あくまでも第一歩、改善の余地はある
【日本映画界の問題点を探る/番外編/AV新法に込めた思い 2】AV出演被害防止・救済法(※)の成立に奔走した立憲民主党の塩村あやか参議院議員。2022年6月23日に施行されて以降、様々な議論を呼んでいる本法について、塩村議員に聞いた。
2019年7月に参議院選挙で初当選を果たしたのち、動物愛護や不妊治療の保険適用など、幅広い問題とつねに向き合っている塩村。そのなかでも、今回のAV新法に携わったことは自身の議員人生においても、大きな意味を持つ実績の一つとなったに違いない。
・意に沿わないAV出演を食い止めたい 逆風を覚悟して挑んだ思い【日本映画界の問題点を探る/番外編/AV新法に込めた思い 1】
※正式名称=性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律
「実は、私が当初考えていたのは未成年者取消権の復活をAV業界に求めるというシンプルなものでした。ただ、いろいろと進めていくなかで、自民党と公明党を中心としたワンツー議連(正式名称は性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟)が5年ほど前からこの問題に取り組んでいたと知り、それならばその知見を活かしたものを作ったほうがいいのではないか、というのが今回の流れです。ワンツーとは、『1 is 2(too) many』の略称であり、『性暴力被害においては、たとえ一件でも多すぎる』という意味が込められています。私の質問をきっかけに法制化はスピーディに行きましたが、そんなふうにこの議論自体は何年も前からされていたこと。AV業界に対して法的対応は必要だというスタンスを政府が持ち、国会答弁を繰り返していたからこそ、ここまで早く進んだのだと思います」
端から見ていると、問題提起からわずか2ヵ月半ほどで成立にまでこぎつけたように思われているが、水面下ではさまざまな調査や話し合いが長年にわたって行われていたと明かす。そして、塩村の思いは党を超えて一気に事態を動かすこととなる。
「立憲民主党も、一時は反対意見に引っ張られそうになったこともありましたが、その後はNHK党以外すべての党を巻き込み、超党派で一致団結して取り組むことになりました。とはいえ、その過程ではできるだけ穴を作らない法律にするために、撮影から公表までの期間をどうするかとか、細かいところで激しい言い合いになったことも。20年以上国会議員をされている方からも『二度と被害者を生まないという気持ちが一つになったからこそ、成立した』と言っていただきましたが、結果的にみんなでいいものが作れたと思っています」
弱者や被害者のためという思いに突き動かされた結果だが、それこそが国会議員や議会の本来あるべき姿のようにも感じる。さらに、デジタル性暴力・AV出演・性産業・性的搾取に関する相談支援を行うNPO法人ぱっぷすや、90年代後半に人気AV女優として活躍していた小室友里氏、AV人権機構などからの意見も参考とし、取り入れていくことに。
法制化へ向けて事態は順調に進んでいるかのように思われていたが、その一方で塩村たちの頭を悩ませるような分断が支援団体のなかで起きてしまう。
「アダルトビデオを定義するにあたり、『金銭を対価にした本番行為を認める法律になるのではないか』という反発の声が一部の女性団体から上がりました。予想外の反応で驚きましたし、自分たちの思いが伝わらないという意味では、あのときが一番絶望した瞬間だったかもしれません。ただ、これがなければ誰も救えなくなってしまいますし、いま起きている悲劇をどう救うのかというのが最優先事項。実際はものすごい数の被害者がいると言われていますが、声を上げられない人もまだまだたくさんいるような状況です。そういったこともあって、わかりやすく被害防止・救済法という略称をつけることにしました」
施行から5ヵ月近く経ったいまなお、塩村の元にはさまざまな声が届いている。彼女も、これはまだ第一歩にすぎないため今後も改善の余地はあると話す。
「まだ数多くの問題点がありますし、直さなければいけないところが見え始めているというのが現状です。そもそもこの法律は、AV業界を敵視するのではなく、業界全体の適正化を促し、被害者を救済するために作られたもの。実際、相談の数は増えていると聞いていますし、現役の女優の方からも『守られているように感じる』といった肯定的な意見も聞いているので、そういう観点でいえば、少なからず救えている人がいる現実があると思っています。反対派のなかには、『AVは日本の文化だ!』とおっしゃる方もいますが、誰かの搾取のうえに成り立つ文化は文化とは言えないのではないでしょうか。そのためにも法律は必要であると考えています」【女の子が大切にされない状況に疑問 きっかけは若き日の経験から(2022年12月3日掲載予定)】に続く(text:志村昌美/photo:今井裕治)
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