世界を席巻する韓国映画界、助成金の審査基準には日本の官僚主義ではあり得ない項目が!
フランス、韓国は収益化の循環が確立。一方、日本では…
【日本映画界の問題点を探る/世界標準から周回遅れの状況を変えるために 3】ハラスメント問題と並行して、以前から深田晃司監督が問題提起をしていることといえば、日本の助成金について。3作続けてフランスの助成金を活用してきた深田監督だからこそ、日本の制度に対しては思うことがいろいろとあると話す。
・【日本映画界の問題点を探る/世界標準から周回遅れ〜 1】肘鉄やドロップキックが当たり前の現場…
「まず、日本はほかの国と比べても文化予算が非常に少ない国というのが挙げられます。ただ、フランスや韓国を例に挙げてみると、どちらも文化予算だけに頼っておらず、業界内でお金を循環させるシステムを確立してます。チケット代の収入を一部プールして分配したり、テレビ局の収益の一部を再分配したりして、映像業界全体で資金を循環させています。でも、日本にはそういった仕組みがありません」
業界として発展させていきたいと思うのであれば、各々が目先の利益に囚われてしまうのではなく、お互いに支え合っていくことの重要性を改めて思い知らされる。しかし、“頼みの綱”である助成金でさえも改善すべき点は多い。
「文化庁の助成金に関していうと、映画づくりのリアルに即していない現状があります。映画づくりというのは現場でカメラを回しているときだけではなく、脚本開発から脚本の執筆、撮影、ポストプロダクション、編集があり、そこから配給、宣伝、そしてやっと劇場で上映。こういった長いサイクルから成り立っていますが、文化庁のサポートは撮影や編集に対してだけとか、非常に限定的になっています。最近は、経済産業省で脚本に対する助成金もできましたが、経済産業省という特性上、商業性の高いものが中心になりがちな印象です」
そのほかにもさまざまな問題があるというが、なかでもある日本の慣習が弊害になっていると続ける。
「大きな問題となっているのは、年度末縛りがあること。映画づくりというのは長い時間がかかるものですが、条件のなかに『9月に助成金がおりた作品は翌3月までに試写をすること』というのがあり、非常に使いづらいシステムとなっています。最近は1年ほど猶予ができて少し緩和されてはいるようですが、海外との合作に対しての助成金はいまだに年度末縛り。海外の人たちからすると、日本の年度末って言われても意味わからないですよね。映像分野の意見を集約できるような統括機関を業界に作って省庁と渡り合い、映像制作のリアルに寄り添った制度設計を行なっていく必要があると思います」
では、海外の助成金制度から学ぶべきところがあるとすれば、どのようなことがあるのだろうか。
韓国の映画助成金、審査基準に「大衆が理解しがたい映画」がある先見性
「僕が3本の映画に対していただいたのはフランスの助成金で、これは“フランスから見た外国映画”に向けた助成金。さまざまな国の映画人がこの助成金をもらっています。とはいえ、クオリティについての脚本の審査があるので、日本よりも取りやすいということはありませんが、そもそも外国映画に助成金が出ることに驚きました。同時に、表現の自由が守られていると感じています。これはアートの世界で起きたことですが、シンガポールの作家が当時のサルコジ政権を批判する作品を発表した際、美術館の館長の判断で展示を取りやめたことがありました。そのときに『表現の自由の侵害だ!』と訴えてデモを起こしたのはフランス人の作家たち。それくらいフランスにおいては、表現の自由というものが世論によって守られている状況です」
現在、映画界でもっとも勢いがある国の一つと言われているのが韓国だが、助成金の例を見るだけでも、近年の成功には業界の努力があったことがわかる。
「韓国では反政府的なアーティストを記載した“ブラックリスト事件”があったので、フランスよりもセンシティブなところはありますが、基本的に『KOFIC(Korean Film Council)』と呼ばれる韓国映画振興委員会が大きな役割を果たしています。そのなかで、多様性のある映画を対象にした助成金の枠があり、規模の小さなアート系作品やドキュメンタリーといったものをサポートしているのですが、驚かされるのは審査の基準。『芸術性や作家性を大事にする映画』『映画のスタイルが革新的であり、美学的価値がある映画』などで、ここらへんまではよくある項目というか容易に理解できるのですが、次が『複雑なテーマを扱い、大衆が理解しがたい映画』です。最初に見たときは、『これを書いちゃっていいの?』とびっくりしました。他にも『商業映画の外で文化的・社会的・政治的イシューを扱う映画』というのもありました。その是非はともかくとして、たとえ商業性が低くても、多様性を支える映画にこそ積極的に助成金を出すという韓国の映画界の明確な意志を感じます。おそらく政府の抑圧や商業主義が激しい中で、つねにせめぎ合い戦っているからこそあえてこういった助成制度を打ち出している側面もあるのだろうと思います」
ただ、海外からすると日本は“映画が作りやすい国”に見えている部分もあると分析する。
「もちろん人口が多いからというのもありますが、年間250本制作されているフランスに対して、日本は600本以上。そういう意味では、多様性があるように思われるかもしれません。でも、その内情はスタッフたちによる多くの“貧困労働”によって支えられているので、本当の意味での多様性とは何かを考えさせられます。多様な映画というのは、多様なお金の集め方のパッチワークによって作られていきますが、文化予算も文化への寄付も少ない日本ではまだまだそのパーツが少なすぎる。韓国ではハラスメント講習の費用も『KOFIC』が負担してくれるようになっているので、日本でもそういったところから少しずつ始めていくべきではないかなと思っています」(text:志村昌美)【4「映画の政策のことは政治家や役人に任せておけばいい」で邦画界の衰退は止められるのか?(2023年1月29日掲載予定)】に続く
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