守りに入らない名優、三浦友和に感じる職人の気概

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ケイコ 目を澄ませて
『ケイコ 目を澄ませて』
(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会
ケイコ 目を澄ませて
『ケイコ 目を澄ませて』
AI崩壊

山口百恵主演『伊豆の踊子』で映画デビューした二枚目俳優

【名優たちの軌跡】今年2022年に古希を迎えたと聞くと、信じられない気がしてしまう。その一方で十分納得させられる重厚さがある。1970年代から映画やドラマで活躍し続けてきた三浦友和は、さまざまな作品において善を演じても悪を演じても、抜群の説得力で物語を動かす。デビューからちょうど50年を迎えた今、主演俳優としてバイプレイヤーとして、日本映画に欠かせない名優の歩みを振り返る。

恵まれて50年。これから自分に何ができるのか『ケイコ 目を澄ませて』三浦友和インタビュー

『ケイコ 目を澄ませて』

『ケイコ 目を澄ませて』 は、12月16日より全国公開中。
(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会

1972年にテレビドラマでデビューした三浦は2年後に『伊豆の踊子』で映画デビューした。先にCMで共演していた山口百恵の初主演作で、それまで何度も映画化されてきた川端康成の名作を西川克己監督が手がけた。大正末期、伊豆を旅していた一高生が旅芸人の一座と道連れになり、踊子の少女と心を通わせるも、彼は東京に戻るため別れ別れになるという物語だ。素朴で無邪気な踊子を演じた当時15歳の山口と、清潔感あふれる好青年のイメージを具現化した22歳の三浦は名コンビとなり、その後も映画やドラマ、CMで共演を重ね、やがて実生活でも伴侶となった。

30代前半、二面性のある悪役を演じて新境地を開拓

アイドル的な人気を博した20代は演じる役も真面目な青年が多かったが、1984年、32歳の時に吉永小百合主演の『天国の駅 HEAVEN STATION』でそのイメージをガラリと変えた。実際に起きた殺人事件をもとに、主人公の女性を翻弄して殺人に手を染めさせる男を演じたのだ。二面性のある悪役が持つ荒んだ様子で新たな一面を見せ、次に相米慎二監督の『台風クラブ』(85年)の無責任な中学教師・梅宮役も新境地開拓と話題を呼んだ。工藤夕貴をはじめ、演技経験の浅い10代の共演者たちとのシーンで見せる大人のいい加減さと素っ気なさ、恋人相手の時のろくでなしな様子など、演技ではないように見える生っぽさが印象的だ。相米監督は2001年に53歳の若さで亡くなったが、その前に三浦は『東京上空いらっしゃいませ』(90年)、『あ、春』(98年/友情出演)に出演している。

エンタメ作品も作家性の強い作品も自在にこなす演技力

キャリア50年を迎えたフィルモグラフィーには、エンターテインメント作と作家性の強い作品がバランスよく並んでいるが、諏訪敦彦監督とのコラボレーションも俳優・三浦友和の魅力が引き出されている。1999年の『M/OTHER』(カンヌ国際映画祭国際評価連盟賞受賞)では「ストーリー=諏訪敦彦、三浦友和、渡辺真紀子」とクレジットされているように、プロットの骨格はあるものの、そこから先は俳優が即興で演じていくスタイルで、撮影は長回しを多用する。劇的なことがなかなか起こらない日常をそのままさらけ出すような、何もしない芝居の迫真性がある。それは2020年にベルリン国際映画祭審査員特別賞を受賞した同監督の『風の電話』(20年)にも共通する。

若き二枚目俳優としてスタートした三浦のキャリアはごく一時期に停滞したこともあるが、年齢を重ねるに従って役の幅が広がり、出演作のジャンルも多岐に広がっていく。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの医師役、『沈まぬ太陽』で渡辺謙演じる主人公と袂を分つ“悪役”、北野武監督の『アウトレイジ』シリーズで演じた暴力団の頭脳派と役柄は幅広く、近年は『羊と鋼の森』(18年/橋本光二郎監督)や『AI崩壊』(20年/入江裕監督)、『線は、僕を描く』(22年/小泉徳宏監督)など若手と組んで、導くような立場の役も多い。

今年は『グッバイ・クルエル・ワールド』や『ケイコ 目を澄ませて』が公開

大御所と呼ばれる地位にあっても守りに入らず、俳優として新しい出会いに積極的で、2022年は大森立嗣監督の『グッバイ・クルエル・ワールド』と三宅唱監督の『ケイコ 目を澄ませて』も公開された。前者ではルサンチマンの塊でウザ絡みしてくる男の鬱陶しさが実にリアル。後者では、言葉ではなく佇まいで全てを伝える表現が圧倒的だ。

映画『グッバイ・クルエル・ワールド』

『グッバイ・クルエル・ワールド』 (C) 2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会

先日、『ケイコ 目を澄ませて』でインタビューする機会を得た際、三浦は後進のために、俳優をはじめスタッフも含めた日本の映画界の現状を変えていきたい、と語った。ノスタルジーやロマンに浸らずに現実を指摘する鋭い言葉に、俳優という役割で映画を作り続けてきた職人の気概を感じる。(文:冨永由紀/映画ライター)

ケイコ 目を澄ませて

『ケイコ 目を澄ませて』 (C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会