に広がっていくだろう映画の初日に立ち会えて嬉しいです」と喜びと感謝の言葉を口に。映画のタイトル『やまぶき』の名前を冠した女子高生・山吹役の祷は「こうしてたくさんの方々に見てもらえて嬉しい。映画は見てもらって初めて完成すると思うので」と挨拶した。
撮影当時、岡山県真庭市に住んでいたという、主人公の韓国人チャンス役のカンは「真庭の山奥にスタッフやキャストが合宿しながら過ごした日々が非現実的でその風景が面白かった。自分が演じるチャンスは悲劇に見舞われるが現場は楽しくてそのギャップが凄かった。みなさんに真庭を案内したりもした」と笑顔で振り返った。祷は「宿泊していたところが山の麓で自然が豊かだったのでよく散歩していた。一番強烈に残っているのはカメムシが多かったこと。大きくてすごく元気で飛んできたりして驚いた。和田さんとか虫に強いキャストやスタッフの立場が強かった」と語り会場の笑いを誘った。
山吹の父親で刑事役の川瀬陽太は「群像劇なので、カンさんが採石場を走り回ってる裏で僕はホテルで渡辺淳一(の小説)みたいなしっとりしたシーンを撮ったりしていた。あとは宿で黒住くんを説教したりと楽しくやってましたよ」と振り返った。チャンスの恋人役の和田光沙が「わたしは東京に戻ることなく1ヵ月真庭にいてなじんだ。地元の方たちが受け入れてくださっている雰囲気を感じた」と言うと、カンは「和田さんはスカーフ巻いて自転車で町をウロウロしていて現地の人みたいだった」とほほ笑んだ。山吹の恋人役の黒住尚生は「初対面の人たちが多くて、なじめるか心配だったけど、川瀬さんがギターを弾いたり、和田さんが掃除したり、みんな自由にしている姿を見てて、撮影以外の全部の時間を含めて大切な映画体験になった」と暖かい現場の雰囲気を伝えた。
カンヌ映画祭ACID部門の存在もっと伝えたい
本作は今年5月に日本映画として初めてカンヌ国際映画祭ACID部門というインディペンデント映画を上映する部門に出品され、山崎監督、カン、黒住が参加した。カンヌに行くまで完成版を観ていなかったカンは「カンヌに行ったこともすごいけど『やまぶき』を見られるという気持ちのほうが強かった。しかし現地に行ってみると、その圧倒的な規模に驚いた。こんな場所で山奥で合宿しながら作った映画が上映されるんだということを実感した」と映画祭の印象を語った。さらに「撮影から3年ぶりに監督や黒住くんに会って、山奥で撮影していた人たちがカンヌの海辺を背景に座っているその様子も面白かった。観客の前で上映されているのを見て、嬉しいという言葉だけでは足りず熱いものがこみ上げた」と感慨深げに振り返った。
黒住は「華やかなカンヌのレッドカーペットのイメージしかないまま現地に行ったが、ACID部門のスタッフの温かさを感じて『やまぶき』という作品が上映される場として合っていると思った。一方でコンペ部門の会場ではセキュリティが厳しかったりと、芸術面と商業面が入り乱れた映画祭と感じた。ACIDは日本では全然知られていないけれど、僕らの作品が初めて出品されて体感したことをもっとみんなに伝えられたらと思う」と口にした。
監督から作品の印象を聞かれた川瀬は「今回の作品は(前作と比べて)肩の力が抜けていてエンタメ色も入っている。いろんな人に楽しんでもらえる作品になったと思う。山崎が考える世界が描かれている」と太鼓判。和田は「カンさんと娘役のえりちゃんとの家族のシーンがほとんどだったんですが、アクションシーンもあって一つのジャンルにとらわれないいい映画」と語った。
そして祷が「自分にとってこの4年間は自分自身や環境が変わる出来事が多く、時間の大きさを感じると思ったけど、映画を見て全然昔に感じなかった。山吹を見ていると、自分自身が励まされるような気持になった。山吹は将来や信じたいことに悩みや葛藤を抱えていて、その姿を見ていて、迷ったり悩んだりしても別にいいんじゃないかと思えた。うまくいかなかったり、信じたいものが何かわからなかったり、それも生活だし、別にいいや!って思えた」と語ると、山崎監督は「めちゃくちゃありがとうございます。そう思ってもらえると報われる」と感謝して、舞台挨拶は締めくくられた。
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