11月18日、俳優の香川照之が主演を務める監督集団「5月」(ごがつ)の長編映画『宮松と山下』の公開記念舞台あいさつが都内で実施された。登壇した佐藤雅彦監督、関友太郎監督、平瀬謙太朗監督がそれぞれ香川の魅力を語った。
・香川照之「変態性に満ちていた。狂っている」「異様な衝撃走った」と激賞 主演映画『宮松と山下』11月公開
平瀬監督「全員がゾワッとしたのが印象的で、香川さんの力を浴びた気がします」
本作で香川が演じるのは、エキストラ役者として生きる男・宮松。ある日はあっけなく斬られて画面の端に消え、ある日はチンピラとして凶弾に倒れ…。そんな殺されてばかりの端役を一生懸命に取り組む目立たない男の生活を描き出す。そして津田寛治、尾美としのり、中越典子らが口数の少ない宮松の謎に包まれた現在と過去を展開していく。香川が単独主演を務めるのは、2008年以来となる。
佐藤監督は「香川さんの一挙手一投足に感動していました」と述懐。「妹の藍が『そう、昔よく(タバコを)吸ってた』と言ったのち、振り返ってにこやかに笑うシーンがありますが、あのカットにびっくりして、どうしてあんな軽やかな笑いが瞬時にできるのだろうと思って、後から香川さんに聞いたんです、『あの自然なにこやかな、裏のない幸せな笑いって、表情ってどう作るんですか?』と。最終的には教えてくれなかったんですが、あれをつくるのにかつてかなり努力されたようなんですが、香川さんの内部構造にはあれができる構造があるんですね。だからあの『笑顔』と言われた時にどんな状況でも、瞬時にできる内部構造があることに僕は恐ろしく思いました。みなさんもご覧になった通り、顔をピクピクと痙攣することも、香川さんの演技の技術の中に入っていて制御できる、そこがびっくりしました」と語った。
関監督も「僕が一番印象的だったのは、最終日に僕と平瀬に声をかけにきてくれて、『3人の監督は初めてだったけど、本当にいいことばかりだった』とおっしゃってくださったんです。『この現場は3人がカット、カット、カット、と揃って初めてカットが出る、3人分の重みがあるから、本当に納得して安心して次のシーンにいけた』とおっしゃっていただいて、役者としての姿勢というか、カットへの反応を毎現場確かめて次のシーンに向かっているんだと思って、そこがすごく印象的でした。香川さんは時代劇のシーンで何度も斬られるシーンがあるんですが、テイクごとに正確に少しずつ違う演技、違う動きや強弱の付け方をしてくださって、芝居の違いを見せてくれたので常に現場で探っている感じがとても印象的で感動しました」という。
平瀬監督は、香川の姿勢を賞賛。「私たちは、宮松という人物がどういうひとなのか、脚本を書きながらギチギチに決めていたわけではなく、現場で香川さんと会話しながらその場で作っていったのが印象的で、現場で4人で集まって、『じゃあこのシーン宮松だったらどう振る舞うだろうね』と。例えばロープウェイを閉めて階段の降り方ひとつを目の前で演じてくださる。タンタンタン、と一段ずつ降りていく。そういうのを重ねて宮松という人物像をつくっていったので、本当に我々にとっても贅沢な時間でしたし、映画にとっても大切な時間だったと思います。特に縁側で妹の藍に振り向いて『おかえりなさい』というセリフがあるんですが、脚本には書いていたものの、どんな言い方でどんな顔でどういう気持ちで言うのかは我々の頭にもなかった。それでまずはカメラテストをしてみた時、香川さんが振り向いてニコッと笑ったんです。スタッフ全員が、そんな『おかえりなさい』があるのかと自分たちの中に全くなかった見せ方でした。全員がゾワッとしたのが印象的で、香川さんの力を浴びた気がします」と話した。
佐藤監督はさらに、本作の取り組みについて言及。「僕が一番訴えたかったのは、やっぱりこの新しい形なんです。これは東京藝術大学の映像研究科の私の研究室から生まれた3人ユニットで、世界でも稀有だと思います。3人が同時に企画して、原作・脚本を書いて、撮影・編集して…。我々3人でやっと1人前と呼んでるんですけど。新しい「5月」という個性が生まれるんです。 “手法がテーマを担う”ということを私たちは標榜していますが、“手法”というと軽く見られがちですが、我々手法が大好きなんです。そこを追求している新しい形が、新しい表現を生むんじゃないかと思っています。それが、今後どんな新しいものをうむのか、我々にもわかりませんが楽しみにしていていただきたいです」とアピールした。
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