【映画を聴く】『グランドフィナーレ』前編
アカデミー賞ノミネート曲の美しい調べ
本年度のアカデミー賞主題歌賞に「シンプル・ソング#3」がノミネートされたほか、多くの映画賞で受賞&ノミネートを果たしているパオロ・ソレンティーノ監督の最新作『グランドフィナーレ』が、いよいよ日本でも公開となる。ソレンティーノ監督はもとより、主演のマイケル・ケインと助演のハーヴェイ・カイテル、撮影のルカ・ビガッツィ、美術のルドヴィカ・フェラーリオ、そして音楽のデヴィッド・ラングらがそれぞれのキャリアで最高の成果を上げており、総合芸術としての映画の醍醐味を目一杯に感じさせてくれる贅沢な逸品になっている。
「シンプル・ソング#3」はデヴィッド・ラングのオリジナルで、物語の重要なカギとなる楽曲。劇中ではマイケル・ケインの演じる引退した80歳のマエストロ、フレッド・バリンジャーの名を世界的に知らしめた名曲という設定で、フレッドはある“私的な理由”から、この曲を演奏することを頑なに拒否。イギリスの女王陛下の特使が持ってきた勲章授与と演奏のオファーにも耳を貸そうとしない。
彼が滞在するのはアルプス山脈のふもと、ダボスにある高級リゾートホテル。60年来の親友である映画監督のミック・ボイル(ハーヴェイ・カイテル)ほか、ハリウッドの人気俳優や元サッカー選手といったセレブがそれぞれの理由でバカンスを過ごしている。そこでの日々を終えたフレッドは葛藤の末に心を決め、終盤でその「シンプル・ソング#3」を女王陛下の前で指揮するのだが、BBC交響楽団の演奏をバックに韓国出身のソプラノ歌手、スミ・ジョーが本人役として登場し、素晴らしい歌声を披露している。ロシアのヴァイオリニスト、ヴィクトリア・ムローヴァによるタイトル通りのシンプルなフレーズに始まり、穏やかながら次第に盛り上がっていく曲調は、アカデミー賞ノミネートも納得の美しさだ。
デヴィッド・ラングはNYの現代音楽家で、“ミニマル第3世代”の旗手である音楽集団、BANG ON A CANのメンバーのひとり。本作では「シンプル・ソング#3」以外にも「Just(After Song of Songs)」や「Wood Symphony」などを書き下ろしている。前者は女声トリオがミニマルな歌詞を延々と歌い継ぐ歌曲、後者はアルプスの放牧地でフレッドが牛たちを相手にタクトを振り、カウベルや牛の鳴き声、鳥の羽ばたきが刹那のシンフォニーを奏でるというファンタジックな小曲となっている。
また、デヴィッド・ラングのオリジナル曲のほかにも、本作ではドビュッシーやストラヴィンスキー、イギリスのポップ・シンガーのパロマ・フェイス、アメリカのシンガー・ソングライターのマーク・コゼレックらの曲も使用されており、そのジャンルの幅広さからも作品の器の大きさを計り知ることができる。(後編へ続く…)
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