(…前編より続く)映画『あやしい彼女』では、日本人なら誰でも知っている昭和歌謡の名曲の数々が印象的に使われている。それらはすべて“身体は20歳、心は74歳”というヒロインが青春時代に親しんだ曲ばかりで、彼女の青春に再度彩りを加えていく。
多部未華子の演じる20歳の瀬山カツ=大鳥節子が初めてその歌声を披露するのが、地元の
のど自慢大会。ここで歌った坂本九の「見上げてごらん夜の星を」が、偶然にも要潤の演じる音楽プロデューサー、小林拓人の耳にとまり、デビューのきっかけを掴むことになる。
のど自慢大会で、小林と同じように節子の歌に魅せられたのが実の孫、翼だ。北村匠海の演じる翼はバンドでの成功を夢見ているが、そのバンドは大した音楽的ポリシーもなく、見た目のインパクトだけで勝負しようとしている。そんなバンドに誘われた節子はバンドの音楽性を一蹴。昭和歌謡を現代的なアレンジで聴かせるバンドに方向転換させ、“怪しい彼女”というバンド名で路上ライヴを敢行する。ここで歌った美空ひばり1967年のヒット曲「真っ赤な太陽」が動画サイトに投稿され、バンドの人気は着実に浸透していく。
人気の音楽番組に出演することになった“怪しい彼女”は、フォーク・クルセダーズの1968年のヒット曲「悲しくてやりきれない」をカヴァー。自分の人生を重ね合わせて涙ながらに歌う節子の歌声はお茶の間でも反響を呼び、ついに人気のロック・フェスへの出演が決定する。
「見上げてごらん夜の星を」「真っ赤な太陽」「悲しくてやりきれない」の3曲で聴くことのできる多部未華子の歌声は瑞々しく、まるで以前から歌っていたかのような説得力に溢れているが、当の本人は歌にそれほど自信がなく、クランクインの3ヵ月前から歌の猛特訓を開始。その上達ぶりは劇中歌のプロデュースを担当した小林武史も驚くほどだったという。また、これらの選曲にあたりスタッフは1000曲を超え昭和歌謡を聴き込み、本作の内容に沿った楽曲ということで最終的にこの3曲を選出。どれもよく知られた曲なので、ややベタに思えるが、確かに物語の内容との親和性が高く、その時々の節子の心象風景を明確に反映しているように思える。
そして「いいオリジナル曲を書くこと」を条件にフェス出演へのチケットを手にした“怪しい彼女”。さまざまなトラブルを乗り越え、節子はステージで翼のペンによるオリジナル曲「帰り道」を披露。聴衆から大喝采とともに受け入れられる。実際にはこの曲は小林武史がプロデュースする新人男女デュオ、anderlustのデビュー曲であり、作詞/作曲はヴォーカルでソングライターの越野アンナが小林と共同で行なっている。本作の公開に先立つ3月30日にこの「帰り道」をタイトル曲とするシングルでメジャー・デビューしており、今後の活躍が期待されている。なお、メンバーの越野アンナは、本作に女優としても出演している。
歌には自信がなかったという多部未華子。しかし彼女はもともとミュージカル『アニー』が好きで、小中学校を通して何度も同作のオーディオションを受けていたというから、歌うことに対して人一倍意識的だったことは間違いない。本作での歌い手としての開花が、今後のキャリアにどう結びついていくか楽しみだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『あやしい彼女』は4月1日より全国公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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